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.政治  投稿日:2021/9/11

衆院選「野党間で競合する選挙区では予備選を」国民民主党玉木雄一郎代表


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

編集長が聞く!」

【まとめ】

・次の内閣も短命に終わり、参議院選前にまた総裁選をやっている可能性あり。

・リベラルだけでなく、中道、穏健保守まで幅広く包み込む政治体制にしなくてはいけない

・総選挙前に、野党間で競合する選挙区があれば予備選をやれば良い。

 

年内に行われる衆院選。今月17日告示、29日投開票の自民党総裁選が盛り上がる中、野党の存在感が薄れている。菅総理の電撃辞任宣言で、野党の選挙戦略も大きく狂った。立憲民主党は野党大同団結に向け、国民民主党に秋波を送るが、果たしてその行方は。代表の玉木雄一郎衆議院議員に聞いた。

安倍: 菅総理が辞任を決断するに至った経緯をどう見ているか?

玉木氏: 困難な状況の中で安倍政権を引き継ぎ、一年間、デルタ株の感染拡大の中で奮闘してこられたと思う。しかしあれだけ持ち上げておいて、選挙が近いからといって引きずり下ろした自民党全体の体質は問題だと感じている。現職の総理大臣が辞任するということは、それを選んだ全ての自民党議員にも責任があるが、振り返って反省したり国民に申し訳ないといった態度の人はほぼ皆無。結局選挙のためか?と思ってしまう。

新しい政策などを(候補者は)それぞれ話しているが、なぜ今まで言わなかったのか、あるいは今すぐ必要なら与党だから臨時国会を開いて法改正なり予算編成なりすればいいじゃないかと。しかしそれもしない。結局は選挙のために菅総理が引きずり下ろされた。いろんな候補の名前が出ているが、常に後援のキングメーカーの名前もセット。自民党の古い体質は変わっていないという気がします。

一番言いたいのは、このことによってコロナ対策に空白が生じているのではないか、あるいは大事な判断・決断が、レイムダック化した菅総理のもとではできなくなって、これが新たな後手後手を生み出しつつあるのではないか、ということが一番の懸念。我々は切れ目なくコロナ対策に必要な政策を訴えてきたし、今でも速やかな臨時国会の開会を求めていきたい。

安倍: コロナ対策、ワクチン接種も増えてきたとはいえ、もっとできたのではないかという意見もある。

玉木氏: 国会でも提案したが、残念だし悔しい。(感染拡大が小康状態だった)3月の時点で病床確保をもっとやっておけということを田村厚労大臣にも総理にも申し上げた。それまで8000人が一日のピークだったが、その2倍程度、16000人は耐えられる病床を確保しますということで、6月までに確保したことになっていたが、実はできていなかった。加えてピークとして考えていたその16000人も、デルタ株で20000人を超えた。つまり想定が甘かった。そしてその甘い想定さえ達成できていなかった。

一番のネックであった病床確保について、喉元過ぎれば暑さ忘れる、で対策を怠っていた。その結果、治療を受けたくても受けられない、入院したくてもできない、そして自宅療養中に亡くなるという命が失われるケースを出してしまった。これが最大の政治の失敗だ。

安倍: 国産ワクチンを作ることができなかった。今後、広義の安全保障という意味においワクチンの問題はどう解決する?

玉木氏: 国民民主党としては、いざという時の備えを強固にする国づくりに変えていく必要があると考えている。これから食料も不足して争奪戦になるかもしれない。もちろん尖閣や北朝鮮など安全保障の問題もあるし、いわゆる経済安全保障、日本の重要技術を持つ会社が買収されて技術が海外に流出するなど、災害はもちろんのこと、あらゆることに備えていかなくてはいけない。

その中で今回、痛恨の極みは国産のワクチンと国産の治療薬を早期に開発できなかったこと。これは日本の科学技術力の低下を表している。なのでもう一度、科学技術立国日本を取り戻すために、人づくりなど教育や科学技術分野の予算を倍増させて大胆に投資を行っていくべきだ。

