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.国際  投稿日:2024/12/7

トランプ氏はなぜ勝ったのか ドーク教授の分析 その4 宗教の変化が社会を変える


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・1960年代の政治運動と現在の比較が必要。

・キリスト教信者の減少がアメリカ社会に影響。

・投票行動の決定要因は階級から文化へ変化。

 

古森義久「私がアメリカに留学したのは1960年代中ごろでしたが、そのころは全米規模での政治運動というのは起きていませんでした。その後に新聞記者としてワシントンに駐在を始めたのは1970年代の後半でしたから、この時期も暴力的な運動はあまり目立たなかった。ただし、その二つの時期のちょうど中間の時代に起きたベトナム反戦デモなどは現地からの報道で強い関心を抱きながら、フォローしていました。そのころの政治活動と最近の活動の客観的な比較が必要だということですね」

ケビン・ドーク「近年、1960年代を思い出させるような街頭での暴力を目にしたとき、それはしばしば、人種的不公正を是正するための良心的な努力や、ガザの人々の抑圧に対する懸念が原因なのだ、とみなされがちです。しかし あまり注目されないのは、BLM(黒人の命は大切だ、と主張する運動)の主催者たちの間にはマルクス主義思想が存在し、ガザの抗議行動参加者の中に同性愛者やトランスジェンダーの活動家が不釣り合いに多いことです。ガザの問題は本来、性的なアイデンティティー(認識)の問題とはまったく関係はないはずなのに、です。

こうした状況下では一体、なにが起きているのでしょうか。近年の傾向を理解するうえで最も重要な要因は、自分をキリスト教徒とみなすアメリカ人の数が減少していることと、伝統的なキリスト教の性道徳の信念を支持する人々がさらに急激に減少していることなのです」

古森「1960年代の反体制にみえるような活動の背景としては、当時はいまのようにキリスト教信徒の数が大幅に減ってはいなかった、ということですね」

ドーク「そうです。1972年には、アメリカ人の約90%が自分をクリスチャンだと考えていました。 この数字は、1990年ごろまではかなり安定していましたが、その後、現在では約60%にまでの急激な減少を開始しました。この点は1972年から1992年の間に人口の約5%であった『無宗教者』が着実に増加し始め、今日では人口の約29%に達したことと合致します。アメリカの他の宗教、つまりユダヤ教、イスラム教、仏教、ヒンズー教を合わせると、総人口の約6%という水準で安定しています。 だからこの範疇の人たちはアメリカの政治と社会における宗教的変化の重要な要素とはみなされてはいません」

古森「キリスト教信者の数の確実かつ大幅な減少ということですね。この減少がアメリカ社会の思潮を変える。さらに無宗教だと宣言する人たちの比重の変化にも意味がある、ということでしょうか」

ドーク「さらにもっと重要なのは、世論調査機関として有名なピュー研究所の最近の調査結果です。それはキリスト教信者たちは2070年までに多数派の地位を失い、アメリカ全国民の46%になるという予測です。他の予測ではキリスト教信者は2070年の時点で全国民の39%になるという見通しもあります。その場合、無宗教者は全国民の48%になると予測され、キリスト教徒はそれ以下の人数になる、というのです。

この傾向はヨーロッパではすでに起きています。イギリスでは2009年に無宗教者がキリスト教徒の数を抜き、国内最大のグループとなりました。オランダでは国民のうち47%が自分自身をキリスト教徒だと認めているにすぎません。北米のカナダではキリスト教徒は全国民の53%なのに対して、無宗教は35%です。

しかしアメリカも含めて、これら欧米のすべての諸国でキリスト教徒だと自認する人たちがみな教会の日曜礼拝に出るわけではありません。性道徳に関するキリスト教の伝統的な教えを支持しているわけでもありません。その種の教えを支持する人たちの数は減少しつつある名目上のキリスト教徒の数よりもはるかに少ないことも確実なのです。

最近のワシントン・ポストに同紙のコラムニストで政治学者のシャディ・ハミド氏が書いた記事はアメリカの政治地図を塗り替えている社会的変化にさらなる光を当てています。ハミド氏は労働者階級と民主党との間の伝統的な連帯はもはや存在しないと指摘しました。最大所得の上位5%は共和党に投票する可能性が最も低い、というのです。つまり民主党は労働者層の白人有権者たちを2対1の差で失っている、というのがハミド氏の指摘なのです。

ハミド氏は投票行動を理解する鍵は、もはや階級ではなく文化であると指摘します。具体的には、アメリカ人の投票方法の決定的な要因は高等教育なのだと指摘するのです。『民主党が上昇志向の人々や高学歴の人々に支配されるようになり、彼らの感性によって形作られるようになるにつれて、社会的に進歩的になり、階級的関心事ではなく文化的な関心事を中心に自らを定義するようになった』と書いています。 これは事実上、政党間の価値観のギャップを広げることになるのです」 

(その5につづく。その1その2その3

トップ写真:ジョージ・フロイドの殺害に対する抗議デモ 2020年6月7日、カリフォルニア州ロサンゼルスのハリウッド地区 出典:David McNew/Getty Images




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