トランプ選対Wポストも提訴
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・トランプ選対、WポストとCNNを名誉棄損の罪で正式に告訴。
・米の公的な名誉棄損には、報道側に悪意や敵意の証跡が必要。
・大手メディア「偏向」に正面から対決姿勢取るのはトランプ陣営が初。
アメリカのトランプ大統領の再選を目指す「トランプ再選運動本部」はニューヨーク・タイムズに続いてワシントン・ポストとCNNテレビをあいついでトランプ氏に対する名誉棄損の罪で正式に告訴した。この両メディアとも反トランプ、親民主党の基調で知られ、トランプ大統領から「アメリカ国民の敵」とか「フェイク・ニュース」とののしられてきた。
トランプ再選本部は今回もこの両メディアの「トランプ陣営とロシア政府との共謀」という報道などを虚偽として訴えを起こしたが、今年の大統領選でのトランプ陣営と主要メディアとの正面衝突がはやくも構図を明らかにした。
ただし現職大統領の再選支持母体が主要メディアを訴えるという実例はなく、アメリカ国政のなかでのメディアの役割に新しい法的な要素が注入されることともなりかねない。
トランプ再選運動本部は2月26日、ニューヨーク・タイムズに対する訴訟をニューヨーク州最高裁判所に起こしたのに続いて、3月2日、ワシントン・ポストへの名誉棄損の訴えをワシントンの連邦裁判所に提出した。
訴状はワシントン・ポストが2019年6月に掲載した2本の記事に「トランプ氏は2016年のアメリカ大統領選にロシア政府の介入を求めた」とか「トランプ氏は2020年の大統領選でもロシア政府の介入を歓迎している」という記述があったのはいずれも虚偽だとして、トランプ氏の名誉の毀損と今回の大統領選での損害を訴え、数百万ドル単位の賠償を求めている。
トランプ大統領は民主党寄りの大手メディアが長い期間、報じてきた「2016年選挙でのトランプ陣営とロシア政府との共謀による投票結果の不正操作」という疑惑を完全に虚構だとして否定してきた。トランプ陣営ではその主張の最大の根拠としてモラー特別検察官による「ロシア疑惑」捜査の「訴追に値する不正の事実はなかった」という結論をあげてきた。
トランプ再選運動本部は3月6日にはCNNテレビを同じ趣旨の名誉棄損でジョージア州アトランタの連邦裁判所に訴えた。
写真)CNN
この訴状もCNNが何度も報じてきた「2016年の大統領選挙でのトランプ陣営とロシア政府の共謀」という主張を虚構だと断じることに加えて、2019年6月の「トランプ陣営は2020年の選挙でもロシアの支援を得ることの損得を検討し、支援を得るという選択肢をそのまま保つことにした」というCNN報道をも虚偽だとして糾弾していた。
アメリカの名誉棄損に関する法律では大統領や連邦議員のような公的人物に対する名誉棄損罪の成立には単にその報道の虚構性を証明するだけでなく、報道する側にその対象を傷つけようとする悪意や敵意があったことを証する責務が課されている。その証明にはまず報道側がその虚偽の報道を虚偽だと知っていたことの証明も必要になるという。
このためトランプ陣営側の法廷での戦いはきわめて難しくなる側面があるわけだが、その一方、メディア側も現職大統領の陣営から正面からの法的手段による攻撃をかけられることの圧力は大きいことになる。
ワシントン・ポストも、CNNもその所有者から経営陣、報道陣まで年来の民主党支持者であり、毎回の大統領選挙では必ず民主党候補へのメディアとしての公式の支援を表明してきた。
両メディアは共和党批判でもとくにトランプ大統領への反対基調は激しく、2016年の選挙戦中も、2017年以降のトランプ政権の統治にも、一貫して強い反対の論評や報道を展開してきた。
共和党側では大統領や議会でこの民主党支持の大手メディアの「偏向」に不満を述べる傾向が長年、続いてはきたが、正面から対決する姿勢をとったのはトランプ大統領が初めてとなった。トランプ陣営の法的措置をも動員してのこれら主要メディアへの戦いがメディア側に果たしてどんな影響を及ぼすのかが注視される。
トップ写真)CNNのインタビューに答えるトランプ大統領
出典)VOA
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。