そのために我々は教育国債を発行する。現在は橋や道路などのインフラには赤字国債である建設国債を発行して投資できるが、これから大事なのは科学技術や人づくり、教育。こういった分野は国債発行してでも私はやるべきだと。予算を倍増させろと。そうじゃないとコロナと同じようにいざという時に治療薬がありません、ワクチンがありません、を繰り返すと思う。今回の教訓を胸に刻んでもう一回、人づくり、科学技術立国日本ということを日本は目指すべき。

安倍: 憲法に緊急事態要項がないことは知られており、だからロックダウンできないんだという話もある。現行法制、もしくは新しい法律を作るのでもいいがもう少し何かやらないといくら緊急事態宣言を延長しても変わらない。

玉木氏: 3つの法改正を今提案している。1つは万全の経済的保障とセットでの一定の外出規制を入れていく。これは災害対策基本法などでも、あるいは原子力対策基本法でも、例えば原発がメルトダウンしたので警戒区域に指定して住むことさえ認めないなど、かなり私権制限している。憲法改正しなくても現行法制下でやろうと思えばできるが、ビビってやってこなかった。だから、ただ動くな、行くな、だと働けなくなるので、そこはきちんとした保障が必要です。また、行くなとなったら子どもの学びの機会が失われるので、オンライン教育の環境、保護者のリモートワークの環境、これをきちんと整えることとセットで外出規制を入れていくということを法律上整備すべきです。

2つめは、諸外国に比べて未だに遅れている水際対策です。日本は島国なので、外から人が入ってくることをシャットアウトできればかなり国内感染を防げるはずなのに、未だに水際がズルズルになっている。

3つめは緊急時の医療体制。日本特有の問題ですが、民間の医療機関が多いというのは普段は良い。しかし緊急時には民間の医療機関に対しても患者の受け入れや医師の派遣について、公的な指揮命令がある程度及ぶような仕組みに変えておかないと。今でもこれだけ医療が大変だといっているのに、コロナを全く診ていないお医者さんもいっぱいいる。医者一人育成するのにかなり税金も投入されているし、診療報酬という形で公的資金が投入されている訳だから、有事においては準公務員のような扱いにして、医者や医療機関に対し、国や都道府県の指揮命令が及ぶような法体系はこの際用意すべきですね。

▲写真 ©︎Japan In-depth編集部

安倍: 自民党総裁選に対してどんなことを期待するか?

玉木氏: いい政策議論をしっかりやっていただきたいなと。私は野党側としてもいい政策論争をしっかりやって、ぶつけていきたいと思っていますが、日本の最大の課題の1つは、賃金が上がらない国になってしまったこと。1996年以降、実質賃金指数はずっとマイナスになっていて、先進国の中で賃金が上がらない国は日本だけです。そこに象徴されているように非常に安い、貧しい国に今なろうとしていて、これを転換しない限りは真面目に働いた人が報われない社会になってしまう。それは社会の活力を削ぐことになってしまいますから、もう一回、頑張って働けば賃金が上がる国、そういう日本に変えていきたい。

そのためには経済政策を大胆に積極財政に転換する。我々は名目賃金上昇率が4%になるまでは積極財政と大胆な金融緩和を継続すべきとの立場。物価上昇率が2%までそういった大胆な政策を継続するということを安倍さんも高橋(洋一)さんも言っているけれども、一般の人からしたら物価が上がるのはあまり良くないので、むしろ賃金上昇率が一定になるまで、大胆な政策を続ける方が、国民の共感を得やすい政策目標になる。

一番の問題はデフレの中でも賃金デフレが問題。賃金が上がっていけばいろんなことが解決する。年金も連動して上がるし、老後の安心も手に入ってくる。だからもう一回、93年以降、4半世紀近く停滞の経済になってきたのを反転させていく。一番わかりやすいのが賃金の上がる国、ニッポンにもう一回戻しましょうということ。このメッセージは明確だし、働く人の立場に立った政党としても、日本経済全体としても非常に良い目標だと思うので、そこは追求したいですね。

安倍: 次に誰が内閣総理大臣になろうとも事態はあまり変わらない?

