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.政治  投稿日:2020/4/24

軽装甲車の防御力強化策のトレンド


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・装甲車輛は90年代以降より高い防御力を求められるようになった。

NATO定めるレベル1の装甲車をもつ自衛隊は、遥かに遅れている。

・これからは、軽量化しつつ性能を高めることが重要。

 

 装甲車輛一般的に重いほど防御力が高い。例えば装甲車でも4×4で戦闘重量5トンの装甲車よりも6x6で10トンの装甲車の方が防御力は高い。これはより大きく、車輪が多い方が大きなエンジンを搭載することができ、かつ接地圧を軽くできるので、より厚い装甲を施すことができるからだ。装軌式の装甲車ならば履帯という「面」で車体の重さを支えるので更に有利となる。

 90年代までは装甲車はおおむねNATOの定めるレベル1、即ち7.62ミリのボール弾(通常弾)や、迫撃砲、野砲の砲弾の破片に耐えられる程度の装甲レベルで良し、とされてきた。

自衛隊の装甲車は概ねレベル1である。軽装甲機動車の装甲レベルは7.62×39カラシニコフ弾に耐えられる程度なので更に低い。これは現代ではかなり低いレベルにある。

 90年に入ってPKO平和維持など非対称任務への軍隊の派遣が盛んになると先進国を中心に装甲車輌にもっと高い防御力が求められるようになってきた。それはこれらの活動においては前線と後方の区別はなく、現地の武装勢力は派遣部隊の弱いところを狙ってくるからだ。

 当然軽武装の武装勢力にしてみれば、戦車より脆弱な軽装甲車、軽装甲車より更に脆弱なソフトスキンの車輛を狙う方がリスクは少ない。もっとリスクが少ないのは夜の内に敵の通り道に対人地雷や対戦車地雷などを敷設しておくことだ。これなら交戦する必要もない。

 このため先進国の軍隊ではそれまでおざなりだった装甲車輌の対地雷対策が本格的にされるようになった。またこのような地雷による攻撃を進化させたのがIEDと呼ばれる即席爆弾と言えよう。

 この点では南アフリカは先進国だった。それはアンゴラ侵攻などでそのような非対戦闘を戦ってきたからだ。このため60年代から積極的に耐地雷装甲車、兵站車輌の装甲化を進めてきた。だが多くの国にはそのようなノウハウがなかった。

このため90年代以降の旧ユーゴ、アフリカなどでの紛争介入、アフガニスタンやイラク戦争及びその後の駐留などで先進国の軍隊が多くの損害を出した。

これらの非対称戦任務ではコンボイを護衛したり、市街地などパトロールする軽装甲車はRPG-7や重機関銃、あるいは7.62ミリの徹甲弾などレベル1の装甲では防げない火力による攻撃を受けることが増えた。

例えばロシアのドラグノフ狙撃銃の徹甲弾による狙撃を防ぐためにはレベル3の防御力が必要である。レベル1あるいはレベル2の装甲車輛はドラゴノフを装備したスナイパー一人に翻弄されるとことになりかねない。昨今は更にタチの悪い大口径の対物ライフルも急速に普及している。ドイツ軍など正規軍の普通の歩兵でも市街戦や敵の陣地を攻撃するために対物ライフルを装備している軍隊も増えている。

このため装甲車輌の生存性を上げるための防御力の強化が発達した。まず手っ取り早いのが既存の装甲車にモジュラー式の増加装甲を付加することだ。装甲に多用されている均質圧延鋼は重いので、近年ではアラミド繊維やセラミックなどを用いた複軽量な合装甲が軽装甲車輛に使用されることが多い。

モジュラー装甲は破損した箇所を取り替えれば前線でも容易に補修できる。増加装甲を本来の装甲から浮かせたスペースドアーマーは形成炸薬弾などに対して有効である。また必要に応じて脅威の少ない作戦では取り外したり、将来より強力な装甲に変更することも容易だ。

また格子状にバーを組み合わせたスラットアーマーも流行している。これは主としてRPG-7 などの形成炸薬弾に対するもので、比較的軽量だ。だが小銃や機関銃の弾丸、IEDに対しては有効ではない。また形成炸薬弾でも着弾の角度によってはあまり機能を発揮しない。これを装着すると左右や前後の車体の幅が著しく拡大することもあり、不便であるという声も強い。

