数分の日韓首脳会談、進展なし
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019#45」
2019年11月4-10日
【まとめ】
・バンコクで短時間、日韓首脳対話が行われた
・両首脳、韓日関係が重要だとの点で意見が一致、と韓国メディア報道。
・実際、わずかな時間で進展があったかどうかは疑問。
先週末、筆者の所属するキヤノングローバル戦略研究所が恒例の政策シミュレーションを実施した。今回は久し振りの経済ゲーム、2020年前半に米中貿易戦争が激化し、世界各地で中国の大規模プロジェクトが動揺し、米中で仮想通貨導入競争が始まる、といった仮想空間を作った。
有難いことに、今回も50人近い、ええっ、こんな人がというような、著名エコノミスト、現役公務員、専門家、学者、ビジネスパーソン、ジャーナリストが集まり、この面倒で複雑な経済ゲームの各プレーヤーを一昼夜リアルに演じてくれた。彼らの知的貢献、特にマーケットチームを演じてくれたプロフェショナルたちに改めて謝意を表したい。
シミュレーションの結果については追ってキヤノングローバル戦略研究所から詳細な報告書が公表されると思うし、最近筆者はシナリオ作りの段階から殆ど関与していないので、余り余計なことは書かない方が良いと思っている。要するに成功したら実際に頑張った人々に感謝。失敗したら筆者が首を洗って責任を取る、ということだ。
それにしても、技術の進歩は大したものだ。今回は市場の動向が重要なので久し振りでマーケットチームを設置したのだが、情報ソフトの進歩により株価と為替の情報がこれまでよりもはるかにビジュアルかつ正確に共有できるようになり、ゲームの精度が格段に進歩した。
一番ショックだったのは東京株式市場の実態だ。専門家の話を聞いて愕然とした。日本株については日本政府は「無策」に思えた。市場との対話が欠如した状態であり、たまに政府発表があっても市場は反応し辛かったという。現実世界も同様で、日本株を動かすのは外国人、東証株の何と70%は外国人が動かしている、のだそうだ。
要するに、東京の市場では「海外からどう見られているか」がマーケットが動く最大の要因らしい。また、日本が寝ている間に米国で何か起きた場合、日本の市場が開く時の状況と、前日に市場を終えた状況とが全く違う場合がある。その点、中国は夜中でもNY市場に影響を与えようと動いているそうだ。流石は中国ではないか。
先ほど、バンコクで短時間日韓首脳対話が行われたと報じられた。ソウル発時事によれば、安倍首相と文大統領は「韓日関係が重要だという点で意見を一致させ、懸案は対話を通じて解決しなければならないという原則を再確認した」、「外務省高官レベルで行われている公式協議を通じ、実質的な関係進展の方策が導き出されることに期待を表明した」「文大統領は必要な場合、さらに高位レベルの協議を検討することを提案、安倍首相は『すべての可能な方法を通じて解決法を模索するよう努力しよう』と応じたそうだ。しかし、これだけではコメントのしようがない。
▲写真 ASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議 出典:首相官邸 Twitter
以上は韓国大統領府の発表内容らしいのだが、おいおい、全体で10分程度の対話、片道5分強で、通訳が入れば翻訳が半分だから実質的には片道数分ずつとなる。それでこれだけ多くのことが本当に話されたのだろうか。良く分からない。この対話というか歓談?は韓国側の呼びかけで行われ、事前に予定されてはいなかったという。
〇 アジア
誤解を恐れず書くのだが、最近多くの友人や識者が「中国出張」を躊躇しているという話をよく聞くようになった。「香港」まではOKだが、「中国本土」はちょっと、という感じらしい。例の某国立大学教授の話が独り歩きしているのかもしれない。こんなことでは日中が益々疎遠になってしまうではないか。中国も何か対策を考えて欲しいものだ。
〇 欧州・ロシア
英国の港で発見されたトレーラーの冷凍コンテナで死亡したアジア人は、中国人ではなく、ベトナム人だったことが判明したそうだ。しかも報道によれば、欧州へのベトナム人密航者は年間18000人に上るという。密航のシンジケートは巨大な闇だが、英国のEU離脱も闇の中、12月の総選挙まで水面下の死闘が続くのだろう。
一方、そのEUは欧州委員会の新体制発足が遅れているという。委員会の幹部人事について欧州議会の承認が遅れているらしい。こうした混乱が続くなら、英国が離脱しなくても、欧州はガタガタになっていくのではないか。幸い日本に政治空白の恐れは今のところないが、だからといって欧州委員会の惨状は他人事ではない。
▲写真 欧州委員会 出典:Pixabay; Jai79
〇 中東
イランでは40年前にテヘランの米国大使館占拠事件が起きたが、現地では相変わらず「米国に死を」のスローガンが止まない。一方、核合意についてイランは遠心分離機の台数を増やし、公然と制限破りを繰り返している。ハーメネイ最高指導者は米国との対話を働き掛ける仏大統領を「世間知らず」と呼んだが、「世間知らず」とはご自身のことではないのか?
〇 南北アメリカ
トランプ氏に対する評価について、世論調査が割れている。WSJとNBCの最新世論調査では、下院の弾劾調査支持が53%、反対は44%だった。一方、トランプは弾劾・罷免されるべしが49%、反対46%。後者について10月初旬の調査結果とは結果が逆転しているが、この程度の差では誤差の範囲としか言いようがない。
とにかく、今の米国での報道ぶりはちょっと異常である。民主党の大統領候補も決まっていないのに、トランプ氏への支持率を云々しても、始まらないではないか。投票日は来年の11月だ。大勢が見えてくるのは来年の9月以降の話。ならば、少し放っておいたらどうか。我々は米国市民ではないのだから。
〇 インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:東京証券取引所 出典:Flickr; Dick Thomas Johnson
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。