東南アジア外交重視を【2021年を占う!】日本外交
嶌信彦(ジャーナリスト)
「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」
【まとめ】
・バイデン氏は多国間主義への復帰を目指そうとするが抵抗も大きいだろう。
・米中の亀裂も大きい。日本に米中関係を修復させる力と意思はあるか。
・政府は、日本の基盤である東南アジア外交にもっと力を入れるべきでは。
「アメリカ第一」を唱えたトランプ政権時代は、過去のアメリカが世界をリードしてきた国際条約や国際機関から次々と脱退し、世界の同盟国を困惑させてきた。
特に地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」や世界保健機関(WHO)からの一方的離脱、イランとの国際的核合意からの脱退、さらに自由貿易を推進するための環太平洋経済連携協定(TPP)などからも脱退するとして、経済のグローバル化や自由貿易、多国間主義にも背を向け、NATO加盟国や日本に防衛費の負担増を迫ってきた。
バイデン新大統領はこうしたトランプのアメリカ第一主義を改め、日本や欧州諸国とのかつてのルールに基づく多国間主義への復帰を目指そうとするだろう。その点では、アメリカと他の自由主義国との関係は落ち着いたものになるかもしれない。
しかし、トランプが敗北したとはいえ、バイデンと僅差の7000万票台の得票を獲得しており、アメリカの分断の深さも見せつけている。米国東部と西海岸にはバイデン支持者が多いものの、アメリカ中西部にはトランプ支持の固い基盤があるようで、簡単に昔のアメリカに戻れるとは思えない。
バイデンが国際協調主義を進めるとしてもアメリカ国内には相当の抵抗があるのではないだろうか。もはや昔の“良きアメリカ時代”に戻るには、相当の時間がかかるし、アメリカ国民自身がアメリカ社会分断の傷跡が思っている以上に深かったことを思い知らされそうだ。
しかも国際社会では、米中の亀裂も大きく、対立点も少なくない。日本は今後もアメリカに肩を寄せた外交をとれるのか。欧州も中国との貿易を考えるとアメリカ一辺倒というわけにはいくまい。
日本は米中の対立に割って入り、修復させる力と意思があるのかどうか。さらに日本は安倍政権時代に“トランプのアメリカ”に力を入れすぎ、トランプのアメリカとの絆は深めたが、日本の基盤である東南アジアを放置した感じがする。東南アジア外交にもっと力を入れるべきだったのではないか。
トップ写真:菅義偉首相(2020年12月16日) 出典:首相官邸 Twitter
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この記事を書いた人
嶌信彦ジャーナリスト
嶌信彦ジャーナリスト
慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、通産省、外務省、日銀、財界、経団連倶楽部、ワシントン特派員などを経て、1987年からフリーとなり、TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務める。
現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」にレギュラー出演。
2015年9月30日に新著ノンフィクション「日本兵捕虜はウズベキスタンにオペラハウスを建てた」(角川書店)を発売。本書は3刷後、改訂版として2019年9月に伝説となった日本兵捕虜ーソ連四大劇場を建てた男たち」(角川新書)として発売。日本人捕虜たちが中央アジア・ウズベキスタンに旧ソ連の4大オペラハウスの一つとなる「ナボイ劇場」を完成させ、よく知られている悲惨なシベリア抑留とは異なる波乱万丈の建設秘話を描いている。その他著書に「日本人の覚悟~成熟経済を超える」(実業之日本社)、「ニュースキャスターたちの24時間」(講談社α文庫)等多数。