米大物記者2大紙の偏向批判
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視 」
【まとめ】
・米有名大物ジャーナリストコッペル氏が2大新聞を批判。
・客観報道に徹してきた同氏が指摘した二大新聞の政治偏向。
・大手メディアの伝統を超える激しい反トランプキャンペーン。
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アメリカのテレビ界の有名な大物記者がいまのアメリカ二大新聞はあまりに偏向していると批判して、話題となった。
テッド・コッペル氏といえば、ABCテレビの夕方のニュース番組「ナイトライン」のキャスターを25年も務めたテレビ報道の大御所として広く知られる。コッペル記者は2005年に「ナイトライン」を降板してからも、フリーのジャーナリストとしてテレビや新聞を舞台に活躍してきた。そのコッペル記者がニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストという二大新聞を名指しで批判したことが波紋を広げた。
▲写真 テッド・コッペル氏(左)2017年 出典:Flickr; U.S. National Archives
ワシントン首都圏の日刊新聞、ワシントン・タイムズなどが3月20日付で報道したところによると、コッペル記者はワシントンの研究機関「カーネギー国際平和財団」が最近、主催したジャーナリズム研究の集会で今日の主要新聞について次のように語ったという。
「いまのニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストは50年前とはまったく異なってしまったことに深い懸念を感じる。いまの両紙はドナルド・トランプ氏はアメリカにとって悪いと断定した組織と化してしまった」
▲写真 ワシントンポスト社 出典:Photo by Michael Fleischhacker
「2016年の大統領選挙ではニューヨーク・タイムズはトランプ氏が絶対に当選しないようにすることに全力をあげていた。その結果、トランプ政権への『抵抗』の報道や評論はいまも続いている」
「だからトランプ大統領自身の『大手新聞はとにかく私を倒そうとしている』という認識は決してまちがってはいない。実際にリベラル志向のメディアの多くは自ら反トランプの『倒閣運動』に加わっていることを認めている」
以上がコッペル記者の最近の発言だった。
コッペル記者は「ナイトライン」のアンカーとなる前はABCテレビの報道記者としてベトナム戦争やニクソン大統領辞任につながるウォーターゲート事件の報道でも数々のすぐれた実績をあげてきた。また「ナイトライン」では右でも左でもなく、保守でもリベラルでもない中立の立場を表明して、客観報道に徹したという定評がある。そうした実績の超ベテランのジャーナリストから「政権打倒の活動に走っている」と断じられたニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストの両紙はその政治偏向があまりに顕著ということになる。
▲写真 インタビューを受けるトランプ大統領 出典:Flickr; The White House
確かに両紙とも、トランプ政権への態度は別にしても、伝統的に大統領選挙では論調としては「社説」で必ず、民主党候補への支持を表明する。また記者や編集者の間でも民主党支持を公然と明らかにしている人たちが大多数となっている。このため民主党が政権を握るときは、政権入りする記者たちも少なくない。共和党政権になれば、元のメディアに戻るわけだ。
だからアメリカの大手メディアは伝統的に民主党支持が多いのだが、いまのトランプ大統領に対する攻撃のキャンペーンはその伝統をはるかに越えて、異様なほど激しくなっている。そんなアメリカのメディア界の現状をコッペル記者がニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストという代表的なエリート新聞に的をしぼって批判的に論評したわけだ。その論評は「主要メディアはアメリカ国民の敵だ」とまで断言するトランプ大統領の主張にもいくぶんの支援を与えたともいえそうだ。あるいは両新聞の偏向がそれほどひどい、ということなのかもしれない。
トップ写真:ニューヨークタイムズ本社 出典:flickr : Joe Shlabotnik
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。