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.国際  投稿日:2023/9/6

バイデン大統領の失言がさらに頻発


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・バイデン大統領が失言や虚言を一段と頻発するようになった。

・ワシントンポストはバイデン氏の語る物語について「そのいくつかは精査に耐えない」と論評。

・バイデン氏は民主党陣営からも、この種の懸念をぶつけられている。

 

アメリカの2024年の大統領選への出馬をすでに表明した民主党のジョセフ・バイデン大統領がこのところ失言や虚言を一段と頻発するようになった。民主党支持の大手新聞もごく最近のバイデン虚言録を報じ、大統領選への懸念を表明した。高齢化とか認知症という言葉とも連結される現職大統領のこの欠陥はこんごの大統領選にどう影響するのだろうか。

バイデン大統領の最近、最も大きな論議を呼んだ発言はハワイのマウイ島の大規模な山火事の被災地を8月21日に視察した際の言葉だった。この火災は2000戸以上の家屋を全焼、あるいは全壊し、100数十人の死者を出した。バイデン大統領はこの現地視察で被災者たちに「私も自宅をほぼ全焼し、妻や愛用車を失いそうになったので、みなさんの心情はよくわかる」と述べた。

ところがバイデン家の「火災」は2004年に近くへの落雷で台所にボヤが起きただけで、人間も家屋も被害はなかった記録が厳存する。だから今回のバイデン大統領のハワイでの発言はほとんどのメディアにより批判的に報じられた。大統領の誇張、あるいは虚構と断じるメディアもあった。

バイデン氏のこの種の発言についてワシントン・ポストは9月1日付の長文の記事で虚実を報道した。その見出しは「バイデン氏は一定の物語を語ることを愛するが、そのいくつかは精査に耐えない」となっていた。内容はトランプ氏がよく述べる逸話で事実とは異なる実例を5つほどあげていた。その第一が上記のマウイ島でも同氏が語った「自宅の火災」だった。この記事はバイデン氏が大統領になってから少なくとも6回、この逸話を語ったとして、その発言は誇張あるいは虚構とみなさざるを得ない、と断じていた。

同記事があげた他の実例は以下のようだった。

・バイデン氏はワシントンと自宅のあるデラウエア州の往復にアムトラックと呼ばれる列車を頻繁に使ったが、車内で知己を得たアンジェロ・ネグリ氏という車掌との車内での親しい交流について大統領に就任してからでも10回ほど語った。その交流は副大統領となった2009年以降だとする話だったがネグリ氏は実は1996年に引退し、乗車業務は以降していなかった。

・バイデン氏は少年時代に黒人差別に反対して、抗議運動に加わり逮捕されたという逸話を大統領就任後にも語っているが、実際にはそうした逮捕の記録はまったく存在しない。バイデン氏は2020年の大統領選挙中には「南アフリカで黒人指導者のネルソン・マンデラ氏との面会を求めたため現地当局に拘束された」と3回も述べたが、その記録は存在しない。

・バイデン氏は昨年12月の退役軍人たちとの会合で「私の叔父のフランクは第二次世界大戦で戦い、名誉戦傷勲章を受章した。私が副大統領時代に改めて彼にその勲章を与えた」と述べた。だがフランク・バイデン氏がその勲章を受けた記録はなく、バイデン副大統領の時代にはすでに死亡していた。

この記事での実例以外にも、バイデン大統領は最近の訪日で日本国内でアメリカ海兵隊将兵と面会し、それら将兵のイラクなどの軍務を讃えた際、「私の長男もイラクで軍務についていた時に戦死した」と述べたが、その長男は実はアメリカ国内で病死していた、という事例もあった。

またバイデン氏は日本の岸田文雄内閣が防衛費の倍増を決めたのも「私が岸田首相に防衛費増加を何度も求めた結果だ」と言明し、日本側から事実ではないと抗議されてその発言を撤回した。

さらに認知症をも懸念させる事実関係の大きな間違いという点ではバイデン氏の「アフガニスタン戦争体験談」が有名である。

バイデン氏は2020年の大統領選の予備選中に、以下のような「体験」を繰り返し語った。

「私は副大統領としてアフガニスタンでの戦争にかかわる米軍将兵の激励に行き、コナー地域での激戦を目撃した。その戦闘ではアメリカ海軍大佐が20メートルほどの深さの谷間に取り残され、敵の猛攻撃を受けている部下をロープを伝わって助けるのをみた。その後すぐに私はその海軍大佐に副大統領として銀星勲章を授与することになった。だが大佐は助けた部下が結局、死んだので、勲章を辞退しようとした。なんとすばらしい話ではないか」

米軍の勇敢で誠実な将校の言動を告げる美談だった。ところがすぐにこの話の具体的な部分がほとんど事実と異なることが判明したのだ。

バイデン氏がアフガニスタンを副大統領として訪れたことはなかった。だからその戦闘での救出を目撃したという話にも根拠はなかった。バイデン副大統領が似たような戦闘での功労者に銀星勲章を与えたという記録もなかった。確かに似た戦闘はあったが、そこで部下の救出にあたったという軍人は海軍大佐ではなく陸軍士官だった。その士官もバイデン氏から勲章を受けたことはなかった。

バイデン氏は後にこの逸話についての「記憶の非」を認めた。

そしていま2023年9月、再び民主党の大統領候補として再選への名乗りをあげたバイデン氏は同じ民主党陣営からも、この種の懸念をまたぶつけられているのである。

トップ写真:ホワイトハウス東室でバイデン大統領から名誉勲章を授与される退役米陸軍大尉  2023年9月5日、ワシントンDC

出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images 

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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