新型コロナ日米対策遅れの訳

宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の安保カレンダー【速報版】2020#16」
2020年4月13-19日
【まとめ】
・NYT、爆発的感染拡大の最大原因はトランプ氏の無策にあると報ず。
・日経は「安倍1強にも医系の『聖域』」との記事掲載。
・日米の状況は意外にも似ている。
日本でCOVID-19に関する緊急事態宣言が出てから一週間経った。先週末は近くのスーパーまで必需品買い出しに行ってきたが、店は思いの外混んでいた。また、実家の母が心配で鎌倉にも車で帰ったが、人は予想以上に出ていた。やはり人間は勝手で移り気な動物だなぁ。御上の言うことなんて心の底では信じていないのだろう。
最近は夕方、前日の東京の感染者数を聞くのが一日の始まりになりつつある。専門家ではないのでオーバーシュート(感染例急増)が起きるかは分からないが、今の数字の伸びはやはり不気味だ。東京オリパラも延期が決まったし、COVID-19軽症者用のホテル確保も進んだのなら、そろそろ大規模な検査を始める時期ではないのか。
先週はサンダース上院議員が遂に撤退を表明、バイデン前副大統領の民主党候補指名が確実となった。サンダースは「勝利は不可能」として敗北を認めたから、普通なら今後は民主党が政権奪還に向け挙党一致を固めるべき時だろう。しかし、実際にはCOVID-19のパンデミックにより、米大統領選は大きく様変わりしつつある。
▲写真 ジョー・バイデン上院議員 出典:flickr : Gage Skidmore
通常なら指名を確実にしたバイデンはリベラルメディアなどを利用して「生まれ変わったバイデン」をアピールしたいだろう。ところが、米内政状況はこの2か月で激変した。コロナウイルスのお蔭でバイデン候補はTV出演の機会が大幅に減ってしまったようだ。これに対し、トランプはこのところ毎日のようにメディアに出まくっている。
しかもトランプは話す内容まで少しずつではあるが進化している。最近では政権内の多くの医療・伝染病の専門家とともに、記者会見やブリーフィングを精力的にこなすようになった。一部世論調査では大統領の支持率が3月下旬に上昇に転じ、一時は53%にまで上昇したそうだ。まあ、これはあまり意味のある数字ではないが・・・。
▲写真 記者会見に臨むトランプ米大統領 出典:flickr: The White House
トランプ政権の新型コロナ対策の顛末を丹念に報じた先週のニューヨークタイムズの記事は一読に値する。「1月以来、トランプ政権はコロナの深刻さを過小評価し、政権内の多くの専門家の提言にもかかわらず、強力な施策をとらなかった」と断じ、現在の爆発的感染拡大の最大原因はトランプ氏の無策にあると報じているのだ。
もう一つ参考になったのが、同じく先週の日経新聞の「安倍1強にも医系の『聖域』」と題された記事だ。検査の話もアビガンの話も、上記のニューヨークタイムズの記事と比較しながら読むと、日米の政策決定の状況や構図が意外に似ていることが良く分かる。詳しくは、今週のJapanTimesに書いたコラム(英文だが)を読んで欲しい。
今週も先週と同様、世界各地の外交的動きは鈍いまま。報道が少ないからあまり知られていないが、途上国の感染状況は本当に恐ろしい。欧米ですらあれだけ大量の感染者と死者が出ている。これから感染拡大の震源地epicenterはアフリカと南アメリカに移っていくのかもしれない。あな、恐ろしや。
〇 アジア
北朝鮮の最高人民会議が開かれたが金正恩は出席していない。新型コロナ対策の強化を含む決定書を採択したが、感染者はゼロだという。やはり変な国だな。
感染者数といえば中国も信じられない。4月10日時点で新たに46人の感染が確認され、うち海外からの渡航者が42人だという。そんな馬鹿な?
米韓駐留軍経費負担交渉で韓国側が示した13%増の案を米国は拒否したそうだ。韓国はもうトランプとは付き合えないだろう。11月末まで待つしかない。
〇 欧州・ロシア
英首相が退院して良かった。一方、在チェコ日本大使館で現地採用チェコ人職員2人が感染、北マケドニアでも大使館邦人職員が感染した。在外勤務は命懸けだなぁ。
〇 中東
OPECプラスの減産合意が実現、規模は1000万BDでメキシコ減産不足分を米国が補うという。トランプ政権にしては珍しく政治をやっている。結果は保証できないが。
〇 南北アメリカ
米大統領選は開店休業か?殆どニュースが出てこない。今年の大統領選挙は例年とは全く違うサイバー中心の戦術で戦うことになるのだろう。
〇 インド亜大陸
モディ首相は、新型コロナウイルス拡大阻止のため13億人の国民を対象に行っている封鎖措置を2週間延長する方針だという。13億人を封鎖するなんて、一体どうするのか。ムンバイのスラムでも感染が広がっているそうだが、何が起きているのか想像もつかない。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:2020年4月11日(土)東京都渋谷駅前スクランブル交差点の様子 ©Japan In-depth編集部
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。

