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.国際  投稿日:2021/3/10

バイデン政権対中戦略転換へ


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#10」

2021年3月8-14日

【まとめ】

・バラマキ予算成立へ。11日にバイデン大統領が重要演説。

・「自由貿易」の表現消えて「米国労働者の利益」を強調。

・安保分野に加え、経済貿易分野でも米の対中政策は確実に方向転換。

 

米東部時間で今週11日、バイデン大統領が重要演説を行うらしい。新型コロナウイルス関連救済策として進めてきた1.9兆ドル(約200兆円)規模の大型経済対策法案が6日に連邦上院を通過し、再び下院での審議を経て近く成立する可能性が高まったからだ。バイデン政権にとっては大統領選での重要公約実現ということになる。

発足後45日経ったバイデン政権は「giant step forward」だと手放しで評価しているようだ。基本的には米国内政治の問題なので、日本ではあまり詳しく報じられていないが、各種報道によれば、「アメリカン・レスキュー・プラン(アメリカ救済計画)」と題された今回の法案の骨子は次の通りであるらしい。

①高額所得者を除く大多数の国民に1人あたり最大1400ドル支給

②連邦政府が支払う失業保険追加給付として週300ドル給付

③州政府や自治体に3500億ドル、学校には1300億ドルを支給

④新型コロナウイルス検査・研究に490億ドル、ワクチン供給に140億ドル支出

⑤年収7.5万ドル未満の納税者に現金1400ドルを給付

⑥中小企業への支援金、等々

若干注釈を加えよう。

①の1400ドルは選挙戦中からの経緯がある金額で、確かトランプ氏も主張していた額だ。

②の300ドルは元々400ドルだったが上院で100ドル減額されたもの。民主党のリベラル派は大いに不満だろうが、3月14日に失業保険が切れるので、失業者にとっては朗報である。

⑥についてはレストラン・バーに250億ドル、航空各社に150億ドル、空港に80億ドルなどを割り当てるそうだ。

要するに、史上空前のバラマキ予算なのだが、やらない訳にはいかない。このツケはいつか必ず回ってくるが、それはその時考えればよい、ということだろう。

更に、筆者が関心を持つのは米国の経済貿易政策だ。先月末に次期USTR(米通商代表)の議会承認公聴会が開かれたが、その内容が実に様変わりだったからである。

詳細は毎日新聞政治プレミアに書いたのでご一読願いたいが、結論はこうだ。

①USTRの発言の中から「自由貿易」という言葉が消え、

②新たに「米国労働者の利益」、「高水準の労働環境」が加わり、

③日本批判に代わって中国批判が急増したということである。

だが、筆者が気になるのはこれだけではない。

実は2月24日にバイデン大統領がある重要な大統領令に署名している。報道ではこれにより「370億米ドルの連邦政府投資を行い、半導体の供給不足に対応するための道が開かれる」という。米半導体業界も歓迎しているそうだが、おいおい、これって米国が長年忌み嫌ってきた「産業政策」そのものではないのかい?

この大統領令では、「米国の競争力を保護および強化していく上で不可欠な4つの重要製品のサプライチェーンについて、直ちに100日間のレビューを行う」とされ、対象は半導体に加え、主要な鉱物/材料、医薬品、高性能バッテリーとされている。「背に腹は代えられない」のだろうか、明らかに中国を意識した政策転換だろう。

現在バイデン政権では、米政府全体で対中政策に関する総合的見直しが進んでいるらしい。その全貌が見えてくるのは数カ月先になるだろうが、安全保障分野だけでなく、経済貿易分野でも、米国の対中政策が、ゆっくりではあるが、確実に方向転換し始めていることだけは間違いなさそうである。

〇アジア

ミャンマーでは今も流血が続いているが、7日、中国の国務委員兼外相は「対話と交渉を続け、憲法の枠組みによって対立を解決し、民主化プロセスを継続することを望む」と述べたそうだ。おいおい、それを言うなら、まずは中国内とは言わないが、せめて香港からでも「民主化プロセス」を再開しては如何だろうか。

〇欧州・ロシア

スイスで7日、イスラム教徒女性を念頭に、公共の場で顔を隠す衣装の着用を禁止する提案につき国民投票が行われ、賛成約51%で可決された。投票率も約51%だったというから、本当に僅差である。確か、似たような禁止令はフランスやベルギーにもあったと思うが、イスラム教徒なら「スイスよ、お前もか?」と言いたいところだろう。

〇中東

先週もサウジアラビア東部にある国営石油会社サウジアラムコの石油施設で無人機やミサイルによる攻撃があった。イエメンの「フーシ派」が犯行を認めたというが、彼らがドローンやミサイルを作れるとは到底思えない。これも6月のイラン大統領選挙まで続く米イラン間の「代理戦争」の一部と見るべきだろう。

〇南北アメリカ

昨年は新型コロナウイルス対策で英雄視すらされたニューヨークのクオモ知事が政治的危機に瀕している。高齢者施設での死亡者数過小発表や元同僚などに対するセクハラ疑惑で身内の民主党関係者からも批判が出始めたからだ。「驕る平家久しからず」、英語ではThe longest day must have an end.ともPride will have a fall.とも言うそうだが、この諺だけはクオモ知事の辞書にないかもしれない。

▲写真 政治的危機に陥っているクオモ・ニューヨーク州知事 出典:Bennett Raglin/Getty Images

〇インド亜大陸

インドがクアッド(QUAD日米豪印協力体制)でインドのワクチン生産能力拡大への資金援助を呼びかけていたと報じられた。恐らく当たらずとも遠からず、だろう。決して容易ではないが、インドへのこの種の投資は戦略的に極めて重要だ。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:バイデン大統領(当時、副大統領)と中国の習近平国家主席(2013年12月4日 北京) 出典: Lintao Zhang/Getty Images




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