ゴーンと司法
.国際  投稿日:2019/12/12

核で平和を人質にする北朝鮮、その狙いは?


Japan In-depth 編集部(石田桃子・坪井恵莉・髙橋十詠)

【まとめ】

・金正恩は「核を放棄する」とは1度も言っていない。

・全ては、金王朝を守り抜くことが根底にある。

・金正恩の非核化=朝鮮半島の非核化=核軍縮

 

2019年9月30日、コリア国際研究所・所長の朴斗鎮氏を講師に招きJapan In-depthセミナーが開かれた。テーマは『朝鮮半島情勢ー金正恩の真の狙いとはー』。トランプ政権により、日米同盟も安心して頼れなくなっている状況の中、日本の安全保障にとって核問題は非常に重要な問題として提起されている。そのような中で、我々は北朝鮮の核をどう捉えるべきか。

 

■ 核問題

「今やっている米朝交渉で、金正恩が核を放棄するのかしないのかが焦点となる。」と朴氏は提起した。

核を放棄するとの意見もあるが、朴氏は「放棄しない」、というかそもそも1度も「放棄すると言ったことがない」ことを強調した。

2018年4月20日、党の中央委員会の全員会議で、金正恩は核は完成したので経済に集中するとし、北朝鮮は「これから核実験もミサイル発射もしない」と述べたという。

トランプ氏はこれを自分との約束と捉えたようだが、これは米国との約束ではなく、核保有を進める党の決定に過ぎないことを朴氏は説明した。

しかし、日本の一部学者・ジャーナリストは、この一文を誤解釈し、北朝鮮は「これからは経済に集中する」「路線が転換された」「核放棄宣言」だと解釈したことを朴氏は問題として挙げた。北朝鮮は核完成宣言をしたに過ぎなかった。

 

■ なぜ核は放棄しないのか

そもそも北朝鮮はどういう体制であるかについて朴氏は話した。

まず、ソ連によって朝鮮半島の北半分占領され社会主義体制に入っていき、金日成という人物が指導者に立てられた。1967年までは旧ソ連型の社会主義国だったので、そこに一党独裁はあっても、一人独裁ではなかった。だから「朝鮮民主主義人民共和国」が社会主義国であることは間違いなかった。

「ただ、ここでいう民主主義は、日本でいう自由民主主義ではない。これは、労働者や農民を中心に、それを支持する人たちを集めて政権を維持していくという、統一戦線に基づいた人民民主主義である。」と朴氏は、この違いについて説明した。その本質はいわゆる「プロレタリアート独裁」である。

また、米、中、露、そして日本に囲まれている朝鮮半島は、圧力釜の中で存在しているような存在と言っても過言ではなく、過去に中ソ論争などが起これば「どっち側につくのだ」という重圧がかかってきたという。生存方法を考え抜いたあげく徹底的な独裁に持って行く形になり、金日成1人に権力を集中させる結果となった。そして、1人に権力が集まることにより、その1人を守ることが国のすべての使命になった。つまり、「国民のための国ではなく、1人のための国」になったということだ。

朴氏は、「首領1人さえ存在できればこの国は維持できるということで、国民が何百万人飢え死にしようが眉毛1つ動かさない国になってしまった。だから、金正恩が今やろうとしているのは、国民のためではなく、この3代に渡る首領独裁(金王朝)をどのように存続させるか。これが朝鮮民主主義人民共和国の国是であり唯一の生存方針」だと伝えた。

▲画像 朴斗鎮氏 ©Japan In-depth編集部

 

■ 首領独裁制と核の関係

では、なぜ核に執着するのか。「核がなければあの国はアフリカの貧乏国と一緒」と述べた朴氏は、北朝鮮にとっての核の重要性について、以下の2点を挙げた。

 ・他国に認知してもらうため。

 ・自分たちの体制を維持し、金王朝体制で朝鮮半島の統一を実現するため。

核と恐怖政治は一対のものであり、これは朝鮮民主主義人民共和国という国が金日成以来暴力を崇拝する国だからであると朴氏は述べた。

スターリン崇拝者である金日成は、かつて「暴力革命こそ真の革命だ」と主張した。この思想は金正日の時代に入ってから、いっそう明確になった。

金正日は「人は裏切るけれども武器は裏切らない。暴力こそが統一を成し遂げる最も重要な手段である」と明確に述べていたという。

そして、暴力の最たる政治が先軍政治で、それは金正日の時代から行われ、そして金正日の時代に本格的に核兵器開発が始まった。

中には、話し合えば核を放棄するのではないかと考える平和主義者もいるようだが、朴氏は「絶対に核は放棄しない」と断言した。

何より北朝鮮が核を持つ理由は、国民を守るためでも、米国と戦争するためでもなく、金王朝体制を守り、朝鮮半島を統一するためである。統一するときに米国が、そして日本が、手出しできないように核を保有しいる。北朝鮮が朝鮮戦争で得た教訓は、米国に手出しできない状況を作り出すこと、それが核ミサイル武装だということを朴氏は解説した。北朝鮮は、核によって平和を人質にして外交を行っているのだ。

