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.経済  投稿日:2025/6/3

障がい者雇用や多様性は重要~日本経済をターンアラウンドする32


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・アメリカではDEIへの反発が強まりつつあるが、日本ではむしろDEIの推進が重要である。

・障がい者雇用では、障害者の離職率が高いなどの課題があるが、デジタル技術の導入によって新たな就労の可能性が見出されている。

・発達障がい児の子育て当事者である森川友希さんは、発達の遅れなどに悩む親の支援講座の運営を通じ、障がい者が自分の特性を生かし社会参加できる環境づくりを目指している。

 

◆アメリカで反DEIが加速

アメリカのトランプさんが多様性に対して批判的な政策を打ち出しています。DEIというのは、Diversity(ダイバーシティ)」「Equity(エクイティ)」「Inclusion(インクルージョン)」の頭文字をとった言葉で、多様性や公平性、包括性を重視する考え方です。アメリカは、「行き過ぎた」多様性配慮の揺り戻しがおきています。他方、日本においては、失われた30年のためにも多様性、公平性、包摂性がもっと必要で、多様性こそイノベーションを生み出すとこれまで筆者も書いていました(記事参考)

SDGsにおいては、「2030年までに、若者や障害者を含む全ての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、並びに同一労働同一賃金を達成する。」という目標が掲げられています。

◆障がい者雇用の現実

障がい者雇用の現状ですが、社会福祉関連の計画など、厚生労働省、地方自治体の取り組みを見ても、しっかりやっているという感想は私は持っています。しかし、法定雇用率の達成や職場環境の整備など、さまざまな課題があります。企業は一定割合の障害者を雇用する義務があるのですが、実際には達成できていない企業も多く、特に中小企業では負担が大きいとされています。特に、障害者の離職率が高いことも問題の一つです。その理由としては、第一に、業務の切り出しが難しいこと。企業側が障がい者に適した業務を見つけるのが難しく、結果として単純作業に偏ることとなってしまっています。第二に、合理的配慮の不足です。職場環境の整備や柔軟な勤務形態の導入が不十分な場合は、障がい者が働きづらくなってしまいます。まだまだ取り組みを推進していく必要があります。

◆障がい者雇用のDXでの未来

「異彩を、放て。」 をミッションに、障害のイメージ変容と新たな文化の創出を目指すスタートアップ企業、株式会社ヘラルポニーがあります。この企業、自閉症や知的障害のある人たちのアート作品を作成し続け世に出しており、たくさんの企業ともコラボがされ、世界的にも注目を浴びています。

こうして、ようやく障がいを持つ方の可能性に光があたるようになるようにはなってきました。障がい者は様々な個性があり、能力も興味・関心の所在もひとそれぞれ、多様です。デジタル技術はそれぞれの状況に個別対応できるため、可能性は広がるように思えます。しかし、デジタル技術にはいろいろ制約があり、そうもいかないようです。「デジタル技術を活用した障害者の業務の状況と具体例」(障害者職業総合センターによる調査)によると、デジタル化によって業務の効率性や正確性が向上し、業務の手順が単純化し、結果組織全体の生産性が向上したそうです。他方、サポートする時間や頻度が増加、訓練やマニュアルの整備等に時間がかかるようになったという面もあり、なかなか難しいようです。とはいえ、デジタル技術を活用した新しい仕事の可能性としては、アノテーション(情報にタグをつける)、スキャン業務、タブレット操作で備品管理や照合などが紹介されています(前述の障害者職業総合センターによる調査)

◆森川さんに聞く

京都府木津川市で発達障がい児が通う運動教室や不登校児が通う運動に特化したフリースクールを主宰する森川友希さんに話を聞きました。前回紹介した山崎内装工業の「襖」の活動をサポートするなど社会課題について積極的に活動しています。

彼女は6年前に就職したものづくり企業の地域貢献事業の一環としてのプロジェクト立ち上げに関わり、発達の遅れなどに悩む親の支援講座などを手掛けています。現在はその企業を独立し個人で「発達ゆっくりさんを育てる親の子育て支援講座」を運営し、子育てに悩むママたちに確かな安心を与える企画を生みだすコトづくりを行っています。実は、彼女自身が発達障がい児を育てる親の当事者であり、この取り組みは子供の命、親の命を守るうえでも必要だという強い想いを語ってくださいました。「本当の大丈夫、安心を与えたい」「悩むお母さんを元気にしたい」と情熱的に語る森川さん。

初めての子育てと他の子供たちと比べながら、当時の「苦しかった自分を応援したい」という想いと、「あのときの自分に同じような気持ちを味あわせたくない」と思いから行動した、価値あるコトづくりの生み出しの今を取材しました。

◆障がいを持った方の仕事の場を作りたい

▲写真 【出典】El Plat 元フットサル日本代表の原田健司さんとともに森川さんが活動する拠点(筆者撮影)

障がいを持つママの悩みの一つにあがるのはお子さんの就労だそうです。いずれ大人になって社会にどう参画できるのか。親亡き後はどうするの?という不安が常に心を覆うそうです。そんな森川さん自身も将来への不安と向き合いながら日々行動してあり、その行動は、行く行くは、障がい者雇用を生み出せるパートナー企業を見つけるとともに、障がい児者が、自分の得意を見つけられる社会体験やきっかけづくりの場を目指しています。障がい者の雇用は、現在もなかなか難しい状況ですが、技術が発達し、それぞれの特性に対応した環境設定ができれば自分の得意を最大に生かした形(就労)が生み出せると思っているそうです。どんな子(人)も生(行)きやすい街づくりを目指す森川さんの活動を伺い、多様な人たちが構成され、尊重しあい、ともに助け合い、相互の理解を深めることは、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念が体現しつつあるものの、まだ課題は多いと感じました。

トップ写真:京都府木津川市で発達障がい児が通う運動教室や不登校児が通う運動に特化したフリースクールを主宰するフリースクールを主宰する森川さん 出典:筆者撮影




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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