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.国際  投稿日:2016/2/10

仏:DV夫殺害した女性に恩赦


Ulala(ライター・ブロガー)

フランス Ulala の視点」

何十年にもわたって暴力を振るわれた末に夫を殺害した、服役中のジャクリーン・ソバージュ受刑者(68)に、フランスのオランド大統領により恩赦が与えられることが発表され、その恩赦を享受できるかの審査が2月8日に始まった。

ソバージュ受刑者は、暴力的なアルコール依存症の夫から47年にわたりドメスティック・バイオレンス(以後DVと記述)を受けていた。また子供達も虐待に苦しめられ、更に娘達は性的虐待もされていたという。そんな生活の中とうとう2012年に息子が首つり自殺。その翌日、ソバージュ受刑者は夫の背中をライフル銃で3回撃って殺害し、2014年に殺人罪で禁錮10年の刑を言い渡されたのだ。

正当防衛だとする主張が行われたが棄却されている。フランスの法律では、正当防衛は受けた身体的攻撃と、同程度の反撃行動の場合のみに適応されるため、ソバージュ受刑者のように、長年にわたって繰り返された暴力に対する反撃行動の場合は範疇外なのだ。弁護士や女性団体らは、裁判中にも「夫婦間暴力における正当防衛の適用範囲を広げる」よう要求していた。

一方、事件の内容が報道されればされるほど、そのショッキングな内容がフランス国内で注目を浴び、パリ市長も救済委員会に名を連ねたほど、多くの人の心動かされた。釈放を求める嘆願書には40万人以上の署名も集まり、最終的に大統領による恩赦が決まったのだ。

フランスは女性の権利の尊重という面で先進的だと日本からは見えるが、歴史的に見てみるとそうでもない。「相互の同意による離婚」は1975年まで認められていなかった上、「中絶禁止」、「財産の相続権が男性にのみ」、「子供の養育権は男性が独占」、「女性は預金口座も持てない」と、同時期の日本と比べても、ソバージュ受刑者が結婚した頃のフランスの女性の自由はかなり制限されており、男性による支配が強かった。

DVに至る原因は複数あるが、ソバージュ受刑者の場合、「父は母の事を召使にしか思ってなかった」などの子供達の証言からも、もともと男性優位な傾向がある家庭であったと推測される。確かに女性解放運動を経て、現在のフランス人女性の権利は向上したが、しかしながら、こういった男性優位な家庭もまだまだ存在するのだ。

フランス政府の活動の一つであるMIPROFの2015年11月の会報によると、フランスには18歳から75歳以内の毎年22万3千人の女性が、パートナーから重大な身体的・性的暴力に合っていると言う。調査方法の違いもあり断定はできないが、2014年に日本の警察が把握したDV件数の5万9千件に比べると、フランスでDVが起こっている数は日本よりかなり多い。

しかし、被害者自身本人からSOSが上がることは少ないと言う。被害者自身がDVを受けていることに気付かないパターンや、長期にわたるDVで被害者の自信や自尊心を失われ、刷り込まれてしまった恐怖心が足かせになり、正しい判断ができなかったり、自由に動けなくなる場合が多い。ソバージュ受刑者の47年間もそうであったのだろうか。子供たちの人生を滅茶苦茶にしたくなかった。子供たちを守りたかった一心だったのだろうか。

こういったニュースを聞いて気になるのは、フランス人と結婚した日本人女性がDVの犠牲者になる場合だ。警察に通報してもフランス語が達者な夫に嘘を言われて、警察が相手にしてくれないこともあると言う。フランス人との離婚は大抵はフランスの裁判所で審議が行われるが、やはり言葉の問題で立場が不利になる場合も少なくはない。「日本の裁判所で日本人の妻の離婚の請求等を認めた判例」もあり、上手く立ち回れた事例もあるが、異国の地で誰に聞いていいのかも分からない日本人女性も一定数いるのは確かだ。そういった女性達は、どうやったら救えるのだろうか。

この事件はフランスのあらゆるDV被害を受けた女性の象徴的存在となっており、今後のフランスのDV対策に大きく影響を与えることは間違いないだろう。


この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、ライターとして活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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