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.国際  投稿日:2021/8/29

バイデン大統領発言ミス連発


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・バイデン大統領、虚言増す。

・民主党支持メディアから、大統領の統治能力に疑問の声。

・共和党議員からは、大統領弾劾の動きも。

 

アフガニスタンの危機はアメリカのジョセフ・バイデン大統領にとってますます重大な課題を突きつけてきた。8月26日、アフガニスタンの首都カブールの空港でアメリカ人やアメリカのために働いたアフガニスタン人を国外に避難させる作業が夜を徹して続けられていた最中に自爆テロが起きたのだ。

しかもその犯人たちはいまの混乱を引き起こしたイスラム原理主義の政治勢力タリバンではなく、別のイスラム系テロリスト集団だったのだ。バイデン大統領はこの集団への報復を誓い、さっそく無人機の攻撃でこの集団の指導者2人を殺したことを発表した。

だがカブールでの大混乱はなお続く。ワシントンではバイデン大統領のそもそもの統治能力を疑う声が高まる。その原因の一つは同大統領が公式の場での発言で明らかに事実とは異なる言葉を発し続けるからだ。

その実例をあげてみよう。

8月20日の記者会見だけでも以下のような錯誤発言があった。

バイデン大統領はアフガニスタンでアメリカとの共同作戦のパートナーだった北大西洋条約機構(NATO)諸国が今回の措置で米国への信頼を減らさないかとの質問に「まったくそんなことはなく、実態はその逆だ」と述べた。

つまり今回のバイデン大統領のアフガニスタン撤退の唐突な実施は西欧諸国から批判されることはなく、むしろアメリカの信頼性が高まった、という趣旨の発言だった。

だが現実にはイギリス、フランス、ドイツからは現旧首脳や有力議員からバイデン大統領への非難が噴出していた。

イギリスのジョンソン首相は「今回の突然のアフガ二スタン撤退はバイデン大統領からの事前の相談を受けず、その計画を知ってこちらから同大統領に連絡を試みたが、すぐには連絡がとれなかった」と、バイデン大統領の一方的態度を批判した。

イギリスのトニー・ブレア元首相にいたってはバイデン大統領が突然、8月31日という期限きってアメリカ軍の全面撤退を決めたことをはっきりと「バカげた措置だ」と非難した。

ドイツのメルケル首相も日ごろは抑制された言葉遣いで知られるが、今回のバイデン大統領の措置には「当惑させられた」と批判した。フランスのマクロン大統領も同様の不満を表明した。

これら西欧諸国はいずれも自国の軍隊をアフガニスタンに送り、タリバンの残存部隊と戦って死傷者を出したアメリカの友軍だったのだ。であるのにその友軍に事前の協議をせず、一国だけがごく短期の期限内に撤退するというのでは、NATOの信頼が揺らぐは当然である。

現実にイギリス議会では有力議員たちからバイデン大統領の措置に対して「恥ずべき」「ひどい苦痛の破局」「愚かな失敗」などという激しい言葉での非難の声が上がった。

バイデン大統領は「アフ二スタン国内にはテロ組織アルカーイダはもういない」とも言明した。だがその直後に当のアメリカ国防総省の報道官が公式の場で「アルカーイダはアフガン国内になお存在する」と述べた。大統領が国防総省とはまったく異なることを述べるのだ。

だがこの問題も明らかにバイデン大統領の事実誤認だった。アフガニスタンではタリバンが各地で復権するにつれ、複数の刑務所、収容所に拘束されていた元アルカーイダのメンバーを解放し、その総数は5000人にもあがったという情報が現地から複数のメディアで伝えられていたのだ。

バイデン大統領はさらに「アメリカ国民のカブール空港への通行はタリバンが安全を保証している」とも明言した。これまでアフガニスタン国内で多様な任務にかかわってきたアメリカ人の官民の関係者たちはカブール空港からアメリカ軍の軍用機で国外へ避難するわけだ。

だが現地からはそのアメリカ国民たちの多くがタリバンに阻まれ、空港へたどり着けないという報道が発信されていた。そのうえにカブールのアメリカ大使館はアメリカ国民の同空港への通行は危険だと警告していたのである。

バイデン大統領の言葉はウソと断じられても仕方がないほど、事実には離反し、しかもその虚言の回数がどんどん増えていくのである。

こんな現実からニューヨーク・タイムズのような民主党支持のメディアでも「バイデン発言の事実無視」が指摘され、大統領の事実認識や統治の能力への懐疑までが浮かんできた。

つまりバイデン氏が大統領就任前からたびたび懸念されてきた認知症の疑いである。だからアメリカ議会の共和党上下両院議員の間からはバイデン大統領に対する弾劾という動きも起きてきた。

トップ写真:バイデン大統領、アフガニスタンでの避難状況についてコメントを発表(2021年8月20日) 出典:Photo by Anna Moneymaker/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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