米、子供に糖尿病リスク拡大
ファイゲンバーム 裕香
「裕香のFrom California」
【まとめ】
・アメリカの子ども約3分の1近くが太り過ぎで糖尿病予備軍。
・全米学校給食プログラム提供のランチを食べる子供は肥満傾向。
・食生活改善の役割を担う学校給食の早急な改善が求められる。
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アメリカの肥満問題は、深刻だ。アメリカで生活する子どもの約3分の1近くが太り過ぎで、糖尿病予備軍とも言われている。去年3月に医学誌のJournal Pediatricsが発表した論文では、この肥満問題は、5歳以下の子どもにも広がっていて、2歳から5歳の子どもたちの26パーセントが太り過ぎで、そのうちの15パーセント以上が肥満であることが分かった。1970年代以降、その数は3倍にも膨れ上がっている。
バラク・オバマ前政権時代、ミッシェル・オバマ元大統領夫人は、子どもの肥満撲滅キャンペーン「レッツ・ムーブ」を立ち上げ、全米で学校給食の内容が見直された。フルーツ、野菜、全粒粉の穀物を増やし、無脂肪か低脂肪の牛乳のみ提供することや、年齢に合ったカロリー計算をし、糖分、塩分を減らしてトランス脂肪酸を排除することなどの方針を盛り込み、給食の栄養価は著しく改善された。
▲写真 栄養基準を満たす健康的な食事を提供する学校でミッシェル・オバマ夫人が昼食のために子供たちと一緒に昼食。 出典:The White House
しかし、2017年1月のドナルド・トランプ大統領就任後、それまでのオバマ政策を一掃し、レッツ・ムーブの取り組みは排除されることとなった。トランプ大統領は、ミッシェルオバマ元大統領夫人のルールを批判し、「学校の生徒たちは健康的な食事を好んでいないし、大部分の食事が捨てられていた」と述べた。
昨年末に米国農務省が発表した新しい規則によれば、牛乳や、全粒穀物、およびナトリウムの摂取に関しては、地域によって柔軟に対応することが決められた。そのため、給食に糖分の入った牛乳、精製した穀物が出るようになり、塩分の基準が緩和された。
▲写真 ピザのランチを食べるために並んでいる中学生の子どもたち©ファイゲンバーム裕香
アメリカ心臓病学会の調査では、全米学校給食プログラムが提供するランチを日常的に食べている子どもの方が、自宅からお弁当を持ってきている子どもと比較して、肥満傾向にあることが分かった。さらに、学校給食を食べている子どもの方が、高脂肪の食事を食べ、甘い飲み物をとり、野菜やフルーツをあまり食べない傾向にあることも分かった。
▲写真 サラダバーはあるがほとんどの子どもが手をつけない。©ファイゲンバーム裕香
学校でのランチの時間についても、批判があがっている。今年3月に行われたDaily Newsの調査によれば、アメリカの908の市立小学校が、午前11時前に給食を提供していることが分かった。農務省は、学校が午前10時から午後2時の間に給食を提供することを義務付けているが、大規模校では食堂に入れる人数に限りがあるため、例外が認められている。そのため、ニューヨーク市のいくつかの学校では午前10時前にランチがスタートしたり、ニューヨーク市の高校の中には、8時58分にランチが始まるところもある。
▲写真 ニューヨークのSusan E. Wagner High Schoolのランチ時間が記載されているが、8時58分から1時42分となっている©ファイゲンバーム裕香
この早い時間帯のランチによって、不健康な食事を食べる子どもが増えていて、小銭を持っている子どもは、学校の後や授業の合間に、自動販売機で塩辛い、加工食品を買う傾向にあるという。最近の研究では、子どもたちが危険なレベルでナトリウムを消費していることも分かった。調査された子どもたちのほぼ90パーセントが年齢層に推奨されるナトリウムの上限レベルを優に超えていて、8歳から17歳の子どもたちの9人に1人の血圧が正常値を超えていた。食事に含まれるナトリウムが多すぎると、血圧が上昇し、心臓病のリスクも高まる。アメリカの子どもたちは、1日あたり平均3,387mgのナトリウムを消費していて、これはほぼ大人の摂取量と同じだという。
アメリカ心臓協会は、「子どもの健康に関しては、柔軟性はいらない」と昨年末に農務省が発表した規則を批判し、「最初に採用した学校給食のナトリウム基準を満たさないと、子どもたちの健康が危険にさらされることになる」と声明を出した。
保護者からの批判も相次いだことから、ニューヨークの教育局の報道官Barbotは、「学校では、11時前にランチを食べるべきではない。11時前に給食を提供している学校は、2019年-2020年の年次では、可能な限り調整をするように努める」と話している。
▲写真 ランチを待つ子供達 出典:Rick Brady/SNA
カリフォルニアの高校に通う15歳のTinaさんは、「カフェテリアのランチは、ピザかハンバーガーかチップスにクッキーがほとんどで、味も美味しくない。だから家からお弁当を持ってきているの」と話す。
ニューヨークの中学に通う12歳のAnnaさんは「10時にランチが始まるけれど、早すぎてお腹もあまり空いていない。周りでも食事を残す子がほとんどよ」と話す。カリフォルニアの小学校で働いていたLynnさんは「子どもたちは、学校で買う食べ物をよく残しているわ。すごく悲しいけれど、味が美味しくないし、種類も限られているから、仕方ないのかもしれない」と残念そうに話す。
▲写真 学校給食©ファイゲンバーム裕香
健康的な学校給食は、子どもの食生活を改善する重要な役割を担っている。全米栄養協会の調査によれば、給食プログラムのサポートが肥満を予防し、子どもの学力向上にもつながるという。特に給食費を払うことが困難な低所得世帯の子どもたちにとっては、学校での給食が1日の半分以上のカロリーにあたるし、もしかしたら、学校給食がその日唯一の食事かもしれない。 学校で食べる食事は、生涯に渡る食生活にも影響を与えると言われている。アメリカの給食の早急な改善が求められる。
(記事では、学校給食と書いたが、子どもたちはお弁当持参でも良いし、お金を払って学校給食を利用しても良い。給食費を払うことが困難な家庭は、事前に申請して条件が合えば、給食費免除、もしくは一部を減額してもらえる)。
トップ写真:ランチ風景 出典:Rick Brady/SNA