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.国際  投稿日:2021/9/8

バイデン氏支持率急落、弾劾の声も


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・バイデン大統領、支持率大幅下降、歴代大統領と比べ最低水準。

・主な原因はカブールからの米国民緊急撤退の失態。

・辞任すべき、あるいは弾劾されるべき、との強硬意見も。

 

アメリカのジョセフ・バイデン大統領の国内での支持率が大幅に下降し、就任以来の最低、歴代大統領と比べても最低水準を記録した。主な原因は同大統領のアフガニスタン政策、とくにカブールからのアメリカ国民らの緊急撤退の失態だとされる。

その結果、バイデン大統領は辞任するべき、あるいは弾劾されるべきだとする強硬な意見もアメリカ国民の間で幅を広げることとなった。この状態はバイデン政権の危機とも称され、来年の中間選挙での民主党側の人気に大きな影を投げることも予測されている。

アメリカの主要世論調査機関やメディアは9月5日までの数日間にバイデン大統領への国民の支持率が大幅に下がったことをいっせいに報じた。

各世論調査結果の数字を総合するリアルクリアー・ポリティックス(RCP)の発表によると、5日の時点でバイデン大統領への支持率は45%、不支持率が49%となった。これまでの同大統領への支持率は1月の就任以来、一貫して50%台だったから、少なくとも7月からのわずかな期間に5ポイント以上の急落となった。

RCPの発表では逆にバイデン大統領への不支持の比率が7月ごろまでは30%台後半から40%台だったから、10ポイントもの増加となった。同大統領にとっては不支持が支持を上回るのは就任以来、初めてということになる。

個別の機関の世論調査としては、ABCニュースとワシントン・ポストの合同調査では今回のバイデン大統領の支持率は44%、不支持が51%だった。同じ機関の6月の調査では不支持率が42%だったから、9ポイントの不人気の急増となったわけだ。

ABCニュースの世論調査責任者ギャリー・ランガー氏は今回のバイデン大統領の支持率は戦後の歴代大統領の就任以来、7ヵ月ほどの時点での支持率と比べて、トランプ大統領の37%、フォード大統領の37%に次ぐ史上第三の最低水準だと、語った。

バイデン大統領の不支持がなぜ増えたのか、については大多数の世論調査が一般国民が同大統領のアフガニスタンからの米軍全面撤退の失態をあげたことを伝えた。アメリカが20年間に及ぶアフガニスタンへの介入を止めるという基本政策にはどの調査でも全体6割以上の国民が賛成を表明しながらも、バイデン大統領の一方的で唐突な撤退手法やアフガニスタン政権の持続性への誤断、タリバン側の力の過小評価、発言の事実ミスなど、その「方法」への強い反対が圧倒的に多かった。

▲写真 米人やアフガニスタン人の米国協力者らの避難させる米空軍機 カタール・アルウデイド空軍基地で(2021年8月23日) 出典:U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Kylie Barrow/dvids

ABC・ワシントン・ポストの調査ではバイデン大統領のアフガン撤退の方法に対しては全体の30%が賛成、60%が反対という結果だった。

バイデン政権や民主党にとってとくに痛手となったのは、ABC・ワシントン・ポストの調査で民主党支持でも共和党支持でもない無党派層の間で6月には52%だった大統領支持率が今回は38%にまでの降下という劇的な急落を示したことだった。大統領選挙でも連邦議会選挙でも無党派層の動向は全体の行方を左右する大きなカギとなるからだ。

しかし同じ調査ではバイデン大統領の人気の低下はアフガニスタン撤退以外の原因も指摘されていた。一つは新型コロナウイルスへの対応で、とくにデルタ型の感染拡大への対策が不十分だとする意見が急増していた。同時にバイデン大統領の経済政策に対しても従来の支持率が数ポイントから10ポイント近く低下していた。

▲写真 デルタ株の患者を病院のコロナ病棟に救急搬送する緊急医療隊 テキサス州ヒューストン(2021年8月19日) 出典:Photo by John Moore/Getty Images

さらにラスムセン社の世論調査によると、バイデン大統領はアフガン撤退での失態のために辞任すべきだと答えた一般国民が全体の52%という結果が出た。辞任しなくてもよいという回答が39%だった。

こうした状況に対して連邦議会の上下両院では共和党議員の間からバイデン大統領に対する弾劾決議を推進する動きも始まった。共和党の重鎮のリンゼイ・グラハム上院議員は9月冒頭、公開の場で「バイデン大統領はアフガニスタンでアメリカ国民とアフガン人支援者多数を放棄し、その生命を危険にさらしたのだから弾劾されねばならない」と言明した。

ラスムセン社はこのグラハム議員の声明に同意するか否かという質問を世論調査のなかに盛り込んだ。それに対する回答は「同意する」というのが60%、「同意しない」が37%だった。バイデン大統領弾劾の主張もアメリカ国民多数の間に広がったといえるようなのだ。

このようなバイデン大統領の人気急落についてリアルクリアー・ポリティックス代表トム・べバン氏は以下のような考察を述べた。

 ・バイデン政権は選挙戦中から誕生後も「ホワイトハウスにやっと有能な大人たちが入ってきた」と主張し、大統領を中心とする政権全体の「有能」を強調して、トランプ前政権を未熟だとか無能だと批判してきたが、今回のアフガニスタン撤退は「有能」からはまったく離反し、その点がアメリカ国民を失望させた。

 ・バイデン大統領はアフガニスタン問題に関連する一連の公式発言で事実と異なるミスや錯誤の言葉がきわめて多かった。このことは国民の側にバイデン氏の大統領としての統治能力への疑問を生み、さらに大統領とその政権に対する信頼性を減らす結果を招いた。信頼性は一度、減るとその回復は難しい。

リアルクリアー・ポリティックスは政治的にはどちらかといえば、民主党寄りの世論調査機関とされる。その機関の世論調査分析の専門家からもこうした手厳しい批判が出るほどバイデン大統領への不評は顕著だということだろう。

トップ写真:バイデン大統領(2021年8月30日) 出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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