内部に爆薬を封印した爆発反応装甲は着弾時に爆薬を爆発させることによって弾頭の運動エネルギーや形成炸薬のメタルジェットを逸らせたり、妨害したりするものであるが、爆発時に周囲の味方に副次被害を与える危険性がある。また一回爆発すれば防御力は無くなる。

装甲以外にスポールライナーと呼ばれる車内にアラミドやポリエチレン系の防弾繊維などの内張も乗員の生存性を上げる。これは装甲を貫通して入ってきた弾頭や破片、また剥離した装甲の内面が内部で跳弾することを防ぐためのものである。またスポールライナーはRPG形成炸薬弾のメタルジェットの威力を減じることできる。その際は装甲から一定の距離を離す必要がある。このため車内容積が減ってしまう。

陸自の軽機動装甲車はスポールラーナーの装備が検討されたが、費用の面から採用されなかった。だがイラク派遣部隊で使用された軽機動装甲車はスポールライナーが施されたとされている。

消火装置も重要である。被弾によって火災が発生することは多い。搭載している燃料や弾薬に引火すれば極めて剣呑なことになる。この際にハロゲンやキセノンなど不活性ガスを封入した消火装置が速やかに消化すればこれまた乗員の生存性は高くなる。

イラクアフガンで使用されている米軍のハンビーはほぼ全て装甲化されたが、同時にこれら消火装置も装備されている。また燃料タンクを車外に装着するケースも増えている。例えば車体後部のハッチの左右などにレイアウトされる。このようにすれば被弾に際して、車内の兵員が損害を受ける可能性は大きく下がる。

更にランフラットタイアも採用も生存性を高める。タイアがパンクして動けなくなれば更なる攻撃の的になる。対して走行が可能であれば、その場から脱出が可能だ。近年ではチューブのないタイアも増えている。

地雷やIED対策でボンネット式のエンジンレイアウトを採用する車輛も少なくない。これは、エンジンの横に運転手がレイアウトされている装甲車輛に比べて地雷やIEDに強い。これは前輪で地雷を踏んだり、IEDが爆発しても乗員室の先にエンジンルームがあるために地雷やIEDの爆発のから乗員室を遠ざけることによって、爆発の影響力を減じることができる。例えば南アフリカのマンバMk2ドイツのディンゴなどがその好例だ。

耐地雷装甲車では底部が爆風をそらすV字型のモノコック構造を有し、その前にエンジンをレイアウトするボンネット式を採用することが多い。また蝕雷時にその衝撃を吸収する耐地雷シートを採用する車輛も増えている。蝕雷時のショックを吸収あるいは逃がすことによって人体への影響を最小限に留めるというものだ。さらにキャビンの床には衝撃吸収材が貼られることが普通である。例えば米軍ではスカイデックス社の製品を使用しているが、トルコなど他国でも多く使用されている。

一番いいのは弾に当たらないことである。どんな強力な弾頭でも当たらない限りどうと言うことはない。このため撃たれる前に敵を察知することが肝要となる。そのために視界を向上させることが必要だ。このため大きめな防弾ガラスをフロントグラスや兵員室に大きめな防弾窓を取り入れ、全周的に監視を強化した車輛が多い。更に体の左右や前後に周囲を観察するためのビデオカメラを装備することもトレンドとなっている。

その点ではビデオカメラ、暗視装置、レーザー測距儀、機銃、機関砲などを統合したRWS(リモート・ウエポン・ステーション)も索敵には極めて有用だ。車内から操作できるので射手が狙撃されたり、被弾することも避けされる。

もっとも実際に車長がキューポラから身を乗り出して監察した方がより多くの情報を得られる。最近は複数のビデオカメラの映像をコンピューターで合成し、まるで肉眼で見ているかのような視界を得られるシステムも開発されている。最近はRWSに対人レーダーなどを装備するケースもある。

また音響測定などによって射撃位置を特定する狙撃探知装置を備える装甲車輛も増えている。一発目は撃たれても仕方ないにしても、次弾を受ける前に対処ができれば被害を極小化できる。またIEDのリモート操作による起爆を妨害するIEDジャマーもアフガンやイラクでは非常に多く装備されている。

