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.政治  投稿日:2020/8/6

立憲・国民合流協議、タイムリミット迫る


20200805  安倍宏行編集長が聞く!」

【まとめ】

・立憲・国民合流は対等な立場での合流、国民への大義の提示が重要。

・合意交渉が難航している以上、早期のトップ会談が必要。

・経済対策と検査拡充の同時進行でコロナ感染を早期に食い止める。

 野党の立憲民主党と国民民主党の合流協議が進まない。いずれ来る総選挙を控え、一体野党はどうしようというのか?

コロナ禍に喘ぐ国民は、野党の合流協議など興味はないかもしれないが、実は私たちにとって無視できない重要な意味を持っている。すなわち、安倍政権のままでいいいのかどうか、という選択だ。

自公政権のコロナ対策や経済対策が不十分だと思っても、現時点で与党以外に政権を託そうと思っていても野党が乱立している状態で、結局政権批判票は割れ、結果、与党が勝つ、というパターンが容易に予想されるのだ。

野党が今のままでいいわけがない。国民にとって対立軸が明確な「野党」が必要なのだ。長年、私たちは「二大政党制」の実現を願ってきたはずだ。それが、民主党政権が倒れた後、自公政権が11年続いている。果たして今のままでいいのか、全ての国民が自問自答すべきだろう。さすれば、今の立憲、国民の合流協議のスピード感の無さは一体どうしたことだろう?

一部報道では、合流協議に消極的、とか、孤立無援とまで言われている国民民主党玉木雄一郎代表に話を聞いた。

安倍: 立憲民主党との合流交渉について、孤立無援とまで書かれている。立憲民主党との合流は断念するのか?

玉木氏: 党としては、①衆参一体 ②対等な立場での協議③参議院の信頼醸成、という3つの原則を定めて昨年の年末から交渉を進めている。

年末年始には折り合いがつかず、通常国会開会で交渉を中断していたが、7月15日に立憲民主党から提案を受けて再び交渉を進めている。

年末年始の交渉よりも、対等性は高まっており、「代表は選挙で選ぶ」という合意は評価している。しかし党名を「立憲民主党」のままにする案については、「党名も民主的な選挙で選んではどうか」と文面で提案したが、枝野氏とは折り合えていない。

また「国民にとって新しい政党がいかなるものなのか」という大義を示さないと、新党への支持や期待感も生まれない。コロナの影響が大きいなか、特に経済政策において新党としての一致点を見い出したい。

経済政策として掲げたいのが消費税減税だ。景気が落ち込むなか、消費税減税は新党の旗頭、さらには他の野党をまとめる接着剤となると考えている。憲法についても考え方は一致させておくべきだと考えているが、いずれもまだ一致できていない。

一部では私が「孤立無援だ」「(合流)に反対している」と言われているが、参議院議員や地方議員は選挙で一度戦っているので、いかに彼らのわだかまりを解き、納得できるような環境を整えられるかに腐心してきたつもりだ。

安倍: 新党の綱領や規約の策定は終わったのか。

玉木氏: まだ終わっていない。立憲民主党からの提案では議論の項目に含まれていなかったが、それでは何をする政党なのか分からなくなってしまうということで、先週から政調会長の間で議論を始めている。

安倍: 枝野氏はカメラの前で「(合流交渉を)幹事長に任せていると言っているのに、代表という立場で発言するのかおかしい」と(玉木代表を)批判し、枝野氏自身は「幹事長に任せているから」と意見を何も述べなかった。しかし、代表でありながら意見を全く言わないのは一国民として奇妙に感じてるし、立憲民主党は合流したくないのかという印象を持ったが、これについてはどう考えているか。

玉木氏: 幹事長間の交渉でいくつかの点については合意が出来ているが、根幹のところで折り合えていない。ナンバー2同士でやって出来なかったのなら、トップ同士が腹を割って最終的な政治判断をすべきだと考えている。

コロナで大変な状況なのにも関わらず、政府が十分な対応を取れていないので、国民は野党の具体的なコロナ対策を見たいと思っている。それなのに野党は政局ばかりやっている、と見られるのは良くないので、どのような結論であれ決着を付けたい。

野党は臨時国会召集を要求しており、早くそこでの具体的な政策論に移らないと国民からの信頼を失ってしまう。膠着した状態を打破するためにはトップ同士が話し合うしかないし、どういう結論が出ても、それを踏まえて前に進むべきだ。

安倍: トップ会談の申し入れはしたのか。

玉木氏: 昨日(8月4日)申し入れをして、今週中に会いたいと思っているが、まだ返事は来ていない。

安倍: トップ会談が実現したら、議論のテーマは党名、減税や憲法についてか。

玉木氏:減税と憲法について協議をして欲しいというのは7月22日に幹事長から口頭で回答しているので、あえて指定しなくても良い。大事なのは「何が一致したから我々は同じ政党として力を合わせることを決めたのか」を決めることで、これがなければ新党は国民にとって意味のない存在になってしまう。

そのためには①全員が気持ちよく力を合わせるために名実ともに対等な協議を実現すること、②その合流が国民にとっていかなる意味があるのか明確に示すこと、の2点にこだわっているが、他にこだわりはない。

よく「党名にこだわっている」と言われているが、私は党名そのものにこだわっているのではなく、党名を決めるプロセスにこだわっている。皆が納得できるプロセスを重視しており、党名そのものにこだわっているのは立憲民主党の方だ。投票という民主的な手続きで党名も代表も決め、皆が腹落ちするようなスタートにしたい

なぜここまでプロセスにこだわるのか。それは、立憲民主党の提案通りに合流したら半分程度の議員が合流しないからだ。そうすると、2つの政党が比率を変えて結局2つの政党のままになってしまい、合流が意味のないものになってしまう。やる以上はお互いが1つになれるような環境を整えたい。

安倍: 維新の会と国民民主党の議員有志の勉強会が発足している。「第三極」への動きとも捉えられているが、「第三極」についてはどう考えているのか?

