大企業×ベンチャーで社会課題解決促進
Japan In-depth編集部(小寺直子)
【まとめ】
・10月9日渋谷区で「ソーシャル・オープン・イノベーション」が開催された。
・製品の背景まで楽しむことができる社会が本当の豊かな社会。
・ソーシャルベンチャーと大企業の協業が社会課題解決を促進する。
「SDGs」「エシカル」「サステナビリティ」といった言葉は、この数年で耳にする機会が急増している。日本でも一般消費者に少しずつ根付き始めている証拠だろう。一方、大企業はどうだろうか。欧米と比べると社会課題の解決を大きく打ち出し、真正面から取り組んでいる日本企業はかなり少ないのが現状だ。
10月9日、東京都渋谷区で行われた、「ソーシャル・オープン・イノベーション」では、ソーシャルベンチャーと大企業がコラボレーションすることで、互いを補完し、より大きな社会インパクトを生み出している好事例が紹介された。
登壇したソーシャルベンチャーは、株式会社andu amet(アンドゥアメット)代表取締役社長 鮫島弘子さん、株式会社ファーメンステーション代表取締役社長 酒井里奈さん、株式会社ヘラルボニー代表取締役社長 松田崇弥さん。大企業側は、実際にコラボレーションした実績があるJR東日本スタートアップ株式会社と、パナソニック株式会社の担当者が登壇した。
andu ametは、エチオピアの羊の皮でバックを作り販売している。空気のように軽く手触りが抜群。それでいながら、非常に耐久性が高いことが特長だ。世界でも最高峰の皮として認知されているが、最貧国の一つとされるエチオピアでは、これまでは原皮の輸出しかなされていなかった。そこでandu ametでは、エチオピアに工場をもち、現地で採用した職人がハンドメイドで制作することで、利益を現地に還元している。デザインはアフリカや日本からインスピレーションを得ており、”エシカルでありながらラグジュアリー”な唯一無二の存在感がある。
▲写真 andu ametの商品 ©️Japan In-depth
ファーメンステーションは岩手県奥州市の田んぼから発信する、コスメ、雑貨ブランドだ。製造過程でごみを出さない、独自の発酵技術で有効活用されていない資源を製品化するなどサステナブルな取り組みをしている。
▲写真 ファーメンステーションのお米でできたアウトドアスプレーなど。©️Japan In-depth
ヘラルボニーは、知的障がいのあるアーティストが描いたアート作品の社会実装などを行っている。その売り上げの一部は福祉施設へ還元されるビジネスモデルだ。
▲写真 ヘラルボニーの商品。知的障がいのあるアーティストが描いた作品をプロダクトに落とし込んでいる。©️Japan In-depth
■ 3社が目指すゴールとは
鮫島:「このバック可愛いな。エチオピアで作られたんだ。こういう思いがあって作られたバックなんだ。」という製品のバックグランドまで楽しめる社会にしていきたい。物質が満たされた中で、そういうことを楽しめる社会が本当の豊かな社会だと思う。
松田:アートにこだわっているわけではなく、知的障がいのイメージを変えたい。知的障がい者は世界に2億人、日本に108万人いる。アートや福祉は自分には関係ないと思う人もいるが、メッセージをプロダクトに乗せたら、もしかしたら、関心のない人にも伝わっていくのではないかと思っている。
酒井:使われていない資源が、世界中で使われれる社会にしたい。それにはエシカルやサステナブルが説教くさいものでなく、楽しくやっているかどうかが重要だと思う。人を驚かすことが好きなので、「このルームスプレーってりんごのゴミからできているんだ、すごい。」と手にとった人が驚いてくれて、その製品が素敵だったら楽しいと思う。
■ ソーシャルベンチャーと大企業の協業
ソーシャルベンチャーがぶつかる壁は、いかにしてマスに届けるかだ。その打開策が大企業との協業だと語る。
今年7月、andu ametはスターバックスとの共同開発商品を発表した。andu ametのバックをミニュチュアサイズで忠実に再現したバッグチャームで、内側にスターバックスカード機能を持つチップが埋め込まれている。
鮫島:スターバックスの担当者が、品質の良さと、背景に共感してくれて実現した。当初、キーホルダーで1万2000円という設定は高すぎるので、寄付付き商品にしたらどうですか?と担当者に提案したところ、事業そのものに社会貢献性があるので、その利益からさらに事業を拡大し推し進めることが社会貢献だ。寄付付きというのは蛇足だと言われた。そういう時代になったんだ、と嬉しかった。
ベンチャーは現地に直営工房をもったり、自分たちで工場を運営することで、現地の課題に寄り添うことができる。それは大企業には難しい。実際に課題のある現場に寄り添うベンチャーと、それは出来ないが発信力を持っている大企業とのコラボにより、社会に大きな人にインパクトを与えられる。今後はこれがエシカルビジネスの主流になっていくと思う。
▲写真 STARBUCKS TOUCH The Hug 出典:andu amet
ファーメンステーションは、 JR東日本の子会社のJR東日本スタートアップ株式会社と協業を進め、青森県産のリンゴの搾りかすを発酵させてエタノールを抽出することに成功、りんご由来のオリジナルフレグランスのアロマスプレーとアロマディフューザーを商品化した。青森県内の店舗や、都内のショップ等で販売している。
発酵後のかすは牛の餌になり、その肉はメトロポリタンホテル盛岡で提供されている。大企業の使われていない資源を一緒に探し出して活用した事例だ。
▲写真 ファーメンステーションの青森りんごの絞りかすで作ったアロマスプレーと牛の餌。©️Japan In-depth
ヘラルボニーも、パナソニック株式会社のオフィスに知的障がい者のアートを提供したり、東急不動産との「全日本仮囲いアートミュージアム」などと積極的な協業を進めている。パナソニック株式会社の則武さんは「ことさらSDGsを考えているわけではなく、もともと本業で社会貢献をしていくという企業精神がある。そういう大企業はたくさんあると思う。精神はあっても現場レベルまで実行に移せていない大企業とソーシャルベンチャーとの協業のポテンシャルはとても高い。」と語った。
▲写真 Panasonic Laboratory Tokyo 出典:ヘラルボニー
JR東日本スタートアップ株式会社の竹内さんは、ファーメンステーションと協業したきっかけを「『私ゴミ好きなんです。ゴミで世界変えたいんです。』と話す酒井さんの熱意に圧倒されて、何か一緒に出来たらいいな、と思ったのが始まり。日本はSDGsのような、三方良しの考え方が昔からあったのではないか。大企業は社会に影響力があるので、良いものを少しでも社会に広げて行きたい。」と述べた。
多様性の受け入れやサステナブルな取り組みへの価値が急激に上昇する一方、時流に乗り遅れている大企業が多い。ソーシャルベンチャーは、社会課題解決のチャレンジを大企業にはないスピード感でトライできる。こうしたソーシャルベンチャーの強みと、社会に大きな発信力を持つ大企業、そしてマスコミの発信という3つの化学反応が、社会に無限大のインパクトを与えるだろう。
トップ写真:左から松田崇弥さん、酒井里奈さん、鮫島弘子さん ©️Japan In-depth編集部