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.JID  投稿日:2018/12/16

美容業界に革新”ファストサロン”とは


Japan In-depth 編集部(小寺直子)

【まとめ】

・美容室は増加傾向だが、店舗過剰、客数減少で厳しい現状。

・トレンドヘアーをリーズナブルな価格で提供する“ファストサロン”が人気。

・IT時代のサービス業の革新が景気停滞のブレークスルーになるかも。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43242 でお読みください。】

 

 美容室で「髪を切る」というサービスは、ほとんどの人が年に数回は提供を受ける、現代生活になくてはならないサービスである。人口減少に伴い、美容室の利用者自体減っているはずなのだが、いたるところに美容室が新設されている気がするのは筆者だけだろうか。

 

実際のデータを調べてみると、平成27年の美容所の数は23万7,525施設で、前年度比1.5%の増加、従業美容師数は、49万6,697人で前年より9,061人増加している。また、平成27年度中に新たに美容師免許を取得した者は1万9,005人であり、増加傾向だ。(参考:衛生行政報告例。免許登録者数は、(公財)理容師美容師試験研修センター調べ) 美容室の増加を肌で感じていたのは、あながち見当違いではなかった。

 

ちなみに、2016年度の全国のコンビニ数5万7,818店と比較しても、美容室の多さがお分かりいただけるだろう。(2017年日本フランチャイズチェーン協会発表)美容室のメッカ、表参道を散策すると、石を投げれば美容師に当たると言っていいほど美容室が至る所にある。

 

しかし、美容業界を取り巻く環境は厳しい状況が続いている。近年の「店舗過剰」、「低価格化」、「客数の減少」は利益の減少の要因となっている。特に「客数の減少」については経営者の多くが経営上の問題として第1にあげている。ほとんどの店舗で新規顧客用の割引クーポンを提供しており、低価格化が進んでいる。

 

美容業は美容技術」、「接客サービス」、「店舗イメージのどれが欠けてもリピーター顧客の獲得が難しい。新規来店者のほとんどが、ホットペッパーなどの口コミサイトや、近しい人からの紹介であり、日頃の店内活動が顧客獲得の重要なポイントだと考えられる。客は飲食など他のサービス業に比べても高い料金を払って、最低でも1時間、カラーやパーマの場合は3時間程度店内で過ごす。顧客獲得のためには店内が常に清潔で、心地よいサービスを受けられる、明るく居心地の良い場所でなくてはならない。低価格の客単価でこのサービス品質を保つことは並大抵の経営努力では実現できない。

 

 筆者は、長らく同じ美容室に通っていたが、担当者の産休に伴い、ここ数年新しい美容室を探し続けていた。海外旅行に行く時は現地で美容室に行く習慣もあって、新規顧客として美容室に行く機会はかなり多い方だ。どの国の美容室と比較しても日本の技術レベルの高さ、接客のきめ細やかさは群を抜いているが、日本国内だけで比較すると差別化が図られておらず、リピーターになる決め手に欠けると感じていた。

 

しかし、先日、ついにまた通いたいと思える美容室に出会った。 渋谷にあるALBUM  という美容室である。ここを選んだ理由はオンライン口コミサイトで6400件という口コミ数だったからだ。最激戦区で圧倒的1位である。期待を膨らませて向かったわけだが、結果は期待を超え、目から鱗の連続だった。公式インスタグラムのフォロワーは36万4000人スタジオのような一角で行われる顧客のビフォー・アフターの写真撮影、オンラインアプリで作成されるカルテはアプリで共有帰宅後に交わす担当者とのメッセージ、毎日更新される最新ヘアーやメイクの動画。この写真付きのカルテより、次回は的確なカット、カラーをオーダーできるだけでなく、自身のヘアスタイルの変遷も蓄積されて行く。極め付けは、カットとシャンプーで3000円という低価格だった。筆者が来店したのは平日の午前中にも関わらず客で溢れていた。

△アプリの画面 

 

この、斬新な美容室の代表は『価格.com』や『食べログ』を運営する『カカクコム』の創業者、槙野光昭氏であることは後日知った。28歳で会社を売却し、一線を退いていた彼が十数年の時を経て美容業界に進出したのだ。彼が目指すのは「最新トレンドヘアーを毎月通える価格で提供する“ファストサロン”」だ。

 

SNSマーケティングに特化し、社員教育の一環にインスタ活用を設けているという。会社説明会までもインスタライブで実施する。地方に住む人も、時間がない人も誰でも説明会に参加でき、SNSに強い学生のリクルートにも役立つ。また、学生側は実際に働いている美容師の人柄や職場の雰囲気もインスタを通して事前に知ることができ、入社後のギャップが起きずらい。まさにSNS世代のハートを掴むプロモーションだ。新卒採用の初月給は22万7000円という美容業界ではかなりの高水準を実現している。美容業界は「仕事がきつい」、「給与水準が低い」という理由から離職率も高い。ALBUMはそんな美容業界に風穴を開け第一線を走り続けている。

 

 豊富な美容情報と徹底的な顧客データの管理は顧客への的確なアドバイスを実現する。それは美容師と客との一層深いコミュニケーションから信頼関係へと発展し、リピートに繋がる。客が感じる居心地の良い雰囲気は、そこで働く従業員からも伝わる。何より従業員が明るく、楽しく、安心して働け、経営者との信頼関係が良好でなくてはならない。顧客に店の技術と人に対する信頼関係を築いてもらえるように、経営者と従業員が一体となって取り組むことが大切なのではないか。こうした美容業界の革新モデルは、他のサービス業にも波及する可能性がある。モノ消費が頭打ちの時代に、サービス業の革新が新たな需要を掘り起こすことを期待したい。


トップイメージ図 photo by Jo_Johnston


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