玉木氏: 小選挙区制をとっている以上二大政党制に持っていくべきだ。野党が分裂すると、分裂した分弱くなって、「(選挙に)通る力はないが落とす力はある」ということになってしまう。

しかし維新は、与党なのか野党なのか分からない立ち位置なので、我々が連携すべきかどうかは良く分からない。ただ選挙区では明確に自民党と戦っているので、政権交代を目指していく上で野党としての立場を明確にするのであれば連携の可能性はある

安倍: 立憲民主党は現在共産党と連携しているが、この連携について抵抗を感じている国民民主党の議員もいる。そのために、合流に消極的な国民民主党の議員もいるのではないか。

玉木氏: それは考えられると思う。改革中道として極端な言説は避けるのが我々の立ち位置であり、この立ち位置をこれからも維持していきたい。

安倍: 年内は難しいとしても解散総選挙は近いうちに必ずあると考えられているが、野党の合流交渉は進んでいない。立憲民主党は合意したくないのではないかとさえ思えるが、その場合はどうするか。

玉木氏: 1月に交渉を中断した際に枝野氏は「連立政権で良い」と話していたので、野党連立政権という思いがあるのかもしれない。いずれにせよ、今は合流に向けて最後の調整を行なっている段階なので、うまくいかなかった場合のことについて言及するべきではないと考えている。

安倍: 今回立憲民主党から合流交渉の提案があったのは意外だったが、それだけ立憲民主党にも危機感があるのだろう。交渉のデッドラインはどの当たりを考えているか。

玉木氏: お盆までだと思ってやっている。ダラダラやっていたら国民も呆れてしまうし、合流交渉ばかりが報道されることで野党がコロナ対策を軽視しているように見られてしまうのがもったいない。

安倍:コロナ対策も重要だが、死者がそれ程多くない状況を踏まえると景気対策の方が大事なのではないのか。

玉木氏:やはり景気対策が重要だ。

安倍: もともと玉木氏は中間層への経済対策を唱えてきた政治家だ。このままの経済状況では倒産が続出してしまう。野党が「このまま与党の政治を続けたら大変なことになる」ということを言わない限り、どんどん悪い方向へ進んでしまう。

玉木氏: 政局論争だけでなく、消費税減税や追加給付について議論をすべきだ。特別定額給付金で白物家電の売れ行きが伸びるなど景気の下支え効果はあるし、「助かった」という国民の声は多い。

生活困窮者支援としてに給付を行うのは社会政策として重要だが、経済政策としては幅広い層に給付を行うことが大事になる。生活が苦しい人を支えつつ、中間層以上にはお金を使って経済を回してもらわないとGDPは増えない。

特別定額給付金は相対的に低所得者が潤う政策なのに対して、高所得者の方が消費額が多いので、消費税減税は相対的に高所得者の方にメリットが大きい。この2つをセットでやることで景気はかなり回復する。

あとはPCR検査や抗原検査の拡充をすべきだ。今までのように病気を発見して治療させる形ではなく、経済を回すための新たなカテゴリーの検査として「社会的検査」を広めていきたい。例えば日立製作所は社員を対象に検査を行ったが、こうした検査に国から補助金を出すことで検査をやりやすくしたい。沢山検査を行えばマーケットメカニズムで検査の値段も下がってくる。

検査、隔離、追跡体制の拡充を行い、網羅的な検査を可能にすれば、地域や業種を限定した休業要請をかけることができる。ピンポイントで休業要請を行えば、それに伴う補償も少額で済む。その代わりに法律に基づいた財源の根拠がある休業補償をきちんと行うことで、安心して休んでもらい早期に抑え込む。これを実現するためには感染症法や特別措置法の改正が必要になる。

検査体制の拡充と経済政策をパッケージで行えば、感染の抑え込みと景気の回復の両方を達成できる。

【取材を終えて】

立憲民主との合流の為のトップ会談を模索する玉木氏。ここまで来たら当然のことのように思える。立憲民主党の枝野代表も断り続けるのは奇妙だ。また、党名や代表を選挙で決めるという民主的プロセスを否定する理由もよくわからない。政策も後ですり合わせるのではなく、大きな方向性だけでも固めてからの合流でなければ国民の納得は得られまい。

デッドラインはお盆に入るまで、と玉木氏は述べたが、今週は後、2日しかない。来週からはお盆の休みに入ってしまう。そうこうしている間にも、新型コロナ感染症は拡大の一途だ。再び時短や営業自粛を求められている飲食業者のみならず、迷走する「Go To トラベル」キャンペーンに翻弄される観光・旅行関連業者らからは悲鳴が聞こえる。そればかりではない。市場縮小によりありとあらゆる中小企業の先行きに暗雲が立ち込めているのだ。

野党のトップはこの事実を直視すべきだろう。与党政権を打倒し、政権を担う気概があるのなら、だらだらと合流協議を続けることは許されないはずだ。

(インタビューは2020年8月5日11時30分実施)

ⓒJapan In-depth編集部


この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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