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.国際  投稿日:2020/5/11

米国人の対中感情過去最悪に


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の安保カレンダー【速報版】2020#20」

2020年5月11-17日

【まとめ】

・世論調査で中国にネガティブな感情抱く米国民、66%と過去最悪に。

米国の対中政策が来年以降軟化する可能性は極めて低い

・米の指導力低下で中露イランの影響力拡大。欧日は難しい情勢に。

 

連休が明けた5月7日の夜半、ある国会議員から突然電話があった。「どうされましたか?」と聞く間もなく、「知ってる?岡本行夫さんがコロナで亡くなったらしいよ」という。「ウソでしょ、信じられない」「いや、僕だって同じさ」と言葉を交わして手短に電話を切った。その晩は寝られなかった。信じられないという気持ちは今も変わらない。

初めて岡本さんに会ったのはアラビア語研修時代のエジプト、彼は研修指導官だった。爾来40年が過ぎた。筆者の目前で岡本さんが辞表を書いたのは1991年の湾岸戦争前、筆者が外務省を退職する際に唯一相談したのも彼だった。思い出を書き始めたら止まらなくなる。筆者の思いは今週の産経新聞とJapanTimesを読んでほしい。

今週最も気になったのは米国民の対中感情の変化だ。Pew Research Centerが先月発表した世論調査によれば、「中国にnegative viewを持つ」米国人の割合が66%と史上最悪となり、トランプ政権発足以来20%増えている。これ自体は既に報じられていることだが、先週改めて数値を見直してみたら、興味深いことが分かった。

2005年から2012年まで「negative view」の割合は概ね30%台だったが、2013年からは50%台となり、2019-20年には60%を超えた。トランプ政権の対中政策の変化が原因と即断するのは容易だ。しかし、より興味深いのは、米国民の対中意識の変化が日本人の対中意識の変化と似たパターンを辿っている可能性があることだ。

令和元年12月に発表された内閣府の「外交に関する世論調査」によれば、「中国に親しみを感じない」日本人の割合は74.9%で、最悪だった2016年の83.2%よりは改善したものの、1989年以来の50%前後という水準に戻る可能性は当面ないだろう。今の米国は日本でいえば2012年の尖閣事件後に匹敵する状況にあると筆者は見る。

▲写真 安倍首相と習近平中国国家主席 出典:首相官邸 2017年11月11日

2012年の日本と2020年の米国を比較してもあまり意味はない。だが、いずれの場合も中国が急激に自己主張を強め、従来の「韜光養晦」政策から確信犯的に離脱し、対外的により強硬な姿勢を隠そうとしなくなった点では日米のケースは実によく似ている。これまでのパターンから見ると、中国が態度を軟化させる可能性は低いだろう。

▲写真 尖閣諸島 出典:外務省

ということは、米国の次期大統領が誰になろうと、米国の対中政策が来年以降軟化する可能性も極めて低いということだ。日韓関係でも見た通り、「売り言葉に買い言葉」で二国間関係が徐々に悪化していくのは世の常である。習近平氏が意図的にやっているのか、北京で対外強硬派が台頭しつつあるのか。戦前の日本を思い出す。

先週書いた通り、世界各地で米国の指導力が低下しつつあることは、今や可能性でも懸念でもなく、もはや現実である。今のように米国の大統領が大統領選という観点からのみコロナウイルス問題に対処する状況が続けばロシア中国、イランなどが影響力を拡大し、米国は「不戦敗」となる。その結果、最も困るのは欧州と日本だろう。

 

〇 アジア

独誌が「1月に習近平がWHOにパンデミック宣言を遅らせるよう自ら要求」なる疑惑を報じた。良く出来たdisinformationのようだが、この情報戦の勝者は誰だろう。

 

〇 欧州・ロシア

プーチン政権が9日開催予定の対ドイツ戦勝式典を延期したが、9月3日の対日戦勝記念日に同様の式典を行う可能性があるという。日本も情報戦を強化すべきだ。

 

〇 中東

ラマダン月のコロナ感染防止策は国によって成果が異なる。例えば、エジプトでは感染者総数が8500人、死者数も500人を超えたそうだ。やっぱりね、という感じだ。

 

〇 南北アメリカ

トランプ政権の中枢周辺でウイルス感染者が増えつつある。英国でも首相が感染するぐらいだから、ホワイトハウスで何が起きても驚いてはいけないのだろう。

 

〇 インド亜大陸

コロナ対策以外に特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:トランプ米大統領と習近平中国国家主席 2017年11月9日北京 出典:Whitehouse


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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