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.国際  投稿日:2021/11/30

仏、フェミサイド撲滅への道


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランスの配偶者間での殺人事件では、女性が被害者であることが圧倒的に多い。

・女性が自力で訴えにくいこと、警察が親身になってくれないこと、男性の更生が難しいことが理由として挙げられる。

・緊急電話ボタンや避難先としての宿泊施設によるさらなる対応が期待される。

 

11月28日、フランスのセーヌ=サン=ドニ県で、またしても女性が元配偶者に殺害された。51歳の元配偶者は、去年7月にドメスティック・バイオレンス(DV)で逮捕され6か月の実刑を受けていたものの、出所後、自宅にいた元配偶者の女性(44歳)を刺し殺したのだ。男性は10月の時点ですでに女性に危害を加えることを匂わしていたにもかかわらず、男性は予定より一か月ほど早く出所したが、その連絡は女性に入っていなかったという。

今年に入って、フランスでのフェミサイド(Femicide)は104件起こっており、専門家は、「女性を保護したいなら、もっと暴力的な男性の危険性について考えなければいけない。」と指摘している。

しかしながら、なぜこれほど、フランスではフェミサイドが大きな問題となっているのだろうか。それに比べると日本では、配偶者間の殺人でここまで男性側ばかりが問題になることはない。それはなぜなのか?

その理由は明確である。日本もDVの加害者は明らかに男性の方が多いものの、配偶者間の殺人の割合になるとそこまで男女比があまりかわらないからだ。しかしフランスでは、配偶者を殺害するのは圧倒的に男性であることが多いのである。

■ フェミサイドとは

世界保健機関(WHO)(参考:Le fémicide)では、フェミサイドを「女性を意図的に殺すこと」としている。より広い定義では、女性または少女のあらゆる殺害を含んでおり、ときには、女性の家族が関与することもある。

だがしかし、多くの場合は、フェミサイドは配偶者や元配偶者による犯行だ。女性が殺害でされる場合、女性が配偶者よりも資産が少ない状況に置かれており、家庭内で虐待、脅迫、性暴力など、継続的な暴行が伴っていたりする点が、男性が殺害されるときと違う点であるとも説明されている。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)の2017年のデータ(GLOBAL STUDY ON HOMICIDE)によれば、世界全体でみても配偶者間で起こった殺人事件において被害者の82%が女性であり、圧倒的に女性が被害者になることが多いことがわかる。

ただし、それは国によって割合が変わってくる。例えば日本においては、DV全体では女性が被害者であることがほとんどであるが、配偶者間の殺人となると割合はほぼ変わらない。平成29年のデーターでは、女性の被害者の割合が55.4%(87件)に対し、男性被害者は44.6%(70件)だ。日本でも女性が殺害されることが多いのは間違いないが、男性も同様に多いのである。

一方フランスでは、2016年の調査によれば女性被害者の割合は79%(109件)であり、男性被害者は21%(29件)と少なく、明らかに大きな差があることが見て取れる。

この結果、各国の問題意識も変わってくる。フランスでは暴力的な男性に対して対策が求められ、女性に対してのより多くの保護が必要となるのだ。

こういった状況を踏まえ、フランスでは、事件が起こるたびにいろいろ対策が練られてきた。が、しかし、まだまだ著しいフェミサイドの減少には至っていない。

■ なかなか被害が減らない原因

被害が減少しない原因は3つある。

一つ目は、女性自身が警察に連絡しないことだ。監視下にあり連絡できなかったり、暴力を受けているのは自分が悪いと思っている場合など、連絡すること自体難しい状況下にいる女性が多い。そのため、このような状況にいることを配慮した上で、女性が助けを求めやすい環境作りが必要になり、フランスはこれまでにもいろいろと対策を練ってきた。

2018年には、性的暴力の被害者のためのサイト「止めよう暴力(https://arretonslesviolences.gouv.fr/)」が開設され、24時間体制で暴力を受けた人からの訴えや相談を受け付けるようにした。またパンの袋など、日常で目につくところに、どの状態がDVになるかを表す指標を印刷し、自分がDVを受けていることに気が付く機会を設けている自治体もある。(参考:「ドメスティックバイオレンス防止のためのパン」

11月22日に発表されたデータによれば、2020年には、2019年よりも10%家庭内暴力の訴えが増加した。しかしながら、これは家庭内暴力の件数が増加したのではなく、助けを求める件数が増加したからだといわれている。少しずつではあるが努力の効果がでている結果なのだ。

二つ目の原因は、女性が訴えても警官が親身になって対応してくれないからである。今年の5月、ボルドーで女性が足を撃たれた上、生きたまま焼き殺された。接近禁止令が出ていたはずの元配偶者が突然彼女の家にやってきて、女性を殺害したのだ。この女性は何度か警察に行き元配偶者の危険性を訴えていたのにもかかわらず、何も対応してもらえなかった。しかも、そのとき話を聞いた警官は、その警官自身がDVで訴えられていた人物だったという状況である。

また、この事件では、接近禁止命令が出ていたのにもかかわらず、電気ブレスレット(足環)が使用されていなかったことも指摘された。この時点で1000個ある電気ブレスレットうち、45個しか使用されていなかったのだ。しかし、事件後、電気ブレスレットを積極的に使用することとなったが、その結果、今までにすでに400回の暴力行為を未然に防ぐ効果をあげたそうだ。それを考えると、生きたまま焼き殺された女性の事件で、電気ブレスレットが使用されていなかったことが尚更悔やまれる。

そして三つ目は、警察が対応してくれても結局起訴されなかったり、起訴されてもされなくても男性が更生することはあまり期待できず、冒頭で紹介した事件のように刑務所から出所後に復讐されることになることが多いことだ。

そこで現在は、より改善された女性の保護システムが求められているのである。

■ 今後の対応

現在、より改善された女性の保護システムの再構築が求められているところだが、すでに施行が決まっていることもある。例えば、女性を保護するための手段として、いつどこにいても被害者が遠隔支援サービスにアクセスできるように現時点で緊急電話ボタンが3000件配布されている。2022年にはこれを5000件にする予定だ。また、犠牲者とその子供たちのために、1000件の新しい宿泊施設も設置される予定となっている。まだまだ対策は不十分ではあるが、それでも少しずつ前進はしているのである。

フランスでは、配偶者に殺害される被害者は圧倒的に女性が多く、対策が求められるたびに多くのことを改善してきた。しかし、それでもフェミサイドを劇的に減らすには至っていない。だが、今後もその努力は続けられていく。来年こそフランスでの配偶者による殺害が減ることを願うばかりである。

 

<参考リンク>

フェミサイド:エピネー・シュル・セーヌで女性がパートナーに刺されて死亡

エピネー・シュル・セーヌのフェミサイド:「女性をよりよく守りたいなら、暴力的な男性の危険性について考える必要がある」と専門家が語る

恋人や元恋人による女性殺害 – ホーム

I-7-2図 配偶者間(内縁を含む)における犯罪(殺人,傷害,暴行)の被害者の男女別割合(検挙件数,平成29年)

ドメスティック・バイオレンス:いまだに平均して3日に1人の女性が男性の手によって亡くなっている

ドメスティック・バイオレンス:2020年には被害者数が10%増加

ボルドー近郊で、女性が焼死し、その配偶者が逮捕される。

トップ写真:2021年3月8日、フランスのパリで行われた女性に対する暴力やフェミサイドに反対するデモ 出典:Photo by Antoine Gyori/Corbis via Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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