更に敵弾を迎撃する積極防御システムも活発に開発されている。これらはセンサーで敵弾を察知し、グレネードや車体に仕込んだ爆薬でRPGなどの敵弾を迎撃する。当初は大型車輛用に開発されていたのだが、システムの小型が進み、軽装甲車輛にも搭載が可能となってきた。ただ爆発反応装甲同様、周囲の味方に対する副次被害の問題と、小銃弾などには無力なので既存の装甲と組み合わせて使う必要がある。

発煙筒もバカにならない。最近の発煙筒は単に煙幕を展張するだけではなく、熱を発することによってミサイルの赤外線シーカーを惑わすような弾頭を備えているものも増えている。

装甲車輌に小型のドローンやUGV(無人車輌)を搭載するという提案も増えている。これらよって車輌からの視界よりも遠距離を偵察、監視が可能となってより遠距離の敵を探知できる。

例えばKNDS傘下のネクセターは6×6装甲車TITUSに偵察用無人機、無人車輌を統合した偵察システム、ファインドイーグル提案している。TITUSはタトラの6輪トラックT815の駆動系をベースに開発された装甲車で、最大戦闘重量は27トンだ。乗員は3名+10名の下車歩兵または乗員2名+下車歩兵12名で、車内容積は14.4㎥と広い。また車内カーゴスペースは2.4㎥、車外カーゴスペースは1.5㎥である。

基本的な防御力は全周的にNATO規格のレベル2~4、耐地雷性能はレベル3A/ 3B~4A/4Bであり、TNT爆薬50~150kgのIEDの爆発に耐えられるなど高い防御力を有している。NBC防御装置、エアコンも完備されている。

これに搭載されているファインドイーグル・システムはルーフ上部に設けたプラットフォームにクオッド式のヘリ型ドローン、車体右側の第2及び第3輪の間のカーゴスペースにUGVを搭載し、これを専用のインターフェースによって制御し、戦術偵察を行う。ドローン、UGVはユーザーがチョイスできる。専用のドローンやUGVを使用しないのは、これらの開発タームが短く、次々に新型が登場するため、またユーザーが独自のものを採用している場合が多いためである。

TITUSの主たる想定任務は工兵部隊や輸送部隊のIEDなどに対する路上クリアランス、歩兵部隊の室内を含めた警戒や偵察、砲兵の前進観測、標的特定(ドローンのGPS機能を利用)、NBC部隊の対CBARN観測、監視などが想定されている。

軽装甲車は重たい装甲を装備できない。仮にそれが可能でも本来の持ち味である軽快性が損なわれる。これらの手法を上手く組み合わせて、重量の増加を下げつつ生存性を上げることが今後の軽装甲車輛開発および近代化のトレンドとなっていくだろう。残念ながらこのような分野において自衛隊は大変遅れている。

画像)ラファール社の積極防御システム、トロフィーの軽量型トロフィーライトを搭載したウルフ装甲車。(筆者提供)

IEDはウルフを都市部のパトロールに使用しているがトロフィーライトを搭載することによってRPGなどからの脅威を軽減できる。

画像)オトーメララ-イベコのピューマ装甲車の増加装甲(恐らくダイニーマである)。(筆者提供)

車体のオリジナル装甲の4倍ほどの厚みがあるが、軽量である。

画像)オトーメララ-イベコのピューマ装甲車の増加装甲

(筆者提供)

増加装甲はモジュラー型なので被弾した部分を取り替えれば修理が完了する。また脅威度が高い地域で活動する場合は更に厚い装甲を装着するといったことが容易にできる。

画像)南アの典型的な耐地雷装甲車RG-31Mk.5。

(筆者提供)

ボンネント式のエンジン、底部がV字型のモノコックのコンパートを採用。車内からの視界は極めてよい。

画像)ランフラットタイアを装備した仏陸軍のVBL。

(筆者提供)

パンクした状態でもかなりの機動力を発揮する。近年では民間の高級乗用車も安全性のためと、スペアタイアを搭載しなくて済むために(軍用車ではそうはいかないが)ランフラットタイアを装備することが増えている。

