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.国際  投稿日:2019/4/28

トランプの無知と無能 マラー報告書


大原ケイ(英語版権エージェント)

「アメリカ本音通信」

【まとめ】

・マラー報告書、4月18日に公表された。

・露政府の意図は「トランプ氏当選」だった、と報告書。

・トランプ任期中議会が弾劾か、任期後連邦政府が起訴か、と報告書示唆。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されないことがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=45477でお読みください。】

 

3月22日に提出されたものの、ウィリアム・バー司法長官が出し渋っていたマラー報告書が418日に公表された。連邦政府の公文書なのでパブリック・ドメインのコンテンツとして各マスコミに貼られたリンクから黒塗りの部分が多いながらも全文が読める。

法律上この報告書は司法長官に提出され、司法長官は米議会に対し「しかるべき」報告をすることになっていたのだが、バー司法長官は内容が二転三転する走り書きのメモのような手紙を公表するだけで、米議会の民主党員や一般市民の怒りを買った。

記者会見をしても「(ロシア政府とトランプ陣営の)collusion(共謀)はなかった」とドナルド・トランプ大統領お得意のフレーズを繰り返すだけ。調査中は一切の沈黙を固く守ってきた調査委員会メンバーから「我々の作った報告書と違う」との声もあがりはじめ、隠し通せる見込みがなくなったのであろう、今度は「一般公表するためには、大掛かりな墨消しが必要だ」と結局1ヶ月近くも公開を渋ったのだった。

さてそのマラー報告書、開けてみれば2部構成448ページ。前半がロシア政府による大統領選挙への介入の実態、そして後半が当局の捜査に対する司法妨害が行われたかどうかの検証となっている。トランプやバーは「両方の容疑に関して大統領はシロ」と宣言したが、報告書を読めば、これをどう曲解して解釈してもそうではないことがわかる。

▲写真 ロバート・マラー特別捜査官(右)出典:Flickr; Medill DC

まず第1部の「ロシア政府関連機関による2016年の大統領選挙への介入」に関する部分だが、介入は既に立証され、34名が起訴されている。だがもちろん、ロシアとアメリカの間で犯罪人引き渡し条約が締結されていないので、裁かれることはないだろう。ただ1人、アメリカ国内でスパイとして拘束されたマリア・ブティナについては18ヶ月の刑期が求められ、まだ和解のための情報提供が続いている

▲写真 マリア・ブティナ氏(2014年)出典:Flickr; Pavel Starikov

報告書の中で、ロシア政府の意図はただ選挙を混乱させる目的からドナルド・トランプ候補を当選させることにシフトしたと明言されている。問題は、アメリカにとって非友好国であるロシアが自分を当選させようとする地下活動に、トランプの選挙活動スタッフがどれだけ積極的に関わり、協力していたかであり、既に元選挙対策本部長ポール・マナフォートや、国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリンらが有罪となっている。だが、トランプ本人はどうなのか?

▲写真 マイケル・フリン氏 出典:Flickr; Gage Skidmore

トランプがお題目のように唱えるCollusion(共謀)は厳密には法律用語ではなく、調査対象はConspiracyがあったかどうかで、そのためにはcoordination(相互協力)の証拠が必須なのだが、そのためにはトランプ自身が、ロシアの協力を得ることは違法だという自覚があり、意図的に協力したことを立証しなければならない。だがトランプは最後までマラー調査委員会の諮問に応じることはなく、書面で質問に返答したにとどまった。マラー報告書では、その書面でトランプは数十回も「記憶にない」とごまかしていたことがわかった。

マラー特別捜査官は、今回の調査ではトランプ自身がロシア側からの協力の申し出を違法と認識し、意図的に協力したとは言えないとしている。

第2部ではまず、米司法省が現職の大統領を起訴することはできないという見解ありきなので、もし、今回の調査で妨害行為がなければなかった、つまりシロだったと報告することはあっても、その反対に妨害行為があったので起訴することはない、と前提があった。だが、そこに書かれていたのは、大統領自身による具体的な司法妨害の数々である。

つまり、マラー特別捜査官は、司法妨害の証拠はこれだけあったが、それについて大統領に対し、どう措置を取るかは我々の仕事ではない、と言っているわけだ。ただ、この調査報告書と集められた証拠を材料に、米議会が任期中にトランプを弾劾するもよし、そうでなければ大統領の任期が終わったその瞬間に連邦政府や州政府が彼を起訴するのならそれもよし、と示唆している内容なのだ。

皮肉なことに、ロバート・マラー特別捜査官が罷免されず、報告書が無事に提出されたことが、司法妨害が成功しなかったことを証明しているのだ。だが、そこにトランプ大統領の妨害への明確な意図も、行動も詳細に報告されている。要するに、彼がマラー特別捜査官を排除しようとあれこれ画策するも、顧問弁護士や側近の誰1人としてそれを実行しなかったということだ。

トランプ大統領は、起訴されなかったのだから自分が無実なのだと吹聴したいようなのだが、この報告書が言っているのは、第1部では、トランプがあまりにも無知で、ロシアと協力するのが違法だという自覚すらなかった可能性があること、第2部では、トランプが上司としてあまりにも無能なので、周りの部下がマラー罷免という究極の妨害行為が達成されるのを回避したと言っているのだ。

トップ写真:トランプ大統領とプーチン大統領 出典:ロシア大統領府


この記事を書いた人
大原ケイ英語版権エージェント

日本の著書を欧米に売り込むべく孤軍奮闘する英語版権エージェント。ニューヨーク大学の学生だった時はタブロイド新聞の見出しを書くコピーライターを目指していた。

大原ケイ

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