[藤田正美]<イギリス経済が大復活>不評を買った緊縮政策・財政再建優先こそ成長の糧?
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
執筆記事|プロフィール|Website|Twitter|Facebook
リーマンショックに世界が揺れた2008年9月以降、危機を食い止め、経済を立て直す、それが先進国も新興国も含めて、最大の課題となった。その結果、どうなったか。
アメリカはよろよろしながらも何とか回復への道を歩んでいる。日本はデフレ脱却の糸口をつかんだかに見えるが、まだ判然としない。世界はアベノミクス第三の矢がどういう内容になるか、期待と懸念をもって見守っている。
ヨーロッパは、いわゆる南欧周縁諸国の問題はまだ完全に解決したとはいえない。国家債務の問題はいちおう何とかなったようにも見えるが、ゾンビ銀行をどうするかはこれからの課題だ。しかし欧州の中でもイギリスは別格のようだ。
4月8日、IMF(国際通貨基金)はイギリスに関して今年は2.9%、2015年は2.5%の成長という予測を発表した。これは今年1月の予測数字それぞれ2.2%、2.4%を上回る成長率であり、この結果、先進国の中ではイギリスが先頭を走る形になった。
イギリスの財務相ジョージ・オズボーンは、英経済の立て直しについて豪腕を振るった。財政支出をカットして財政再建を優先したのである。当時、経済学者の間では、危機を食い止めるために二つの路線が議論されていた。ひとつは、アメリカ、プリンストン大学のポール・クルーグマン教授が提唱する積極財政支出論だ。もうひとつはやはりアメリカ、ハーバード大学のニーアル・ファーガソン教授がいう財政健全化優先策である。
要するに、借金してでも政府が消費をして経済を引っ張るか、今は苦しくても財政を立て直し、将来の増税不安を払拭して消費者の財布のひもを緩めさせるか、という話だ。イギリスのように財政再建を優先した国はあまりない(ただドイツは過去の苦い経験から政府の借金には消極的だ)。日本は、財政的には先進国中最悪であるが、どちらかというと積極支出組に入る。
実はイギリスの財政再建優先は、世界的には評判が悪かった。IMFもかなり厳しく批判をしていたものである。実際、引き締め策をとった当初は、イギリス経済は2番底、3番底をつけて「それみたことか」とあざ笑われたものだ。しかしそのイギリスが力強く立ち直って、この件に関してはオズボーン財務相に軍配が上がったと言ってもいい。
ファーガソン教授が言うのは、財政が悪化すれば消費者は将来の増税不安に怯え、支出を抑制する。しかしもし財政が再建され、福祉などにも不安がなくなれば財布のひもが緩んで個人消費が増え、それが経済成長につながるというのである。
このイギリス経済の復活、日本の経済学者、とりわけアベノミクスの立役者である浜田宏一エール大学名誉教授や本田悦朗静岡大学教授はどのように見るのだろうか。
【あわせて読みたい】
- <ヤバそうな中国経済>中国政府が金融を支えても、実体経済のリスクが中国企業に大打撃(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- <ウクライナ危機の対処が試金石>アメリカが失速する今だからこそ問われる日本外交(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- <ウクライナ危機後の中欧・東欧政治>欧州各国の伝統的ナショナリズムは他者に不寛容(宮家邦彦・立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
- 韓国は何故FTAを急いでいたのか~TPPを進める日本が考慮すべきことは何か?(梁充模・経済ジャーナリスト)
- <G8からロシアが抜けG7に>アメリカ中心の「G7の無力」を示すだけにすぎない?(古森義久・ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)