玉木: 変わらないですね。今まで内閣や与党にいて変えられなかった人たちがこれからできるはずもないから。もし本当に必要だったら今までにできているはずじゃないですか。

安倍: 次の内閣も本格的なものにはなり得ないと?

玉木: 場合によっては次の内閣も短命に終わる可能性があって、選挙の顔を目的にできた政権は、また選挙を目的に変わる可能性がある参議院選挙の前にまた総裁選挙をやっているかもしれない。安倍政権の前のように、一年ごとに総理が変わるような状態に戻ってしまうのではないか。野党側も本気で政権で取るために変わらなくてはいけない。

今やっている自民党総裁選挙は派閥を超えた争いになってきている。今の野党各党は自民党で言ったら派閥くらいの人数しかいないので、党派を超えて、どういう野党のリーダーを立てて、どういう枠組みで自公に変わる受け皿を作るのか、既存の発想を超えてやっていく。さらに野党間で競合する選挙区があれば予備選をやれば良い。裏で調整するのではなく、政策をぶつけあって、自民党候補に一番勝てる、決勝戦に臨むもっとも強い候補を選ぶのです。野党同士の厳しい争いを国民に見せたら良いんですよ。そこで勝った者がその勢いをもって決勝本戦に臨む。そうしたら有権者からも見えやすいし、盛り上がりますよ。野党にもメディアが注目してくれると思いますし。

安倍: 立憲民主党からは一緒にやってきた仲だから国民も我々と一緒になってやろう、との声も聞こえるが?

玉木氏: 野党がいろんな形で力を合わせて行くのは大事ですし、自公政権に代わりうる政権を作るというのが政治を志した原点ですから、私はそれをずっと目指している。ただそのためには、左に寄りすぎたら絶対に取れない。(総選挙は)51%を取るゲームなので、リベラルだけでなく、中道、穏健保守ぐらいまでは幅広くおおらかに包み込むような政治体制にしなくてはいけない。だから今回我々は市民連合の政策協定には参加しなかったんですが、それは彼らを否定するわけではなく、その枠だけでは政権が取れないと思うからです。

私がぜひ訴えたいのは、ある程度幅の広い野党じゃないと、幅の広い民意を受け止められないということ。そのためには野党を支援する支援者や支援団体もおおらかで寛容にならないと。ちょっと自分たちと違うことがあったら、「もうお前敵だ、許さん」となっていると、小さくにしかならない。過半数を取るゲームで勝てない。自民党は、新自由主義との決別みたいなこと岸田さんが言い始めている。これは野党の領域にまで政策的に踏み込まれてきているから勝てないですよ。野党側も左から右まで大きくウィングを広げないと。

安倍:だったら野党4党と市民連合の場にいてもよかったのでは?

玉木氏: でもあの政策協定だと左にしかおさまらないですよ。まとめるのだったら安保や原発などを書かずに、今はもうコロナなので命を守ることと国内政策が大事なのだから、消費税減税とか積極財政とか、あるいは病床の確保とか明らかに一致できるところで一致させて頑張ろうってやれば良いのに、踏み絵のようなことをしている。今、地元を回ったり、オンラインなどで1000人、2000人を前に話をしたりするが、誰一人として安保法制のことを言う人はいない。そのことを書くことによってある種排除が働いているのは、戦術、戦略的に勿体無いし、かえって狭めている。

安倍: そういう風に言えばよかったのでは?

玉木氏: 言っているんですよ。

安倍: 野党の大同団結を図るために、国民も立憲民主と一緒になるという選択肢はないのか?

