「自分の選択を生きる社会へ」ふたりぱぱ
「今、あなたに聞きたい」
Japan In-depth編集部 (石田桃子、佐田真衣)
【まとめ】
・同性婚で子供を授かりスウェーデンで暮らす、みっつん氏を取材。
・家族の形は多様で、ひとつではない。
・他人の生き方を否定しない社会が望ましい。
「今、あなたに聞きたい」は様々な分野で活躍する方に取材をし、応援する企画だ。
今回は話を聞いたのはみっつん氏。男性であるみっつん氏のパートナーは男性のリカ氏。2人はサロガシー(Surrogacy)という方法で子供を授かった。現在3歳になる息子さんと3人でリカ氏の故郷スウェーデンで幸せに暮らしている。彼らの生活について伺い、もっと多くの人に”家族のあり方はひとつではない”ことを知ってもらいたいという思いから取材を依頼した。
・サロガシーとは
皆さんはサロガシー(Surrogacy)という言葉について、どのくらい知っているだろうか。名前くらいは聞いたことあるかもしれないが、日本ではまだあまり認知されていない。
サロガシーとはなんらかの理由で子供を産むことができない人が、代理母に依頼して妊娠・出産までの過程を行ってもらうことで、不妊治療の一つだ。サロガシーには、トラディショナルサロガシー(Traditional Surrogacy)とジェステイショナルサロガシー(Gestational Surrogacy)の二種類がある。
トラディショナルサロガシーは「人工授精型」とも呼ばれ、卵子提供者と代理母が同一人物である。ジェステイショナルサロガシーは「体外受精型」とも呼ばれ、卵子提供者と代理母が別人である。最近行われているサロガシーのほとんどがジェステイショナルサロガシーだ。
みっつん氏がサロガシーを選択しようと思い始めた当時は、情報が少なく苦労したという。日本にいるLGBTの方で子どもが欲しくても諦めていた人たちに、自分達が経験したリアルな情報が届けば、という思いから2015年に「ふたりぱぱ」というブログの運営を始めた。今年8月には「ゲイカップル、代理母出産(サロガシー)の旅に出る」という書籍の発売に至った。
現在では、SNSや動画でも積極的に発信を続けており、子供を諦めていた日本の性的マイノリティの方に希望や勇気を与えている存在だ。
写真)リカ氏とみっつん氏
提供)みっつん氏
・多様性を受け入れるスウェーデン
ご存知のようにスウェーデンは社会保障制度がとても充実している。実際のスウェーデンの子育て事情を聞いた。
みっつん氏は、スウェーデンでは育児休暇をとることはごく当たり前のことだという。
日本では育児休暇を年単位で取ることが一般的だが、スウェーデンでは、一度に取り切る必要がなく、例えば、週3日働き、後の2日は育児休暇を取得する、といったフレキシブルな働き方を選択できる。収入を減らすことなく子供と過ごす時間が増えるだけでなく、仕事から完全に離れるわけではないので、自身のキャリアが途切れることがない。また、仕事に復帰しやすいというメリットもある。
共働きが一般的であるスウェーデンでは育児休暇を平等にとっている家庭が多い。ちなみに、スウェーデンの育児休業取得率は、女性では8割強、男性では8割弱である。
しかし、日本では父親、母親というジェンダーによって社会的役割が固定化されがちだ。男性の育児休暇取得率が伸びてきているとはいえ、まだまだ低いのが現状だ。
みっつん氏はロンドンに住んでいたころから、親の役割について考えてきたという。特にスウェーデンで暮らしている時、「自分たち家族にあった選択ができる社会に暮らすうちに、ジェンダーによる役割や社会的役割ということがあまり意味がないことに気が付いた」と述べた。
次にスウェーデンでの多様性を受け入れる土壌はどのようにしてできたのか聞いた。
