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.国際  投稿日:2019/2/5

緊迫ベネズエラ 米、軍事介入説


山崎真二時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・トランプ政権によるベネズエラへの軍事介入が現実味帯びる。

・イラン・コントラ事件の元次官補をベネズエラ特使に起用。

・「内戦」「反米」「米国人に被害」…軍事介入への3つのレッドライン。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=43966でお読みください。】

 

 ベネズエラ情勢が緊迫の度を増している。またぞろ、米国の軍事介入説もささやかれ始めた。果たしてトランプ政権はどう出るのか。

当面は経済制裁強化だが・・・

 「すべてのオプションがテーブル上にある」‐トランプ大統領が1月23日、ベネズエラのマドゥロ大統領の代わりにグアイド国会議長を「暫定大統領」として認めると発表した直後、ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)はこう述べた。軍事介入も選択肢としてあると解釈できる発言だ。ただ、ボルトン補佐官は「(米政府は)マドゥロ政権の収入源を断ち切ることに全力を挙げる」とも強調した。同28日、米財務省がベネズエラの国営石油会社(PDVSA)を経済制裁の対象に指定したと発表したのは、このボルトン補佐官の発言を裏付ける。トランプ政権は当面、マドゥロ大統領退陣を求め、経済制裁をさらに強化するとの受け止め方が一般的である。

写真)マドゥロ大統領(中央)

出典)マドゥロ大統領twitter

イラン・コントラ事件の元次官補がベネズエラ特使に

 しかし、トランプ政権内で軍事介入への準備とも受け取れる動きもある。トランプ大統領がグアイド国会議長を「暫定大統領」と認めると発表してからわずか2日後、米国のベネズエラ特使に中東・中南米問題専門家エリオット・エイブラムズ氏が任命された。エイブラムズ氏はレーガン政権時代に国務次官補、ブッシュ元大統領(ジュニア・ブッシュ)政権下では大統領副補佐官(国家安全保障担当)などを務めた経歴を持つ。1980年代に米政界を揺るがしたイラン・コントラ事件に深く関与したほか、2003年のイラク侵攻を早くから強力に主張した人物として知られる。米政治専門メディア「ポリティコ」は「エイブラムズ氏は典型的なネオコン」と評する。

写真)記者会見するエリオット・エイブラムズ氏(左)とポンペオ国務長官(2019年1月25日 米国務省)

出典)State Department Photo / Public Domain

 

 ベネズエラの有力紙「エル・ウニベルサル」の政治記者はエイブラムズ氏について「かつてイランへの武器売却代金をニカラグアの反政府ゲリラ(コントラ)支援に流用した秘密工作の立案者であることから、中南米の左派政権の間では以前から、要警戒人物とされてきた」と指摘するとともに、「2002年に当時のチャベス・ベネズエラ大統領追放を企てたクーデター未遂事件に米中央情報局(CIA)を介入させた張本人」と断言する。

 「ワシントン・ポスト」やCNNなど米主要メディアによれば、エイブラムズ氏は一時、国務副長官への起用が検討されたが、2016年の大統領選挙期間中、反トランプ的発言をしていたことからトランプ大統領がこの人事案を却下したという。今回、トランプ大統領がエイブラムズ氏の特使起用を認めたのは、ボルトン大統領補佐官の強い推薦があったからだとの情報もある。

 米国と中南米関係を詳細に伝えるマイアミのスペイン語新聞「ヌエボ・ヘラルド」によれば、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)では、昨年夏に就任したキューバ系米国人のクレバーカロン上級部長(西半球地域担当)が中心となって強硬な対キューバやベネズエラ政策を作成しているという。米国の中南米問題のシンクタンク「インターアメリカン・ダイアログ」のベネズエラ問題専門家は「ボルトン補佐官とクレバーカロン氏のチームに、エイブラムズ氏が加わり、トランプ政権の対ベネズエラ政策は、軍事介入も含め一層タカ派的傾向が強まるだろう」と予想する。

写真)ボルトン大統領補佐官

出典)ホワイトハウス ホームページ

 米国の軍事介入説はこれまでも取りざたされてきた。しかし、中南米では米国の介入がたびたび行われたという歴史的経緯から反米アレルギーが強いのも事実。トランプ大統領が一昨年夏、ベネズエラへの対応で軍事オプションの可能性を口にするや、中南米各国首脳が一斉に反発したのも、そのためだ。

「人道的軍事介入」は可能か?

 中南米情勢をウォッチしている国連の政治・平和構築局(DPPA)の担当官は「ベネズエラへの米国の武力行使はこれまではトランプ大統領のブラフだったが、軍事介入の可能性は現実味を帯びている」と語る。同担当官によれば、1999年のコソボ紛争で米国を中心とする北大西洋条約機構(NATO)軍が「人道的介入」を行った例があり、「コソボとベネズエラでは違う点も多いが、大規模な人権侵害があり、多くの住民が周辺国に難民となって逃げている状況は共通しており、ベエズエラへの人道的な介入が正当化される余地がある」という。同担当官は「グアイド『暫定大統領』をさらに多くの国が承認し、グアイド氏が人道的見地から介入を要請するなら、安保理の決議なしの軍事介入もあり得るかもしれない」との見方を示す。

米介入の“レッドライン”とは?

 前述の「インターアメリカン・ダイアログ」の専門家は「ボルトン補佐官が最近、中南米は米国の玄関口にあり、トランプ政権の対外不介入方針はこの地域には適用されない旨強調している点に注目すべきだ」とし、米国が軍事力行使に傾く可能性に言及した。「米国単独ではなく、多国籍軍によるベネズエラ介入も検討されるかもしれない」という。

写真)米国によるベネズエラ国営石油会社(PDVSA)への制裁を非難するマドゥロ大統領 (2019年1月28日 カラカス)

出典)ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)ホームページ

 

一方、ペルーの元外交官で、同国のカトリカ大で米国の中南米外交を長年研究している政治学者は「トランプ政権がベネズエラへの軍事介入に踏み切るのは、同国の情勢が越えてはならない一線を越えたときだ」とし、

1)ベネズエラ国内の混乱が拡大し、内戦状態に陥る 

2)米国が対ベネズエラ石油禁輸を断行しても、マドゥロ政権が反米強硬姿勢を崩さない 

3)ベネズエラ在住米国人や米国企業に直接的な被害が生じる

の3つのケースを”レッドライン”として挙げている。ベネズエラをめぐる情勢はここ当分、目が離せなくなりそうだ。

トップ画像:トランプ米大統領は「民主主義を回復させるベネズエラの人々の努力を支持する」と表明した。(2019年01年29日)

出典:ホワイトハウスホームページ

 

 

 


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