アメリカはいま――内政と外交・ワシントン最新報告 その9 バイデン大統領は認知症なのか
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・バイデン大統領、失言を繰り返すなど統治能力が不安定。
・共和党は大統領に、認知症のテストを受けろと主張。
・バイデン氏が民主党の大統領選候補になれるのは、トランプ氏が出馬するとき。
違法入国者問題ではもう1人、フロリダ州のロン・デサンティス知事も大胆な行動に出ました。フロリダに集まった違法入国者を50人ほど、こんどは飛行機に乗せて、マサチューセッツ州の民主党系のリベラル派の大物が別荘を持っているマーサズ・ヴィニヤードという島に送り込んだのです。オバマ元大統領などが豪壮な別荘を持つ地域です。
そんな静観な地に突然、違法入国者の集団が登場するのですから、さすがに大手メディアも無視できなくて、大変なことが起きていると全国ニュースとして、大きく報じました。
民主党系のメディアは、共和党のテキサス州知事、フロリダ州知事のやることにはもちろん批判的ですから、人さらいじゃないか、勝手に連れてきたのではないか、とも非難しました。しかしこの種の州知事はみんな弁護士ですから、すぐに反論しました。アボット知事は、いやそうじゃない、私は50人の1人1人からちゃんと「ワシントンに行きたいです」という同意書をとっていると言明しました。そしてその署名を見せている。デサンティス知事も同様でした。そういうせめぎ合いがあったわけです。
このようにバイデン政権は、内政はどうもさえないのです。インフレ率が非常に高いことも指摘されます。8%なんてことになっている。これもコロナの影響でやむを得ず、モノが足りなくなって物価がどんどん上がっていく、という側面があります。しかし同時にバイデン政権の支出が膨大だという点も記録破りの高インフレ率の原因だとされています。
もう1つバイデン大統領が抱えている問題は、統治能力です。これもなかなか日本では報道されませんけれども、彼はびっくりするような失言をするのです。しかも非常に頻繁です。バイデン大統領は知り合いの女性下院議員が交通事故で死んで、弔電を送っているのですが、その1カ月後ぐらいに集まりがホワイトハウスであって、バイデン氏が進行役で、その死んだ女性議員の名前を呼んで、「来てるか」と言ったりする。死んだことを忘れてしまうのです。
日本でも大きく伝えられましたが、もし中国が台湾を武力侵攻したらアメリカはどうするのか。バイデン大統領は、アメリカは軍事力を投入して戦うと述べました。しかも何回も、でした。ところがこれも実は、アメリカ政府の歴代の政権の政策とは違うのです。バイデン政権の政策とも異なります。バイデン政権の公式政策は中国が台湾に武力攻撃をかけても、アメリカの対応はわからない、つまり曖昧にしておくということなのです。この対応には戦略的曖昧という言葉を使っています。だから大統領が言っていることとその政権の公式の政策とは違うのです。そんな実例が多々あるのです。
皆さんもご覧になったでしょうか、大統領専用機のタラップをバイデン氏が上がろうとして、ガクッ、ガクッと、3回も転んだことがあるのです。これもリベラル系のメディアはほとんど報じない。
私もワシントンに長いですから、バイデンさんという人を、昔から知っています。上院議員をやっていて、副大統領をやっていて、なんとなくいい人なのです。われわれ日本人の記者がその辺でふっと声をかけても、きちんとこちらを向いて答えてくれる、ということがよくありました。
ただ、口が軽いというか、いろんなことを言うけれども間違ったことを平気で言うという癖が以前からありました。その特徴がいま高齢化と重なって、批判する側は認知症という言葉を使うようになりました。認知症じゃないか、と。医学的な認知症のテストというのがあるのだから、それを受けてみろと、共和党などはどんどん主張しています。
だから、このまま24年の選挙戦を乗り切れるかどうかというのも疑問符がつく。ただ、繰り返しですが、バイデン氏本人はやりたいと思っている。周りの側近もやりたいと思っている。では、それに代わる誰か、民主党側の有力な候補がいるかというと、いまのところ、いないのです。カリフォルニア州の州知事のニューサム氏の名がたまにあがるけれど、まだまだ知名度が低いし、問題があって出てきていない。
バイデンさんが、堂々と民主党の多数派の支持を受けて、大統領候補にまたなれるというシナリオはただ1つ。それはトランプさんが出てきた場合です。バイデンさんのこれまでの政治的な業績は何かというと、トランプと1対1で闘って2020年の選挙で勝ったということです。これは彼の勲章です。トランプが出てきたら、じゃあ俺が出て行く、ということになるのです。周囲もそれを認めがちです。
(その10につづく。その1、その2、その3、その4、その5、その6、その7、その8)
**この記事は鉄鋼関連企業の関係者の集い「アイアン・クラブ」(日本橋・茅場町の鉄鋼会館内所在)の総会でこの4月中旬に古森義久氏が「アメリカの内政、対中政策――ワシントン最新報告」というタイトルで講演した内容の紹介です。
トップ写真:空軍士官学校の卒業式に出席するためホワイトハウスを出発したバイデン大統領(2023年)出典:Photo by Win McNamee/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。