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.国際  投稿日:2020/6/5

米格付け会社、北朝鮮経済成長-6%と予測


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

北朝鮮、外貨収入や国債発行も不振で経済破綻危機。

・元山(ウォンサン)で闇ビジネスと盗みが多発。

金正恩、経済不振で視察意欲を失くしたか。

 

北朝鮮の経済はいま、・ミサイル開発に伴う国際社会の制裁新型コロナウイルスの影響が重なり、危機的状況となっている。国際主要格付け会社フィッチ傘下のフィッチ・ソリューションズ」は、最近発表した報告書で、北朝鮮経済が今年マイナス6%成長になると予想した。この数値は、「苦難の行軍」と呼ばれた最悪の時期である1990年中盤のマイナス6.5%以来23年ぶりの数値である。

■ 「国家経済発展5カ年戦略」が挫折

今年は、2016年の朝鮮労働党第7回大会で打ち出した「国家経済発展5カ年戦略」の最終年であるにもかかわらず、ほとんどの経済指標が達成されていない。特に基幹産業と農業・畜産部門の不振は深刻だ。

まず基幹産業部門だが、工場稼働率が大幅に落ち込んでいる。このことは、北朝鮮内部消息筋からも伝えられているが、金才龍総理朴奉珠党政治局常務委員らが、5月に視察した場所に工場視察が1件もなかったことから見ても明らかだ。

また新型コロナウイルスの影響で農民の農場出勤率が目に見えて低下し、そこに肥料不足が重なって、今年の食糧生産は2000年代に入って最低を記録すると見られている。食糧不足の深刻さは、軍将校の配給が3分の1に減らされたことでも示された。また豚コレラの再拡散や鳥インフルエンザの蔓延で畜産部門も打撃を受け食肉事情も深刻だ。

こうしたことから、労働新聞は5月27日、「正面突破戦は人民に対する滅私奉仕戦である」と主張する論説を掲載し、「朝鮮労働党が、再び困難かつ長期にわたる闘争を決心して正面突破戦を宣布したのは、平凡な日々にも試練の時期にもひとえに党だけを固く信頼して絶対的に支持してきた偉大な朝鮮人民を豊かに暮らさせるためである」と主張し苦しさを隠さなかった。

 

■ 外貨獲得の柱である輸出が激減

5月25日に中国税関当局が発表した貿易速報値によると、北朝鮮の4月の対中国貿易は、中国経済の不振も重なって、2019年4月比で約90%減となり、外貨獲得のための対中輸出は壊滅的打撃を受けた。

対中輸出の1位は電力で126万8935ドル(電力不足にも関わらず外貨獲得のために水豊発電所などの電力を中国に売っている)、2位は、機械(昨年来、北朝鮮が注力している委託加工の時計部品?)で57万3291ドル、3位は、マネキンのかつらで17万1565ドル、4位は玩具で11万2149ドル、5位は鉄地金・普通鋼地金で7万8673ドル、その他1387ドルで計220万6000ドルに過ぎなかった

一方、輸入品は1位が大豆油で616万3796ドル、2位はタバコの葉で158万4135ドル、3位は小麦粉で157万5015ドル、4位は砂糖の135万3687ドル、5位は名前未表示の薬品で104万7303ドルだった。

北朝鮮は、貿易額の95%を中国に依存していることから、貿易による外貨収入はほぼ途絶えたと言っても過言ではない。そうしたことから北朝鮮当局は、住民の外貨使用まで禁止している。

▲写真 金日成・金正日銅像 出典:pixabay by Alex Berlin

 

■ 外貨獲得を狙った観光開発すべて中断、国債販売も不振

観光開発の中心事業だった元山のカルマ観光地区開発は、いつ完成できるかわからない状態に陥った。そのために、そこで従事していた中心的軍人労働者は、平壌総合病院の建設事業にまわされた。

また4月に、外貨不足を埋めるために、2003年以来17年ぶりの国債発行に踏み切ったが、これも不振だ。償還日には紙くず同然となることがわかっているので、なかなか買い手が見つからず、国債の消化率は現在のところ8%に過ぎない。この問題解決のために金委員長の妹の金与正が陣頭指揮をとっているという。

 

■ 経済破綻で「闇ビジネス」と「盗み」が横行

こうした危機状況の中で、最近元山(ウォンサン)「闇ビジネス」を全国展開していた秘密組織が、軍保衛司令部の手で摘発されたという。そこには除隊軍人や元山カルマ観光軸開発に従事していた軍人、そして職場青年や中高級学校の学生まで加わっていたとのことだ。現地の主要機関幹部には賄賂をばらまいて口封じを行っていたので、軍保衛司令部が直々出動したという。

また生活苦から、「苦難の行軍」時のような工場設備や鉄道架設電線を盗む事件が多発し、電力供給や鉄道運輸などにも大きな障害をもたらしている。

「元山闇ビジネス事件」があった直後、労働新聞は、5月26日に「思想・文化陣地を隙間なく固める事業の重要性」との論説を掲載し「われわれの革命的進軍を阻む挑戦と難関は、単に経済分野にだけ存在するのではない」としながら、「わが人民の革命意識、階級意識を麻痺させ、社会主義制度の根幹を揺るがして、われわれを内部から瓦解させようとする帝国主義者の思想的・文化的浸透策動は、いっそう悪辣になっている」と警鐘を鳴らした。

また続けて27日には「青年教養における重要な問題」との論説で、「社会主義を打ち建てるのは難しいが、それが崩れるのは一瞬だ。いくら強大な経済力と強力な軍事力があるといっても、人々の思想精神状態、青年の革命意識、階級意識が希薄になれば、社会主義の崩壊と破滅という悲惨な代価を払うことになる。これが世界の社会主義運動史が教えてくれる深刻な教訓である」と危機感を露わにした。

▲写真 Wonsan, North Korea 出典:flickr by Mike Gadd

 

■ 金正恩の現地視察も激減

金正恩委員長の視察も激減した。4月の公開活動は3回、5月は2回にすぎなかったが、経済分野は5月1日の「順天燐酸肥料工場だけだった。例年に比べると異常な減り方だ。健康不安のためかも知れないが、経済不振で視察する意欲をなくした可能性もある。金正恩の姿が見えないので、住民たちは、国内に流入した金正恩の健康不安説を信用し始めている。韓国政府が北朝鮮の「代弁者」となり「金正恩の健康に全く異常はない」といくら叫んでも、北朝鮮の国民は、金正恩の健康不安説を信じているのだ。それはそのまま金正恩の統治力弱体化につながっている。

こうした北朝鮮の政治・経済的危機が、金正恩を追い詰め、5月23日の党中央軍事委員会での危険な「戦争瀬戸際方針」をもたらしたのだろう。金正恩委員長には、核とミサイルしか残っていないからだ。

トップ写真:北朝鮮 国旗 出典:Pexels by Simon Rosengren


この記事を書いた人
朴斗鎮コリア国際研究所 所長

1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。著書に『揺れる北朝鮮 金正恩のゆくえ』(花伝社)、「金正恩ー恐怖と不条理の統治構造ー」(新潮社)など。

朴斗鎮

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