トランプ氏、政権移行拒む訳
トップ写真)トランプ大統領とサポータ-
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#47
2020年11月16-22日
【まとめ】
・米、政権移行進まず、安全保障上の脅威もたらす可能性あり。
・トランプ氏が任用したGSA長官、バイデン氏勝利認めず。
・次期政権関係者は全手続きを来年1月20日迄に済ませる必要あり。
米国内政が、予想通り、大混乱となっている。各報道機関はバイデン当確を報じたが、次期政権への移行プロセスは殆ど進んでいない。トランプ氏が政治任用したGSA長官がバイデン氏勝利を未だ認めていないからだ。安全保障の専門家は、政権移行の遅れが国家安全保障上の脅威をもたらす可能性すらあると懸念する。
GSAとはGeneral Services Administration一般調達局のこと、米連邦政府の施設管理や調達を担当する職員約1万人の地味な官庁だ。米法令上は、同局のトップが次期大統領の勝利を認定し、政権移行に必要なスペースや資金を提供するのだが・・・。でも、こうした混乱はトランプ氏の事前の思惑通り、恐らく彼は本気なのだろう。
先週テレビで「なぜトランプは敗北を認めないのか」と聞かれて往生した。理由なんて、恐らくないからだ。4年後の大統領選再出馬説、新保守系メディア立ち上げ説など識者は様々なことを言うが、筆者の答えは簡単、姪のメアリー・トランプの言う通り、「彼は自己愛性●●障害」なのだ。それって病気なのかと聞かれ、「いえいえ、あれは彼の性格です」と答えておいた。性格なのだから、仕方ないではないか。
それはともかく、米国では4年毎の大統領選挙後に最大で4000人の連邦公務員が交代する。局長級以上の高官には議会の承認が必要だし、外交や国防の関係者であれば、機密情報へのアクセスも不可欠となる。次期政権関係者はこれら全ての手続きを11月第2週から翌年の1月20日までに済ませる必要があるのだ。この点については今週の日経ビジネスオンラインに詳しく書いたので、ご一読願いたい。
もう一点気になるのが日韓関係だ。先週は国家情報院長や韓日議員連盟所属議員が菅義偉首相と面談するなど、韓国からの「外交攻勢」が目立った。努力は分かるのだが、どうも、違うんだよなぁ。首脳会談が先か、大筋合意が先かという「鶏と卵」論争を繰り返しても、日韓関係は先に進まない。詳しくは今週のJapanTimesのコラムをご一読願いたい。
〇アジア
25日ぶりで金正恩委員長の動静が報じられた。15日に党政治局拡大会議を主宰したそうだ。「バイデン当選確実で米朝対話路線の見直しは不可避、経済難の長期化も予想される中、体制の引き締めを図る狙い」だそうだ。「25日間の空白は今年最長、米大統領選を受け外交戦略を練り直した可能性がある」とも報じられたが、本当かね。
〇欧州・ロシア
欧州でコロナウイルスが再拡大している。各地でロックダウンまたはそれに近い状態が始まりつつあるが、どうやら夏のバカンスが一因らしい。スペインで発見されたウイルスの変異型が英仏など他国でも見つかったそうだが、欧州内であれだけ移動すれば、変異しようが、しまいが、感染拡大は当然。来年も欧州には行けそうもない。
〇中東
アルカイダNo2のエジプト人幹部が8月にイランで米国の要請を受けたイスラエルの工作員に殺害されていたと報じられた。でも、よく考えてみれば、凄い話だ。イランに保護されていたアルカイダがイラン国内でイスラエル工作員に殺されたのだから。このミスマッチは凄い。事実であっても、イランはこの報道を否定するしかないだろう。
〇南北アメリカ
トランプ家内部が「敗北を認めるか、否か」で割れているらしい。報道が事実なら実の息子たちの方がイヴァンカ夫妻より強硬らしいが、今後NYで一体誰が彼らを相手にするだろうかと思うと、この一風変わった家族の将来が何となく気になる。だが、それ以上に気になるのが共和党の現指導部だ。誰かトランプに鈴を付ける勇気のある政治家はいないのか。そろそろGOP(Grand Old Party)の名は返上した方が良い。
〇インド
先日RCEPがインド抜きで漸く立ち上がった。インドにとっては、RCEPに残るのも地獄、去るのも地獄ではないのか。今週はこのくらいにしておこう。
いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真: 選挙キャンペーン中のトランプ大統領(2020年10月)
出典:The White House facebook
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。