[藤田正美]<内戦の危機?>暫定政権の急速な強硬化で緊張高まるウクライナ問題で外相級4者協議
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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親ロシア派ヤヌコビッチ大統領の放逐から始まったウクライナ危機。ロシアがクリミア自治共和国を自国に編入して、それに対して欧米が制裁措置を講じたところまでは、「アンダーコントロール」という感じがまだあったが、いまはかなり危険な方向に向かっているように見える。
ひとつは暫定政権側が急に強硬な姿勢を示すようになってきたことだ。トゥルチノフ暫定大統領は、ウクライナ東部の数都市で行政庁舎や警察本部を襲撃し占拠した武装勢力を「テロリスト」とし、強制排除を決めた。自治権の拡大などを認めるとしてきた宥和政策を放棄したかのように見える。
その一方で、これ以上のエスカレーションを防ぐために、ウクライナ、ロシア、EU、アメリカの外相級4者協議が今週17日にスイスのジュネーブで開かれることになっている。そこでの議題は、事態の沈静化、非合法組織の武装解除、ウクライナ憲法の改正と選挙実施であることをロシアのラブロフ外相が明らかにした。
これまでは非難の応酬で政治的解決への道すら見えなかったことを考えれば、この4者協議の開催が決まったことは前進である。とはいえ、ロシアのラブロフ外相は、ウクライナ暫定政権がもし東部で行政庁舎などを占拠している「一般市民」を強制排除したりすれば4者協議そのものが開けなくなると牽制した。
もしロシアがウクライナ東部の武装「民兵」を掌握しているのなら、4者協議の成り行きに合わせて、占拠を解除したりできるのかもしれない。しかしそこにロシアの介入を嫌う住民たちが武装民兵を襲撃し、死者が出たりすると事態を収拾することができなくなる懸念もある。
通常であれば、ここでウクライナが国連に要請し、国連平和維持部隊の派遣というようなこともありうるのだろうが、ロシアは決して賛成しないだろう。それはウクライナとの国境に集結するロシア軍の意味を減殺してしまうからだ。このあたりが国連安保理で拒否権を持つ国の「強み」でもある。
それでもロシアにとって、ウクライナが内戦状態になるのは好ましくない。パイプラインの安全も保証されなくなるし、そうなったら欧州へのガス輸出も大打撃を受けるからだ。暴発をさせずに、しかもウクライナ内のロシア系住民が多い地域が独自に親ロシア政権を樹立できるような形に持ち込めるかどうか。
そして西欧がロシアに対する「宥和政策」と見なされない程度の譲歩でウクライナを納得させることができるかどうか。この難しい方程式を解くのは容易ではない。しかし方程式が解けなければ、世界はまた大きな混乱の淵に落ちるかもしれない。
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