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.国際,未分類  投稿日:2020/8/7

アジアに新たな中国包囲網か


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・「中国はコロナ後の外交政策に失敗した」の論文公表される。

・印豪の新防衛提携でインド太平洋地域の戦略構図に変化も。

・中国の軍事攻勢に比も態度を硬化させ米軍取り込みも。 

          

中国の最近の周辺諸国への軍事がらみの攻勢がインド太平洋地域に緊迫をもたらし、新たな反中国の安全保障協力の絆が強化されるようになった。

 

とくにインドとオーストラリアの新防衛提携はアメリカの支援をも得て、同地域の戦略構図をも変えかねない状況となってきた。ワシントンの専門家筋ではこの動きを新しい中国包囲網ともみている。

 

ワシントンの中国やアジアの安全保障問題の専門家たちの間では、最近の中国の好戦的ともみえる対外軍事行動に新たな警戒が注がれるようになった。

 

たとえば外交・戦略専門のベテラン・ジャーナリストのファリード・ザカリア氏は6月26日のワシントン・ポストに「中国はコロナウイルス後の外交政策に失敗している」というタイトルの論文を載せ、中国の近隣諸国との関係悪化を報告した。

▲写真 ファリード・ザカリア氏

出典)World Economic Forum

 

ザカリア氏は民主党リベラル系の記者で、日ごろはトランプ政権の政策には反対し、その対中強硬政策にも批判を浴びせることが多かったが、今回の論文では中国の軍事活動をトランプ政権に同調する形で取り上げた。

 

ザカリア論文が最も深刻な懸念を向けたのは中国のインドに対する軍事攻勢で、両国のヒマラヤ山脈地帯の国境地域ガラヤン渓谷で両国軍が衝突してインド側に少なくとも20人ほどの死者が出た事件だった。

 

インド政府は6月中旬のこの衝突を中国軍の違法な侵入の結果とみており、中国への強硬な抗議を表明した。

 

ザカリア論文はこのほかに中国の最近の軍事行動としてベトナムの排他的経済水域(EEZ)での中国海軍艦艇によるベトナム漁船の沈没、南シナ海での中国の違法の領土拡張や軍事基地建設に威圧されるフィリピン、コロナウイルスの発生源の国際調査を要求した報復に経済圧力をかけられたオーストラリアなどの実例をあげていた。

 

ワシントンでは大手研究機関のハドソン研究所やヘリテージ財団もここ数ヵ月の中国の軍事志向の攻勢に真剣な視線を向け、調査研究や報告を重ねるようになった。そうした関心の対象となるインド太平洋の動向でまず注目されるのはインドとオーストラリアの両国が6月上旬に結んだ「包括的戦略パートナーシップだった。

 

インドのナレンドラ・モディ首相とオーストラリアのスコット・モリソン首相との間で結ばれたこの協定は海洋での両国の安全保障や防衛の協力を約しあっていた。軍事同盟にはいたらないが、明らかに中国の軍事脅威を念頭においての両国の提携だった。

▲写真 テレビ電話による首脳会談に臨むモリソン豪首相(手前左)とモディ印首相(テレビ画面)(2020年6月4日)

出典)Scott Morrison twitter

 

同時にインドが中国の軍事動向に警戒や反発を強め、防衛面で長年の非同盟政策を薄めて米国との軍事協力を始めるようになったことも中国の敵対を増す新展開として注目されている。アメリカとしては中国の軍事膨張には正面から対決の姿勢をすでにみせているから、インドとの防衛協力は歓迎すべき動きだとみている。

 

中国の南シナ海のスプラットレー諸島での軍事行動の活発化は同諸島の領有権を主張するフィリピンの対中姿勢をも硬化させた。フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は当初、アメリカとの軍事面での距離をおく政策をとり、準同盟に近い「訪問米軍地位協定」をこの8月には失効させることを2月に発表した。

 

ところがドゥテルテ大統領は最近の中国の軍事攻勢に懸念を表明して、この6月上旬にはその「訪問米軍地位協定」を現行のまま継続保持する新方針を発表した。明らかに対中警戒からの米軍取り込みの措置だった。

▲写真 首脳会談に臨むトランプ米大統領とドゥテルテ比大統領

(2017年11月13日 フィリピン・マニラ)

出典)White House

 

中国は日本に対しても沖縄県石垣市尖閣諸島の日本の領海や接続水域への武装艦艇による侵入を継続している。

 

中国はさらに台湾に対してもその水域、海域を海軍、空軍によって侵犯あるいは侵犯ぎりぎりの威嚇行動を激しくするようになった。

 

中国はこのように近隣諸国多数への軍事行動、準軍事行動をエスカレートさせてきたわけである。その動機はコロナウイルス後の国威発揚か、あるいはウイルスで弱体となった近隣諸国の消極姿勢につけこみ、懸案の領有権主張を強める好機とみたのか、観測は多様である。

 

いずれにしても中国が南シナ海、東シナ海、インド洋で日本をも含むその地域国家群との対立を鮮明にしてきたわけである。

(**この記事は 一般社団法人日本戦略研究フォーラムのサイトの「古森義久の内外抗論」という連載コラムからの転載です。)

 

トップ写真)豪印海軍合同演習(2019年4月) 

出典)Department of Defence twitter 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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