「スウェーデンは人権教育や男女平等の流れが強く、いかに男女間の格差を埋めるかに尽力してきた歴史がある。男女という以前に人として大事なものは何かを議論してきた。人権に対する強い当事者意識から、多様性を受け入れる土壌ができたのではないか」とみっつん氏は述べた。
・子供の育て方
筆者はシングルマザーの家庭で育ったが、小学校までは周りに同じような境遇の友人がいたことから気にしたことはなかった。しかし、私立中学校に進学し、自分の知らないところで自分に関する噂が一人歩きしている事を知って驚いた。それまで自分の家庭は特別ではないと思っていたが、噂が広まるにつれ、隠さなくてはいけないことなのかと悩んだ時期もあった。今でも話す時には若干の抵抗がある。
みっつん氏の家庭は日本ではまだあまり多くない家族の形かもしれない。好奇心からの質問をされることもあるだろう。みっつん氏が子供を育てるうえでどんなことを大切にしているのだろう。そう思って聞いてみた。
写真)リカ氏
提供)みっつん氏
「周りの環境や社会は、なかなか簡単に変えられるものではない。噂が広まったり、心無い言葉を言われることもあるかもしれない。でも、周りがどうであれ、あなたはとても大切で素晴らしい人だよ、と自尊心を持てるように育てていくのが大切だと思う。また、子供の社会は他人と違うというだけでいじめに発展することもあるが、それは男女の両親を持つ子供も同じだろう。その時に大切なのは、その子供に対してどのようにサポートしていくかだ」と述べた。
日本と違いスウェーデンではいろいろな形の家族がある。日本のようにこうするべきだという先入観はむしろ自分を締め付けてしまう。そうではなく、「もっと自由でいいんだよ、ということを子供の頃から教えることが大切」と述べ、子供の自主性を尊重し、育むことが重要だとの考えを示した。
・LGBTという呼び方
今回みっつん氏にインタビューするにあたって、性的マイノリティの人たちの呼称としてLGBTやさらにQueer/Questioningを追加したLGBTQ、さらにはInter-sexやAsexualも加えたLGBTQIAなど様々なものがあることを知った。そうした呼称そのものが性的マイノリティの人々のイメージ固定化することにつながる、との批判もある。これに対するみっつん氏の考えを聞いた。
「LGBTQという言葉も、一人一人違うんだということを気づくきっかけでしかない。同性愛者というのも、個人の一つの特性や側面にすぎない。 性的指向や性自認のグループの傾向と、個人の性格や考え方などは必ずしもイコールではないのに、日本では個人がなにか集団に属した時、十把一絡げにまとめられてしまう傾向がある気がする。会社や学校、どんなグループに属しようが個人は別に存在する人格であり、それは尊重されるものという考えが浸透すれば、LGBTQの呼称も気にならなくなると思う。」
・これからの社会
みっつん氏は「シャーンファミリェル」という本も紹介してくれた。この本は様々な家族が登場する。みっつん氏の家庭のような“ふたりぱぱ”の家族もいれば、養子縁組をした家族も登場する。スウェーデンではこういった絵本が充実しているそうだ。このような絵本を子供に読み聞かせをすることで固定観念がある両親の再教育にもなるだろう。
最後にみっつん氏は「他人の生き方を否定しない社会になればいい。色々な選択をする人がいて、それが自分と違っても否定しない。人を傷つけたり迷惑をかける生き方は肯定できないが、それぞれの自分の選択を生きる社会っていうのがいいんじゃないかな。」と、これからの社会のあり方に期待感を示した。
みっつん氏は私たちの取材に対し「(違う形の家族に)興味を持ってくれるのがなによりも嬉しい」と述べた。筆者の周りでも、セクシャルマイノリティに対しての理解はまだまだだと思う。もし、他人と違うことで悩んでいる人がいたら、その人にこの記事が届けばいいと願う。
写真)リカ氏とみっつん氏
提供)みっつん氏
トップ写真)リカ氏とみっつん氏
提供)みっつん氏