玉木氏: であれば幅広く結集できるような接着剤を作る必要があって、左しかくっつかないような接着剤でやるから左しか固まらないんですよ。だから幅広く結集できるような内容なり接着剤をなぜうまく作らないのかなと思います。

安倍: 立憲民主との選挙区調整は?

玉木氏:(立憲との競合区は)ほぼないですね。だから我々にとっては新たにやるメリットがないんです。もう少し幅広く、かつ市民連合に任せるのではなく、野党第1党が幅の広い政策でやりませんかといって、まとまるためのリーダーシップを発揮するべきだと思う。

(市民連合と野党4党との政策協定は)わかりにくいし、最終的に責任が持てないですよ。ああやって結んだとしても、結局各党バラバラに公約を出していくわけですから。

安倍: 国民民主が触媒にならなくてはいけない。

玉木氏:だから野党第1党がそこは幅広い結集のテーマを作る。私がやるならそこは消費税減税。ここは明らかに自民党には言えない。高市さんもあれだけ積極財政と言いながら、消費税減税はしないと言っているわけですから。旗印としての消費税減税は、共産党から維新まで共通している唯一の政策なのです。それだけ書いておけば良いのに他に色々書くから、合意できなくなって、勿体無いなという気はしますけどね。

安倍: 選挙前になんらかの動きは可能ですか?

玉木氏: 可能だと思いますよ。本当に野党でやろうとしたら、例えば維新も自公に向き合って選挙をするのであれば、野党が全部結集して、ある程度一対一構造にすることをしたらそれは自民党も公明党もビビりますよ。

安倍: 維新は立憲とは距離があるが。

玉木氏: 距離がありますけれども、選挙のリアルを考えるとそこも含めて考えて行かないと政権は取れない。維新も自公に代わる政権の下で、責任ある野党と言ったって、何十議席とったって政権取れないではないですか。じゃあどうするのか。安倍・菅政権と、維新とつながりの強い政権が続いてきましたが、今度総理が代わったらどうしていくのか、維新も問われる。究極的には今の選挙制度でいうと、なんらかまとまっていかないと生き残れません。

安倍: 維新にも当然声かけはしていく?

玉木氏: それは野党第1党がすれば良いと思いますよ。

安倍: しかし触媒が必要だ。

玉木氏: もちろん。我々としては大事だと思うし、そうしないと足し算が合わない。今回は千載一遇のチャンス。やっぱり自民党に代わる政権の受け皿を作る。国民の考え方も今は多様ですから、自民党がいやだと言っても必ずしもそれが思想信条的にリベラルとは限らない。だから幅広い幅でしっかりと受け止められるような野党側のある種の大きさとおおらかさが、野党側にも求められています。

(立憲には)こっちに来いって言われるが、こっちにきてほしいなと思う。中道の方が幅広く取れますから。

安倍: 長期政権のおごりで、不祥事が相次いだ。国民もそこはシビアにみていると思う。

玉木氏: 権力は長期化すると腐敗するというのは古今東西、ある種の理だ。だから時々替えなくてはいけない。自民党・公明党の長期政権の膿みたいなものが溜まっている以上、表層は代わっても本質は変わっていないので、やっぱり根本的に替えなきゃいけない。

安倍: それをどう国民にわかってもらうか。

玉木氏: 自民党もガチンコで党内権力闘争をやっているのだから、野党もある種のガチンコの勝負を準決勝でする。真剣に争って、勝者が堂々と決勝で挑んでいくというところを、野党も国民に見せないといけない。アメリカは民主党と共和党がそれぞれ予備選挙をやって、スキャンダルあったら落ちたり喧嘩したりして一人選んで、最後それが大統領選でガッと激突するじゃないですか。あれが政治参加の意識を高めていると思います。

(インタビューは2021年10月9日に実施)

トップ写真:©︎Japan In-depth編集部




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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