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.国際  投稿日:2022/5/10

仏、高級高齢者施設「虐待スキャンダル」


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランス大手高齢者介護施設のスキャンダルが暴露本で露呈。社会問題に。

・「虐待」「機能不全」財務不正」などが次々に明るみになり、監督官庁が司法当局に提訴。

・暴露本「爆売れ」の背景には「密室での虐待」への関心だけでなく、フランスでも進む高齢化の問題がある。

 

フランスで、1月26日に出版された『墓掘り人たち(Les Fossoyeurs)』にて、運営のずさんさを暴露された高齢者介護施設の大手会社オルペアは、6日に調査結果を発表し、オルペアが厳格さを欠如していたことを認めた上で、透明性のある新しいオルペアを構築するため「オルペア総会」を5月13日から6月11日まで開催すると発表した。

物議をかもしたオルペア社の高齢者介護施設

オルペア社は1989年に設立された業界の中でもかなり大規模な高齢者介護施設のグループである。世界中に1100施設を保有し、6万5000人の従業員が働いており、フランスだけでも220施設が存在する。入居者は裕福な家庭が多く、暴露本の『Les Fossoyeurs』で詳細に調査された「Les Bords de Seine」の住居では、一部屋、月額6500ユーロ(約90万円)の部屋も紹介されている。

しかし、暴露本を出版したフリーのジャーナリスト、ビクター・カスタネット氏によれば、3年間の調査により、スタッフによる入居者への虐待、グループの機能不全および財務に対する不正疑惑などが明らかになったというのだ。

オルペア社は虚偽の申告をして、正社員ではなく臨時雇用を利用する形で人件費を抑制。また、地域圏などから支給される資材の調達費については、納入業者と全額が記載された契約書をかわしてはいるが、実際には資材を節約して納入を減らし、その分、業者からリベートを得ていたという。そして、補助金が減らないよう実績を作りつつ、補助金の一部を収入にできる仕組みを作りあげていたのだ。

フランスでは普段より高齢者介護施設に対して不信感をもっている人が多いが、安い施設ならまだしも、パリの一等地などに立つ高級な施設がこのような実態であることに衝撃を受けた人も多く、400ページ近いこの暴露本は3週間で7万2000部が売れた。

カスタネット氏によれば、この本には、誰も触れると考えていなかった世代、すべての社会階級、セクター全体について触れており、医療部門で働く多くの人や、スキャンダルに興味を持った人が購入したという。

約250件に上る苦情の内容

暴露本が出てから居住者の家族から多くの被害が語られたが、実はそれ以前からも被害者からの苦情が寄せられていた。

オルペアの部屋は、確かに部屋は清潔で明るい。しかし、ある日、ジョン・ジャックさんが妻のコレットさんの部屋を訪れた際、額に大きなこぶがあることに気が付いた。直感的に彼女が倒れたのに違いないと思って聞いたが、そのことに誰も気が付かなかったと言われた。しかも、数日前は頭をまっすぐにしていたのに、その日は前に傾けたままで何かおかしかった。そのことをいうと、斜頸に違いないと言われたが納得できなかったという。

彼によれば、高齢者介護施設の買収などで人手不足になり、入居者のケアが低下したそうだ。実際、調査によれば、現在、施設のフロアごとに3人の介護者がいるが、以前は、2階のフロアの42人に対して介護者は5人、1階には42人に対して4人の介護者がいたという。

他の証言の中には、複雑骨折して病院に運ばれ、病院で「もう二度とその施設には戻さない方がいい」と言われた例もある。しかも、なぜそのような骨折に至ったかのかもわからずじまいだ。

アルザスの介護施設では、「(入居している配偶者が)廊下に一人で座っており、その手は排泄物にまみれていた」という苦情もあった。

また、オルペアの施設では、オムツは最大一日3枚と決められていた。それは、入居者が病気であるかないかとは関係ない。食事が冷たい場合もあり、そのような施設に高額な入居料を払っていたことに怒りを感じる家族も多かったのだ。