 

■ 朝鮮半島の非核化

北朝鮮は「北朝鮮の非核化」という言葉は1度も使用していない。

「朝鮮半島の非核化」と言っている。北朝鮮と、トランプ氏を含め一部の人との間で、「非核化」という言葉の不一致が生じている。

「朝鮮半島の非核化は北朝鮮の非核化じゃないか」という誤解があるが、北朝鮮にとって6カ国協議までの非核化問題と、核武器を完成した以降の非核化問題は違うことを朴氏は明言した。

朝鮮半島の非核化とは:

韓国にある米国の核兵器を全て公開し、韓国からすべての核兵器とその基地を撤廃すること。朝鮮半島とその周辺に核兵器を再び展開せず、北朝鮮に核の脅威を与えたり使用したりしないことを確約し、在韓米軍の撤退を宣言するというものだ。そうすれば、北朝鮮もそれに見合った行動をとるというのだ。

「つまり、韓国から米軍は全部出て行けということ。そしたら核放棄しても韓国を支配することが十分に可能だから、我々も核を放棄することを考えるということ」なのだと朴氏はまとめた。

一貫して金正恩時代の非核化は朝鮮半島の非核化であり、それは核軍縮だと言うことである。

 

■ 反日感情

また反日運動ついて、セミナーの参加者から「若い世代が反日運動の先頭に立っているように見える」といった指摘や、「反日感情は半永久的に収まらないのか」といった疑問が挙げられた。

朴氏は若者がすべて反日運動を積極的に行っているわけではないとし、日本の報道では裏どり取材などをせずに、韓国の極端な報道がそのまま日本で伝えられていること、また日本と韓国のマスメディアで交流が十分に行われていない現状を問題視した。

反日感情については、「教育が変わらないと難しいのではないか」という見解を示した。韓国では「左翼政権が出てくる度に教科書を変えてしまう」と述べ、現在の韓国の教科書に日韓条約後の日本の支援についての記載が全くない事実に触れながら、「左派政権が植民地時代の問題と、それ以降の問題を分けて考えることができないように教育している」と指摘した。

また韓国国内における反日感情について、「保守の反日と左翼の反日を一緒に見てはいけない」と朴氏は主張した。保守の反日感情は「情緒的反日で理念の反日ではなから、合意の余地がある」一方、文政権は「絶対に日本は許せないという理念に基づいているから合意や妥協がほとんどできない」と分析し、韓国国内でも反日感情については保守と左派の間で温度差が見られると解説した。

 

■ 北朝鮮問題と中国の動向

朴氏は再度、「核と金正恩はコインの裏表。金正恩をなくせば核はなくなるし核をなくせば金正恩はなくなる。金正恩体制が続く限り核はなくなくならない」という見解を示した。この「金正恩排除」を行おうとしていたのがトランプ大統領だったが、トランプ氏はその後金正恩を抱き込んで朝鮮半島を変化させる方向に転換したようだ。

一方で、朴氏は「国際社会による制裁の強化はある程度効いている」のに加え、北朝鮮にとって最大の支援国である中国が物資の支援を行っても外貨の供給を行っていないことが北朝鮮に打撃を与えたと分析している。そのため、現在北朝鮮は外貨を観光によって得ようとしているようだ。

中国は依然として、北朝鮮にアメリカの勢力が入ってくれば自国の体制が崩壊することを懸念している。朴氏はその「危機感が最近高まっていて一時より北朝鮮を応援するという姿勢が強くなっている。今、朝鮮半島を巡っては日清・日露戦争時とよく似た状況が生まれている」という考えを示した。

また、「朝鮮半島の人々は圧力釜の中で生きてきた人間」だとしたうえでで、「日本のように日本海と太平洋で守られながらある程度平和に独立的に生きてきた人たちとは違うことを理解しなければならない」と参加者に呼び掛けた。

▲画像 朴斗鎮氏 ©Japan In-depth編集部

トップ画像:©Japan In-depth編集部


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