画像)イベコのLMVはドイツのIBD社が開発した積極防御システム、AMAP―ADSをルーフに搭載。(筆者撮影)

センサーと爆薬を封入したコラムを交互に帯状に配置している。

画像)ダイニーマを採用した防弾ドア。(筆者提供)

通常の装甲よりもかなり重量を軽減できる。また加工が容易なのも魅力である。

画像)ナビスターディフェンスが提案しているAPC。

(筆者提供)

前方だけにケージ・アーマーを採用して重量を軽減している。

画像)強い防弾性能をアピールするDSMダイニーマ社の展示。その性能も随時向上している。(筆者提供)

英国のジャンケル社が開発した耐地雷シート。蝕雷時のショックを吸収する。兵員室用としては床に固定しないフローティグ・シートが採用されることも多い。

画像)ラインメタル・ディフェンス社が開発した新型発煙筒システム、ロシー。(筆者提供)

40ミリと口径の小さいがIRをも発する発煙弾を同時に扇状に発射することにより素早く煙幕を展張。敵の照準を困難にし、誘導弾の着弾を妨害する。

画像)ノルウェーのコングスバーグ社の軽量RWS、プロテクター・ライト。(筆者提供)

米陸軍のストラーカーに採用されているプロテクターの軽量型である。この種の軽量RWSがハンヴィークラスの軽装甲車輛に採用されるケースが増えている。

画像)英陸軍が採用を決定したエクステンダE。(筆者提供)

既に採用されている4×4のジャッカルの改良型で簡単に4×4から6×6に変更ができる。

画像)サーブ・アビオニクス社が開発している積極防御システムLEDS(Electronic Defence System )150。

(筆者提供)

写真の360度可能なランチャー(右)とマングース・ミサイル(実際はグレネード)、RPG、対戦車ミサイル、戦車砲から発射された榴弾やHEAT弾などを迎撃できる。

 

トップ画像)ファインドイーグル(筆者提供)

 


この記事を書いた人
清谷信一軍事ジャーナリスト

軍事ジャーナリスト、作家

日本ペンクラブ会員

日本コスト評価学会会員

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 1962年生。東海大学工学部卒。

軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。

08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。

軍事を主たるフィールドとし、海外取材活動(欧州、中東、南アフリカなど)を活かした国際的な見地に立った著作活動を行う。内外の具体例に基づいた防衛省・自衛隊批評や提言は元防衛庁長官、石破茂氏にも影響を与え、石破氏が長官時代の防衛庁改革ではその指摘の是正が少なからず実現した(三自衛隊の統合運用や特殊部隊、狙撃部隊の創設、陸自の旅団導入、空自の基地警備、海自の地方隊の縮小など)。

自ら起業して、貿易や小売業を手がけており、起業家の視点からの執筆も多い。またサブカルチャーにも造詣が深い。90年代初頭からアニメやマンガなど日本のサブカルチャーの世界進出をいち早く予見、これを国益の観点から論じた。著書「ル・オタク フランスおたく物語」はこの分野の基礎文献となっている。

専門誌はもちろん、右は「正論」から左は「週刊金曜日」まで幅広い媒体にイデオロギーにとらわれず寄稿。また、日経ビジネスオンラインや朝日新聞のWEBRONZA+などのネット媒体にも寄稿。

〔著作〕

  • 国防の死角(PHP)
  • 専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)
  • 防衛破綻 「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)
  • ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)
  • 自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)
  • 弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)
  • こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)
  • 不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)
  • Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。

〔共著〕

  • 軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)
  • すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)
  • アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)
  • ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)
  • 世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)
  • 間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)
  • 達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)
  • 真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)
  • 熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。

〔監訳〕

  • ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)
  • SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)
  • 太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)

〔ゲーム・シナリオ〕

  • 現代大戦略2001~海外派兵への道~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2002 ~有事法発動の時~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略2003 テロ国家を制圧せよ(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2004 ~日中国境紛争勃発!~(システムソフト・アルファー)
  • 現代大戦略 2005 ~護国の盾・イージス艦隊~(システムソフト・アルファー)

 

清谷信一

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