調査結果

フランス政府はこのような状況を受けて、IGAS(社会問題監察総局)とIGF(財務監察総局)が調査をし、3月25日にその結論が政府に提出された。その結果、ブルギニョン自立担当相は、オルペアについて「重大な機能不全」が、人事管理と施設の運営と財務会計にあったと発表し、司法当局に提訴したのだ。

▲写真 オルペア社を司法当局に提訴したブルギニョン自立担当相(写真は2020年7月7日、エリゼ宮) 出典:Photo by Antoine Gyori /Corbis via Getty Images

その後4月5日には、オルペアの虐待行為に関する報告書が発表された。特定の入居者の脱水症状や、栄養失調など、いくつかの側面が指摘された。そこには、提供されるたんぱく質食品の量は基準を大きく下回っていたことも書かれている。

オルペアを訴えている一人であるイザベル・シュワルツさんは、評判のよい施設だったし、これだけ多くの費用を払っていたのにもかかわらず、母親が小さい部屋で世話もあまりされていなかったとは想像もできなかったと無念さを語った。

レポートではまた、何か事故などがあったときにも保健局に報告されない不透明なシステムについても言及している。この調査では25件の施設が過密状態にあり、2017年から2020年の間に住民に割り当てられるべきだった公的資金が1300万から1800万ユーロは実際には使用されなかったと報告された。

また、2019年から2021年の間のスタッフの離職率は195%で、グループの施設では346%に上昇する。1か月未満の有期契約数は、オルペアの平均は同様の施設より25%高くなっており、職員の流動率も問題視されている。

そして現在

JDDによりおこなわれたインタビューでは、現在、オルペアでは過去の過ちを認め、改善策が練られていることが明言された。健康分野の専門家ではないものの、会計、財務、人間関係、品質の面でのプロセスが非常に厳格な世界、業界から来た経験豊富なマネージャーをCEOに迎え、5月13日から6月11日には、入居者の家族、行政関係者、協会関係者、ジャーナリストおよび老後の問題に関心のあるすべての市民を招き、「オルペア総会」を開催する予定としている。

この公開会議は約50の施設で開催され、誰もが自分たちの運営について意見を出し、質問できる会となっている。この大きな討論会に続いて、年度の初めには、入居者の受け入れを改善するための提案が行われる全国的なイベントを行う予定だそうだ。また、来週の金曜日には、年次決算書も発表され、不当に受け取った公的資金についても説明される予定だ。その上、今後受け取る公的資金は100%職員のために使っていくと約束した。

今回、オルペアのスキャンダルがここまで話題に上ったのは、今まで入居者本人や介護者が内部告発しない限り、施設内で起きていることが表に出ることはなかったことが明らかになったからでもある。誰も見ていないところで何が行われていたかを知ることはとても難しい。そして、フランスでも高齢化が始まっていることも関係している。その結果、高齢者介護施設が多くのフランス人にとって気になる話題になりつつあることも間違いない。

<参考リンク>

franceinfo:「調査/オルペアに続き、ブリッジの高齢者施設の経営者が問われている」

ENQUÊTE. Après Orpea, le gestionnaire de maisons de retraite Bridge à son tour mis en cause

linternaute:「高齢者施設オルペア:厳しい証言、CEOの解雇…他の制裁の前に?」

Ehpad Orpea : des témoignages durs, le PDG viré… avant d’autres sanctions ?

franceinfo:「老人ホームでの虐待:オルペアグループに不利な報告書」

Maltraitance dans les Ehpad : un rapport accablant pour le groupe Orpea

Capital:「オルペアの数々の不祥事、政府報告書で確認される」

Ehpad : les nombreuses défaillances d’Orpea confirmées dans un rapport gouvernemental – Capital.fr

Le JDD:『グループCEOのフィリップ・シャリエ氏「オルペアは厳密さに欠けていた」』

Le PDG du groupe, Philippe Charrier : « Orpea a manqué de rigueur »

Le Parisien:「『入所者への虐待』をテーマにした新書が登場」

«Les Fossoyeurs» : l’incroyable succès en librairie de l’enquête sur la maltraitance dans des Ehpad – Le Parisien

トップ写真:スキャンダルが露呈した高級高齢者介護施設を運営するオルペア社(2022年2月7日 ・ピュトー) 出典:Photo by Chesnot/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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