無料会員募集中
.政治  投稿日:2021/11/1

失敗に終わった野党共闘 敵失で与党笑う


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

衆院選、自民党単独で安定多数を確保、野党は共闘の効果はなかった。

・今回の与党勝利は野党の敵失の結果。自民批判票は立憲・共産に行かず維新へ。

・与党「信任」は期間限定。岸田首相は、コロナ・経済対策、外交・安保での実績を早く示せ。

 

総選挙から一夜明け、結果を見れば与党の勝利は歴然としている。自民党は、30から50議席は減らすのでは、との衝撃的な事前の予測もあったのに、蓋をあけてみれば選挙前勢力276議席が261議席、マイナス15議席に踏み止まったのは上出来と言えよう。公明党も踏ん張って、選挙前29議席が32議席と+3議席となったので、与党勢力は、305議席から293議席、マイナスは13議席で済んだ。

それにしても野党はだらしなかった。特に立憲民主党は政権交代をうたいながら、選挙前109議席が増えるどころか96議席のマイナス13議席に沈んだ。共闘した共産党も、12議席から10議席に減っている。

立憲民主党の枝野幸男代表や、共産党の志位和夫委員長は、一定の効果はあったとの考えのようだが、どうみても「野党共闘」は失敗だったといえよう。

▲写真 立憲民主党枝野幸男代表(2021年10月28日) 出典:Photo by Carl Court/Getty Images

それにしても自民党はついている。当初期待したオリンピック効果も不発に終わり、新型コロナの感染者が爆発していた8月頃に総選挙があったなら、ここまで勝つことはできなかったろう。

安倍前首相の「もりかけ・桜問題」も、相次ぐ閣僚の不祥事も、高級官僚の過剰接待問題も、菅前首相が頑張ったコロナワクチン普及による感染者激減と、自民党総選挙による電波ジャックのおかげで、支持を回復した。岸田新改革は全く魅力の無い陣容だが、それでもここまで踏みとどまったのは、運が良かったのと、野党の敵失のおかげだ。

国民民主党の玉木雄一郎代表が選挙前に、各選挙区で野党の予備選をやって本当に与党に勝てる候補を選ぶくらいやればいいのに、と筆者に話していたが、本当にそれくらいやらないと、野党は存在感を示すことは出来なかった。結局、自民党総裁選の影に隠れて埋没してしまった。その国民民主は議席を8から11に伸ばしている。野党共闘に加わらなかったおかげだろう。

そしてタナボタで議席を爆増させたのは、日本維新の会だ。こちらも「もってる」と言って良いだろう。なにせ大阪以外の有権者は維新の会を地域政党だと思っているくらいだ。それが、選挙前11議席がまさかの41議席である。自公にも立共にも入れたくない有権者の受け皿になったのは明らかだ。一気に第3党に躍り出たのは、吉村効果もあったろう。吉村洋文大阪府知事が一気に維新の会の知名度を全国区に押し上げたのはやはり新型コロナ対策だ。いずれにしても、今後、国会でどう存在感を示せるかが問われることになる。

▲写真 選挙演説する吉村洋文大阪府知事(2021年10月19日) 出典:Photo by Buddhika Weerasinghe/Getty Images

そして、自民党だ。議席が思ったほど減らなくて良かった、などと喜んでいる場合ではない。甘利明幹事長が小選挙区で落選し、岸田首相に進退伺いを出す事態になっている。そもそも「政治とカネ」の問題を抱える甘利氏を重要ポストに据える岸田首相の人事センスのなさが残念だ。今回、勝った勝ったと喜んでいる場合ではない。

▲写真 衆院選勝利で満面の笑みの岸田首相(2021年10月31日) 出典:Photo by Behrouz Mehri – Pool/Getty Images

新内閣はすぐさま新型コロナ対策に着手せねばならない。岸田首相のキャッチフレーズ「成長と分配」。聞こえは良いが、具体的にどうするのか、見えてこない。まずは「給付金」から着手することになるのだろうが、それは真の「分配」とはほど遠い、単なるばらまきに過ぎない。

失われた30年、成長の種子をまいてこなかったツケが今来ているのは明白だ。それをどう変えようというのか。「新自由主義からの脱却」とはどのような経済システムを指すのか、説明してもらいたい。まさか、高額所得者から税を取るだけではあるまい。

新型コロナの第6波が来ないとは限らない。今は嵐の前の静けさなのかもしれない。感染者が激減している理由の分析がない、との指摘も出ている。国産ワクチン、特効薬の開発状況、ブースター接種のタイミングなど、国民に丁寧に説明すべきだろう。選挙に浮かれている間、そうした発信は政府から全く無かった。

また、北朝鮮はミサイルをひっきりなしに発射し、中国の尖閣諸島海域領海侵犯も激しくなっている。台湾情勢も波高しだ。外交・安保問題で岸田首相がどのような成果を出せるかも全く未知数だ。できるだけ早い内に訪米して首脳会談をと、はやっているが、何を話すかが問題だろう。

そして筆者が心配しているのがエネルギー問題だ。菅前首相が残していった負の遺産、「2030年に温室効果ガス排出量、46%削減(2013年比)」。原発の再稼働だけではとうてい実現できないであろう、この目標をあと9年でどう実現するというのか。総裁選前から、岸田氏は、原発の「リプレースと新増設」には消極的だった。こともあろうか、河野前規制改革相らが反対してその記載が消えた「エネルギー基本計画(素案)」を10月22日にそのまま閣議決定してしまった。

再エネを増やすことに異論はないが、それに伴うコスト負担が国民と産業界に重くのしかかってくるのは明らかだ。それを国民に説明しないで、理想論を振りかざすだけなら政治家は要らない。難しい問題から顔を背けるような政治を求めて有権者は与党に票を入れたなのではないはずだ。

今回の選挙の結果を厳粛に受け止め、日本が直面している「国難」にどう対峙するか、有権者は直視している。今回得た「信任」はあくまで時限的なものなのだ。

トップ写真:衆院選の当選候補の名前にバラをつける岸田首相ら党幹部(2021年10月31日) 出典:Photo by Behrouz Mehri – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."