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.国際  投稿日:2023/2/19

仏、薬物使用による交通事故の行方


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・コカインを摂取したコメディアンが交通事故を起こし、巻き込まれた女性の胎児が亡くなった。

・胎児の死亡は殺人とみなされないので、過失致死罪を問えるかが注目されている。

・死亡事故の原因の第3位は麻薬である。大麻を吸っている場合、死亡事故のリスクが2倍上昇する。

 

現在フランスでは、コメディアンとして有名なピエール・パルマード氏(54歳)が起こした事故の話題が大きく取り上げられている。

パルマード氏が運転していた車が前を走っていた車に衝突事故を起こしたのだが、特に問題となっているのは運転時にパルマード氏がコカインを摂取していたことだ。また追突された車内には妊娠していた女性がいたが、この事故後に胎児が亡くなり胎児の死因は事故によるものと推定されるにもかかわらず、フランスでは胎児の死亡は殺人とみなされないことである。

■ 事故の状況

事故は2月10日金曜日の午後7時頃におこった。コカインを摂取した状態で運転していたパルマード氏が前を走っていた車に衝突。妊婦だった27歳、運転手の38歳男性、6歳の子供の3人が重傷を負い、女性のお腹の中で生まれてくるはずだったお子さんが亡くなった。

追突された車の助手席に乗っていた女性によれば、この事故が起こったときにまばゆいばかりのヘッドライトが顔全体に迫ってきたことを覚えているそうだ。そしてその光を受けたあと、運転手が追突されるのを避けるためにハンドルを切り、その後、彼女は車から降りて後ろに座っていた子供を助けようとしたが力がはいらなかった。本能的に赤ちゃんのことが頭をよぎり、お腹を抱えながら「私の赤ちゃん、私の赤ちゃん」と繰り返し声を上げたという。

金曜日の事故の後、「殺人および不慮の傷害」の容疑でパルマード氏の捜査が開始され、パルマード氏は水曜日の午後に警察に拘留された。パルマード氏の車に乗っていた二人は逃亡したが、35歳の男性は逃亡先の女性宅でかくまっていた女性とともに勾留され、また、当時アルコールを摂取していたと思われる乗客の一人の47歳もすでに勾留されている。

パルマード氏は、20歳からコカインをはじめ、コカイン、酒、セックスの中毒者となっていった。しかし、2019年にレイプされたと訴えられた件で警察から取り調べを受けてからは、メディアに出演するときには常に薬物とアルコールをやめると言い続けていたものの、実際には完全には克服していなかったようだ。

■ フランスの胎児の死に対する状況

ここで注目を集めているのは、パルマード氏に胎児の過失致死罪を問えるかという問題である。フランスの最高裁判所である破毀院で2001年に出された判決によれば、胎児の死は殺人とはされない。一方、事故が子供の早産を引き起こし、その子供がその後まもなく死亡した場合は、過失致死の資格を保持することができる。子供が生まれない限り完全な人間とは見なされず、法人格を持たないため被害者とはみなされないのだ。

だがそれでも、2014年にフランス南西部のタルブの刑事裁判所で、運転者が胎児に対して殺人の罪で有罪判決を受けたことがある。この男性は飲酒運転で事故を起こし、胎児が事故の衝撃で亡くなったと結論づけた。しかしながら、翌年、ポー控訴裁判所が最終的にこの有罪判決を覆したため、最終的には殺人には適用されなかった。

ちなみに、薬物検査で陽性になった場合の交通事故での罰則は下記である。

  • 最長 2 年の懲役と 4500 ユーロの罰金。
  • 人身傷害の場合、最大5 年の懲役および 75000 ユーロの罰金。
  • 死亡事故の場合、最大7 年の懲役および 100000 ユーロの罰金 (運転手が次の場合、10 年の懲役および 150000 ユーロの罰金)。

この件に関しては、20日の月曜日に話し合いが始まる予定となっており、死亡事故かそうでないかで判決結果も変わってくるため、胎児の死に対してどのような判断が下されるかが気になるところである。

■ 日仏で大きく異なる交通死亡事故の原因

つい最近、フランスでは交通事故で亡くなる男性の割合が、全体の78%として「あなたがなりたい男になりなさい、しかし生きている男になりなさい」と呼びかけるキャンペーンが行われた。これは、男性が社会的に強い男が求められ、危険を顧みないことで強さを示すのはやめてくださいという趣旨であり、ジェンダーすなわち、生物学的な性別に対して社会的・文化的につくられるステレオタイプなイメージに従うことなく自分がなりたい自分でいるなら、危険を顧みない行為はしなくなるだろうという前提から作られている。

確かにマッチョが求められる西洋文明ではあるが、実際のところそういった社会的要因から男性の交通事故での死亡率が高くなるという点については明確な根拠はないと言える。内閣府の「令和3年中の道路交通事故の状況」を見ると日本でも交通事故での男性の死亡率は約80%前後であり、男女の交通事故での死亡率の比率ではフランスも日本もそう変わりない。

しかしながら、決定的にちがうのは死亡事故の原因の割合だ。フランスでも日本同様にスピード違反などによる安全運転違反での死亡事故は1位であるが、2位である28%を占める飲酒運転での死亡事故は、日本ではそこまで多くない(「令和3年中の道路交通事故の状況」では1%)。ましてやフランスでは約20%を占め死亡事故の原因の第3位に入っている麻薬に関係する死亡事故は、事故自体年々増加しているとはいえ、まだまだ日本ではかなり低い割合と言えるだろう。

もちろん、日本では薬物を厳しく取り締まっているという事情があることは間違いない。例えば、欧米では大麻を吸っても違法にならない国もあるが、日本での取り締まりはいまだに厳しい。フランスのデータによれば、大麻を吸っている場合、死亡事故の原因になるリスクが2倍上昇することがわかっており、もちろんフランスでも大麻を含む麻薬使用時の運転は禁止されている。それでもフランスでは、交通事故の5分の1は、薬物検査で陽性になった運転手が関係しており、週末の夜は事故の3分の1が薬物の影響を受けているという事実には驚かされるばかりだ。

週末の夜にコカインを摂取して起こしたパルマード氏の事故。まさにその3分の1の事例の一つである。フランスでよく起こる事故の一つと言えるかもしれない。社会的に名前が知られている人物の事故であるため、今後の薬物関連の事故の事例としてよく取り上げられる事件となるだろう。どのような判決が下されるのか見守られているところである。

<参考資料>

ピエール・パルマード氏の事故:コカインに「社会的」「政治的」な寛容さはないとオリヴィエ・ヴェラン氏が論評

交通安全:2022年のフランスでの死者数は3260人、自転車の死者数が増加

薬物と運転|交通安全

新しい交通安全キャンペーンは死亡事故の原因の大半を占める男性をターゲットにしている

内閣府:第2節 令和3年中の道路交通事故の状況

アルコールとホリデーシーズン:私たちは大切な人のために責任があるのか?

フランスにおける交通安全

トップ写真:グレヴァン美術館で開催されるミュリエル・ロビンとピエール・パルマード(右)の蝋人形の除幕式にて(2021年10月25日フランス・パリ)出典:Photo by Laurent Viteur/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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