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.国際  投稿日:2020/10/6

米大統領選、バイデン優勢変わらず


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー【速報版】 2020#41

10月5日-11日

【まとめ】

・米大統領選第1回TV討論会、ディベート学の基本に反する姿勢で終始。

・最悪の討論会になったのはトランプ陣営の劣勢、焦りが原因。

・バイデンがやや優勢な状況に変化なし。

 

先週は興味深いトピックが目白押しだ。まずは、米大統領選挙のTV討論会第一ラウンドから始めよう。アンカーはFOXニュースのクリス・ウォレス、あの保守的TV局内では数少ないバランスの取れた司会者だと思う。たまたま時間があったので同討論会のTV生中継をずっと見ていたが、結果を先に言えば、全くの時間の無駄だった。

論点としては最高裁、コロナ、経済、納税申告、人種、法と秩序、気候変動、郵送投票、国民へのメッセージなどが用意されたのだが、内容は恐ろしく浅かった。44年間の米国大統領選観察で、恐らく今回が最悪の討論会だったと思う。直後に話した米国の友人たちも、「恥ずかしい、信じられない」を連発していた。

理由は簡単、両候補、特にトランプ氏が、人の話を聞かず、相手の話の途中に割り込んで、罵倒するという、ディベート学の基本に反する姿勢に終始したからだ。ボクシングで言えば、相手がパンチを出すとすぐクリンチする、反則ばかりで試合にならない。最近米国で「Presidential」という言葉が使われなくなった理由が良く分かった。

反則の多くはトランプによるものだったが、バイデンも堪忍袋の緒が切れたのか、Will you shut up, man?と発言するなど、トランプの挑発に乗ってしまった。大統領候補同士の討論会が「正々堂々、事実と論理、どちらが大統領の相応しいか」のコンテストにならなかったのは、予想通りではあったが、それにしても、がっかりしたな。

最大の理由はトランプ陣営の劣勢、トランプの焦りだろうが、結果はトランプ陣営にとって逆効果となった。過ぎたるは猶及ばざるが如し、とはこのことだ。特に、アンカーのウォレスがトランプに何度も苦言を呈していたのには驚いた。一方、バイデンは立派だったかというと、必ずしもそうではない。

やはり、バイデンはごく普通の候補者に過ぎなかった。相手がトランプだからよく見えただけかもしれない。今回はトランプがあまり突っ込むので、バイデンがボケたり、失言したり、暴言を吐く暇すらなかったのが幸いしたのではなかろうか?全国レベル、激戦州レベルともに、バイデンがやや優勢な状況に変化はないだろう。

今回の討論会はエンタメそのもので、大勢に影響はないのではないか。それに比べれば、トランプ氏のコロナウイルス感染と入院のニュースの方がはるかにインパクトがある。病状は徐々に回復しているそうだが、本当か。酷い大統領候補者ではあるが、それでも「一日も早い回復をお祈りする」、これが大人の対応というものだろう。

いずれにせよ、世論調査では50-53対42-44でバイデンがリードしている。討論会開始前とあまり変わらず、バイデンが少し増えた程度だが、そもそも現時点で迷っている無党派は少ないとの調査結果もある。多くの大統領選挙は激戦州での浮動層の数%の動きで決まることが多いので、大統領入院で、また先行きが見えなくなった。

▲写真 バイデン候補 出典:Utica College Center of Public Affairs and Election Research

今後は、10月7日に副大統領候補者による討論会(ユタ州ソルトレークシティー)、10月15日に第2回大統領候補者による討論会(フロリダ州マイアミ)、10月22日に 第3回大統領候補者による討論会(テネシー州ナッシュビル)が予定されているが、本当に討論会なんてやれるのか、状況は星雲状態と言って良いだろう。

もう、正直言って、トランプの動静を追っかけるのは疲れた。今週筆者が最も懸念するのは、ナゴルノカラバフ情勢だ。1994年に停戦になったはずの紛争だが、過去一週間のアゼルバイジャンとアルメニア両国間の武力行使の応酬は従来と違う何かを感じさせる。欧米が無関心な中で、大問題に発展することを恐れる。

最大の理由は、この問題にトルコ、イラン、クルド、ロシアなど中東・中央アジアのややこしいことを平気でやる国々が直接・間接に関与していることだ。大統領の入院騒ぎで米国政府はほとんど脳死状態だろうから、ロシアやトルコがやりたい放題やる可能性がある。民主主義の下で立派な外交をやるのは実に難しいなと痛感する。

 

〇 アジア

今週日本で日米外相会談と、日米豪印のQuad外相会合がある。このコロナ禍の中で、米大統領入院の騒ぎの中で東京で開かれること自体、意義があるということ。

 

〇 欧州・ロシア

上記のナゴルノカラバフ問題で仏大統領が色々発言している。フランスは正論を言うのだろうが、EU全体が連携しているように思えない。これではロシアにやられる!

 

〇 中東

茂木外相がサウジを訪問、同国の新エネルギー戦略や脱石油に向けた経済改革を話し合ったそうだが、それって30年前とどこが違うのかね?サウジは変わらない。

▲写真 茂木外務大臣 出典:Flickr; The Official CTBTO Photostream

〇 南北アメリカ

トランプ氏は軍の病院で治療を受けた後、病院を一時抜け出して、支持者のいる公道で車内から手を振っていた。トランプ氏の主治医にだけはなりたくないものだ。

 

〇 インド

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:トランプ大統領 出典:Flickr; Gage Skidmore


この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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