ゴーンと司法
.国際  投稿日:2019/12/11

延々と続く米大統領弾劾公聴会


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2019#50」

2019年12月9-15日

【まとめ】

・米下院で大統領弾劾関連公聴会が何十時間も繰り返されている。

・公聴会が終われば、次は大統領弾劾のための関連文書作り

・下院本会議で大統領弾劾訴追が正式に決まるのはクリスマス頃。

 

この原稿はCNN-USで米下院司法委員会大統領弾劾関連公聴会の生中継を見ながら書いている。今も世界では毎日多くの大問題が生じているにも関わらず、米国議会はトランプ氏のウクライナ疑惑をめぐり多数の証人を召喚し、何十時間も公聴会を繰り返している。距離を置いて見れば、「何かおかしい」感じがしない訳でもない。

そう考えている内に公聴会では冒頭から民主党の委員長と共和党有力理事たちが罵り合いを始めた。民主党の委員長は何度も共和党議員の発言を遮り、ガベル(議長、委員長が持つ小槌)を大きく叩いて一人で議事を進める。その後数分間、一通りの、しかし実に刺刺しい言葉の喧嘩があった。その後、ようやく議事が始まる。

民主党と共和党の法律顧問がこれまでの公聴会で判明した事実を詳細に説明し始めた。これから一日、議論が延々と続くのだろう。この公聴会が終われば、次は大統領弾劾のための関連文書作りが始まる。下院本会議で大統領弾劾訴追が正式に決まるのはクリスマス頃らしい。日本の「桜を見る会」の議論とどう違うのだろう。

こうした米議会での大統領弾劾の動きの詳細を含め、ワシントンでの米国内政の動きを詳しく知りたい向きには、毎週金曜日には掲載されるキヤノングローバル戦略研究所の辰巳主任研究員の「デュポンサークル便り」がお勧めだ。引き続きご愛読頂ければ幸いである。

今週の筆者の最大関心事は何と言ってもフロリダの米海軍基地で起きた銃撃事件だ。時事通信によれば、「南部フロリダ州ペンサコーラの海軍航空基地で3人が死亡した6日の銃撃事件でFBIは、現場で射殺された容疑者のサウジアラビア空軍少尉の犯行を『テロ行為』として捜査していると明らかにした」らしい。一体何だ、これは?

サウジアラビアという国では今何が起きているのだろう。同国政府が米国に公式に派遣したサウジ空軍のパイロットが、こともあろうに同盟国米国の海軍基地内で同僚の米国人軍人を三人も射殺、更に多数の負傷者を出したのだ。サウジアラビアは自国の軍人のテロ行為すらコントロールできないのか。語るに落ちたとはこのことだ。

ところが、トランプ氏はそのサウジアラビアの国王と皇太子を終始弁護している。自分の部下が殺害され、それが「テロ行為」の可能性があるというのに、トランプ氏はサウジ関係者を非難するどころか、サウジアラビア政府の代弁者のように振舞っている。トランプ氏にはこの「異常さ」が理解できていないらしい。嘆かわしいことだ。

 

〇アジア

中国外相の韓国における「傍若無人」な振る舞いが批判されている。しかし、韓国がGSOMIAやTHAADを巡って煮え切らない態度を示す以上、中国としても「ねじを巻きに来る」のは当然だろう。王毅外交部長個人の問題ではない。むしろ、中国外交を甘く見た韓国の文在寅政権の「バランス外交」がうまく行っていない証拠だろう。

▲写真 王毅外交部長 出典:flickr photo by U.S. Department of State

北朝鮮が「非常に重大な実験」を行った。ICBMの新型エンジンではないかと報じられた。当たらずとも遠からずだろう。北朝鮮は年末までに「ICBM発射や核実験の再開」など「重大な問題」を決定し、国民に対し「制裁下での耐乏生活」に耐えるよう呼びかける可能性が高まったが、そこに北朝鮮の出口はなく、2017年にも戻れないだろう。

先週米下院がウイグル人権法案を可決した。同法案は、「新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族を弾圧する当局者に制裁を科すこと」などを求めているそうだ。中国側は「顔認証や音声認識の技術や製品の輸出を禁じる条項」を懸念しているらしい。なるほど、米議会は目の付け所が良いと感心した。

 

〇欧州・ロシア

10日にノーベル賞の授賞式がある。今年も日本人が一人受賞したことは喜ばしい。ちなみに、各国の受賞者数では、2年前のデータだが、アメリカが344人、イギリスが110人、ドイツが82人、フランスが59人、スウェーデンが32人、スイスが27人で、これに日本の25人が続く。ロシアですら旧ソ連含め20人しかいない。大したものだ。

 

〇中東

アフガニスタンで悲劇が起きた。先週4日、東部ナンガルハル州ジャララバード近郊で福岡市のNGO「ペシャワール会」の現地代表の中村哲さんが何者かに殺害されたのだ。筆者は中村さんを個人的には存じ上げないが、あのジャララバードでの様々な支援活動には唯々頭が下がるばかりだ。心からご冥福をお祈り申し上げる。

イラン・米国間で拘束者の相互釈放が実現した。イランは2016年にスパイ容疑で拘束した米国人大学院生、米国は経済制裁違反容疑で18年に拘束したイラン人科学者をそれぞれ解放したそうだ。冷戦中は米ソ間でもよくスパイの相互釈放があったが、それでも冷戦は続いた。今回の「人道的措置」で両国が歩み寄るとは思えない。

 

〇南北アメリカ

アリゾナ州で行われた民主党大統領候補世論調査で、インディアナ州サウスベンドの市長、ピート・ブティジェッジ氏がバイデン元副大統領と拮抗する結果が出て話題を呼んでいる。この若い市長が来年の風雲児となるのか。アリゾナで民主党が勝つ可能性は高くないが、それでも民主党候補とトランプ氏との支持率の差は縮小している。

▲写真 ピート・ブティジェッジ氏 出典:flickr photo by Pete For America

 

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真:トランプ大統領 出典)flickr photo by U.S. Department of Energy


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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