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.政治  投稿日:2022/2/2

「対中人権非難決議」の評価


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#05」

2022年1月31-2月6日

【まとめ】
衆議院は2月1日の本会議で、中国での人権状況に懸念を示す決議を賛成多数で採択。
・決議を出さないと米国との信頼関係が損なわれてしまうという見方もあるが、果たしてそうだろうか。
・「とにかく北京五輪の前に人権決議を出すことが重要」と見るか、「このような内容であれば出す意味はない」と見るか、議論は分かれるだろう。

 早いもので、2022年も既に2月に入った。今週最大の関心事は、日本の国会が初めて採択するいわゆる「人権決議」である。報道では、「中国を念頭」に人権問題に「懸念」を示す国会決議が、北京冬季五輪開幕を前にも採択される見通しだとされている。具体的には2月1日の採択を目指しているというが、どうなるのだろう。(編集部注:衆議院は2月1日の本会議で、新疆ウイグル自治区やチベット自治区など、中国での人権状況に懸念を示す決議を、賛成多数で採択した)

報道によれば、同決議案は、新疆ウイグル自治区や香港で「信教の自由への侵害や強制収監をはじめとする深刻な人権状況への懸念が示されている」と明記したという。他方、「中国」なる国名は記載せず、「人権侵害」や「非難」の文言も使用しないらしい。それって、一体どのような内容の決議なのか、全文を読まないと分からない。

ちなみに、昨年4月に「日本ウイグル国会議員連盟」など関係4議連が初めてまとめた決議案では、「深刻な人権侵害に象徴される力による現状の変更を、『強く非難』するとともに、人権侵害行為を国際社会が納得する形で『直ちに中止』する」ことを求めている、と報じられていた。

更に、この決議当初案では、「ウイグルチベット、内モンゴル各自治区、香港に加え、ミャンマーで発生している信教の自由の侵害、強制収監などの問題について『国際社会の正当な関心事項であり、一国の内政問題にとどまるものではない』と指摘し、国会として『必要な法整備の検討』に速やかに取り掛かる、とまで述べている。

この当初案に比べれば、現在の決議案の表現が相当程度柔らかくなっていることだけは間違いない。一方、欧米諸国では、既にウイグルでの弾圧を「ジェノサイド(民族大虐殺)」と認定する動きが広がっている。決議を出さないと米国との信頼関係が損なわれてしまう、という見方もあるが、果たしてそうだろうか。それはともかく・・・。

この時点で日本の国会決議が採択される場合でも、「とにかく北京五輪の前に人権決議を出すことが重要」と見るか、「このような内容であれば出す意味はない」と見るか、議論は分かれるだろうが、中国にとっては決議が出ること自体、不愉快だろう。いずれにせよ、決議採択の可否およびその最終的内容は2月1日にも判明する。

写真)バイデン政権に対してウイグル人の保護を求めるウイグル人コミュニティのメンバー 2021年9月15日ワシントンDC
出典)Photo by Kevin Dietsch/Getty Images

〇アジア

31日に中国で春節の大型連休が始まった。例年旅客数は延べ30億人ともいわれるが、今年の移動者数は11億8000万人程度で、2019年比で6割の大幅減だという。その中で今週末、北京五輪が始まるのだが、果たして大丈夫だろうか。コロナ感染拡大から一部選手による不規則言動の可能性まで、北京の懸念は尽きない。

〇欧州・ロシア

 ウクライナ情勢緊迫化でNATO諸国間の温度差の拡大が気になる。ここでも注目されるのは、米英など海洋国家、仏独など大陸西欧国家、ポーランドやバルト海諸国など旧ソ連の一部か隣国だった東欧諸国の思惑の違いだ。いずれにせよ、プーチンが武力行使に踏み切れば、筆者の言う「勢いと偶然と判断ミス」の時代が再び始まる。

〇中東

 いわゆる「アブラハム合意」後、イスラエルと湾岸アラブ諸国との正常化が進んでいる。当初はイスラエルとの改善を「経済的理由」と見る向きもあったが、今や紅海でイスラエル、UAE、バハレーン、米国の海軍合同演習が行われるようになった。やはり、イスラエルとの関係改善は主として安全保障上の理由と見るのが正しいだろう。

 そのUAEで、イスラエル大統領が公式訪問中に、再び弾道ミサイルが撃ち込まれ、UAE軍は米軍の支援でそれを迎撃したという。発射したのは恐らくイエメンの親イラン勢力・ホーシー派だろうが、イランの嫌がらせである可能性は高い。中東の戦略的環境は急激に変わりつつある。

〇南北アメリカ

 トランプ前大統領は、2024年大統領選で勝利すれば、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件で訴追された支持者らを恩赦するという。でも、これでトランプの勢いが復活するということではない。最大の悲劇はトランプのカムバックの成否がバイデン大統領の人気次第だという、恐ろしい現実である。

〇インド亜大陸

 特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)2022年北京冬季オリンピックのボイコットを呼びかけるインドにいるチベットの学生ら。2021年12月10日 インド・バンガロール
出典)Photo by Abhishek Chinnappa/Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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