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.国際  投稿日:2019/3/26

トランプ氏、窮地はこれから


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・「ロシア疑惑」大統領関与の証拠無。だが全容解明とは言えず。

・独自調査を控えてきた議会がマラー調査報告の資料提出を要求。

・大統領の疑惑は多岐に及び、調査は下院中心にこれからも続く。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44869でお読みください。】

 

ロシアの米大統領選挙への介入疑惑について、ロバート・マラー特別検察官の調査結果の報告書がまとめられ、ウィリアム・バー司法長官に提出された。そのニュースに全米のマスコミが沸き立った週末が明けて、その内容が一部だけ司法長官の解釈という形で明らかになった。

▲写真 ロバート・マラー特別検察官 出典:Public Domain(Wikimedia Commons)

 

これまでの調査で、ロシア政府がヒラリー・ロダム・クリントン候補を貶め、ドナルド・トランプ陣営に加担するという形で米大統領選挙に介入していたことが分かり、ロシア側の首謀者は既に起訴された。また、トランプ大統領の元側近は直接の選挙妨害とは別の罪状で起訴されている。報告書はそこにトランプ氏自身や側近たちがどれだけ関わっていたかを調査したものだが、結局トランプ氏はマラー調査委員会の前で証言することはなかった。

トランプ陣営とロシアとの関わりについては「共謀や協力を示す証拠は得られなかった」というバー司法長官の言葉に集約された。これをトランプ大統領は「容疑はすっかり晴れた」と得意げに吹聴しているが、一方でロシアによる介入隠蔽に大統領自身が関与ていないこと立証されていない」という部分には触れていない

▲写真 ウィリアム・バー司法長官(2019年3月8日) 出典:The United States Department of Justice facebook

 

バー司法長官は、就任前からこのマラー特別検察官の調査に反対の意向を示しており、議会に調査内容を報告した際もその態度は変わっていない。文面から判断すると、いかにもバー司法長官が調査報告の内容について、なるべくトランプに都合のいいように要約した、という印象で、米議会では報告書の全開示を求める声が上がっている。既に下院では満場一致で報告書の開示を要求する議決がなされている。

過去の事例をみると、ビル・クリントンの女性関係とその隠蔽疑惑の真偽を調査したケニス・スター特別検察の報告書は一般に公開され、本としてまとめられている。今回の特別検察官報告書は、ロシアとの外交機密やスパイ工作に関する部分については、すべてを国民に開示するわけにはいかないだろうが、しかるべき箇所を除いては、議会にも公開しないという措置は認められないだろう。

▲写真 不倫疑惑で調査を受けたビル・クリントン元大統領 出典:Public Domain (Wikimedia Commons)

 

さらに、これまで「マラー特別検察官による調査を妨害したり、調査内容が重複したりしないよう」にと、独自調査を控えていた米議会の上下両院の委員会では、ロシアとの共謀以外のトランプの違法行為を追及するのに、なんの遠慮も要らなくなった。各委員会は、このマラー調査委員会が集めた資料を証拠として引き渡すよう要求していくだろう。

 

▲写真 民主党・ジェラルド・ナドラー下院司法委員長。トランプ大統領の司法妨害疑惑などの調査を続ける意向を示した。出典:Congressman Jerry Nadler facebook

 

マラー特別検察官の報告書は、大統領選挙の前後におけるロシア政府との癒着があったかどうか、という非常に狭い範囲にフォーカスが当たっていたわけで、トランプ大統領が違法行為をていなかったという証明にはならない。むしろ、今後は米下院が中心となって大統領の違法行為を調査していくスタートラインに立ったというだけだ。

トランプ大統領が疑われている違法行為は

 

1)選挙期間中の女性問題をもみ消すために、違法に支払いがなされ、隠蔽工作があったかどうか、

2)選挙期間中、あるいは当選後にもモスクワにトランプタワーを建設するためにロシア政府やプーチン大統領と違法な商取引を続けていなかったかどうか、

3)サウジアラビアやロシアとの利害関係にある娘婿ジャレッド・クシュナー氏や娘のイヴァンカ氏に、FBIの反対を押し切って外交機密権限を与えていなかったかどうか、

4)選挙中に脱税行為があったかどうか、

5)大統領就任後も、ホワイトハウス界隈のホテルを通して違法に私益を得ていたかどうか

 

など多岐にわたる。

大統領の身辺調査は、その場が特別検察官の調査から下院の諮問委員会に移っただけで、これから2年間は続くと予想される。

 

トップ写真:トランプ大統領 出典:The White House Homepage


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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