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.国際  投稿日:2020/6/1

コロナ拡散日本も中国の責任問え


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・「ハドソン研究所」リビー氏が中国のコロナ拡大の責任を追及。

・日本にアメリカと一体になって中国政府の責任への追及を期待。

・安倍政権の対応、日米同盟に影響及ぼす動向として注目される。

 

中国政府が新型コロナウイルス感染を国際的に広めた責任を日本はアメリカとともに厳しく追及してほしい――ワシントンの大手研究機関の代表がこんな意見を発表した。同研究機関はトランプ大統領が次期駐日大使に任命した人物が所長を務めてきた実績があり、今回の意見もトランプ政権やアメリカの次期日本大使の主張ともなりそうだ。

コロナウイルス大感染に対する中国政府の責任の追及を日本にも呼びかけたのはワシントンの有力シンクタンク「ハドソン研究所」の副所長ルイス・リビー氏である。

▲写真 ルイス・リビー氏 出典:Hudson Institute

ハドソン研究所はワシントンの多数の研究機関でも最古に近い伝統を保ち、トランプ政権にもきわめて近い。同政権のマイク・ペンス副大統領やマイク・ポンペオ国務長官が重要な対中新政策を公表する際にもハドソン研究所の集会で演説して、最初にその発表の機会とした実績がある。

またハドソン研究所のケネス・ワインスタイン所長は2020年3月にはトランプ大統領から次期日本駐在大使に任命された。ワインスタイン氏はまもなく議会上院での任命承認を経て、東京に赴任することになっている。

副所長のリビー氏は同研究所の政策面での中心人物となっており、その意見表明はワインスタイン所長やトランプ政権の意向をもたぶんに反映している。

リビー氏は先代ブッシュ政権で国務、国防両省の高官を務め、国家安全保障や対アジア戦略に関与してきた。二代目ブッシュ政権では大統領補佐官やディック・チェイニー副大統領の首席補佐官として活動した。

リビー氏はワシントンの政治・外交雑誌のナショナル・インテレストの5月発売の最新号に「コロナウイルス後の中国と対決するために、われわれはより大きな構図をみすえねばならない」と題する論文を発表して、この意見を述べた。

ルイス論文の骨子は以下のようだった。

 

・ポンペオ国務長官が4月23日にも明確に言明したように、中国は全世界と共有すべき新型コロナウイルスについての情報を隠すことによって全世界の数えきれない市民たちに重大な苦痛と多数の死をもたらした。アメリカ国民は怒っており、中国はその代償を支払わねばならない。

・昨年末から今年1月にかけて中国の最高指導層は自国内でのコロナウイルス感染症に適切な対処をせず、中国内部で多数の犠牲者が出ることを放置しただけでなく、数千、数万の感染者が国外に出ることをも黙認した。その結果、全世界で甚大な人的、経済的な被害を招いた

・中国共産党政権はコロナウイルスについての秘密を隠蔽し、その危険性を十分に知りながら、諸外国の政府や国民に知らせないまま、ウイルスの国際的な大感染を引き起こした。その背景には各国政府が油断や楽観や無知により、自らの感覚を麻痺させてきたという実態が存在した。

・中国共産党政権はコロナウイルス大感染の以前から香港やウイグルでの人権弾圧を断行して、住民多数を苦しめてきた。アメリカはトランプ政権の主導の下、政府や議会が中国のこの弾圧政策に抗議をしてきたが、今回のコロナウイルスの大感染でそれまでの中国追及の勢いを削がれ、方向をずらされることとなった。

 

リビー論文は以上のように中国政府のコロナウイルスの国際的な拡散に対する責任を鋭く追及していた。その追及はウイルス問題だけでなく、中国政府がその以前から進めてきた香港や新疆ウイグル自治区での弾圧や抑圧の行為にも向けられるべきだと強調していた。

そのうえでアメリカは中国の今回のウイルスへの対処のゆがみを欧州諸国や日本と一致して追及することを提唱していた。日本に対してはトランプ政権が安倍晋三首相の以前の対中姿勢を高く評価したことを指摘して、とくに大きな期待を表明していた。

その要旨は次のようだった。

 

・いまやコロナウイルスはベルリン、パリ、ニューヨーク、そして東京を襲った。アメリカ、ヨーロッパ、そして日本はいずれも中国政府の責任に関して明確な判断を下すことを余儀なくされるにいたった。曖昧な態度は許されない。各国の政治指導者たちは中国に対して断固とした抗議の言動をとらねばならない。

・トランプ政権が2018年に中国政府の不当な行動を非難するペンス副大統領による重要演説を明らかにしたとき、日本の安倍首相はとくに強く賛同を表明した。他の諸国の指導者の多くは下を向いたり、沈黙を保ったり、明らかに中国を恐れて、前向きな態度をとらなかった。だが今回は明確な対応をみせないことの危険性が十分に証明された。

 

リビー論文はこのように安倍首相へのトランプ政権からの期待の大きさを強調して、とくに日本政府にアメリカと一体になってのコロナウイルス拡散での中国政府の責任への追及や糾弾の言動を頼りにしているという基本線を明示したのだった。

中国への融和ともうけとれる言動を散見させるようになった安倍政権が果たしてどこまでこのアメリカ側の期待に応じられるのか、その展望は日米同盟の連帯にも影響を及ぼす動向としていまや注目されるわけである。

トップ写真:平成29年11月11日(現地時間)、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議にて習近平中国国家主席と握手する安倍首相 出典:首相官邸


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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