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.国際  投稿日:2022/2/23

習近平主席親族の武器密輸関与疑惑


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】
・中国共産党は世界中に中国人スパイを送っているとの報道相次ぐ。豪州だけでも約1,000人暗躍か。
・豪保安情報機構は、中国政府が豪州議会にスパイを送ろうとし、調査を行っているという異例の声明を発表。
・習主席の従弟が組織犯罪・マネーロンダリング・豪移民制度の乱用等で調査対象に。軍事装備密輸にも関与か。

 

今年(2022年) 2月、オーストラリアの有力紙は、習近平主席の従弟が武器密輸に関与していると報じた。この話は後述する。

中国共産党は世界中に中国人スパイを送っているとの疑惑がある。米英加豪NZで構成される「ファイブ・アイズ」も例外ではない。オーストラリアだけでも中国人スパイが約1,000人暗躍すると言われる。

本論に入る前に、まず、2019年、オーストラリアで起きた「趙波事件」について触れておこう。

ここでは『RFA』の記事、「中国共産党、中国系ビジネスマンをオーストラリア政界に引き入れようとしたが、計画がリーク後、そのビジネスマンが謎の死をとげる」(2019年11月25日付)(a)を引用する。

2019年3月、メルボルンのモーテルで、ビジネスマンの趙波は遺体で発見された。趙波は、メルボルン郊外の高級住宅街、グレンアイリスに妻と娘と暮らしていた。

2016年、趙波に金銭問題が生じた。その後、2018年、趙波が経営していたメルボルン高級車販売店が破綻している。翌2019年初め、オーストラリア徳鴻国際投資有限会社(Prospect Time)の社長、陳春生(Brian Chen)が、オーストラリア自由党所属の趙波に100万豪州ドル(約8,250万円)の提供を申し出たという。

陳春生は、趙波をオーストラリアの国会議員にして、豪州政治に関与しようとしたのだろう。しかし、陳春生と趙波との間でトラブルが発生し、趙波は陳春生に“暗殺”された公算が大きいと同記事は報じている(ちなみに、オーストラリア警察は、趙波の死因を特定できなかった)。

同年11月24日、オーストラリア保安情報機構(ASIO)は中国政府が豪州議会にスパイを送ろうとしたことについて、豪当局が調査を行っているという異例の声明を発表した。


写真)オーストラリアには約1,000人の中国人スパイが暗躍しているとも言われている。写真はシドニー(2021年9月28日)
出典)Photo by David Gray/Getty Images

他方、2019年夏、『紐約時報中文網』(同年8月5日付)は「習近平の従弟、オーストラリア犯罪捜査に巻き込まれる」(b)という記事を掲載した。以下が、その概要である。

2016年、オーストラリア連邦捜査官は、リゾート空港でギャンブラーらを乗せた自家用飛行機を捜索し、国際的マネーロンダリングの証拠を探した。だが、捜査官達は彼らを逮捕するための十分な証拠を見つけることができなかった。

ただ、その飛行機の中で、中国の犯罪組織と関係があるとして起訴されたビジネスマンと斉明(Ming Chai)という人間を確認した。そして、斉明(オーストラリア市民権を持つ)が、習近平主席の近親者であることがわかった。

現在、習主席の従弟、斉明は、組織犯罪・マネーロンダリング・オーストラリアの移民制度の乱用等で、広範な調査対象となっている。

さて、今年、豪州『シドニー・モーニング・ヘラルド』紙は、「AFP通信、中国スパイが軍事装備を密輸しようとしたという疑惑を暴露」(2022年2月18日付)(c)という記事を掲載した。内容は以下の通りである。

オーストラリア警察は、クイーンズランド州に住む2人のビジネスマンによる、ロシアから中国への軍用機器輸送計画を阻止したという。

この件は、習近平主席の親族とつながりのある中国共産党スパイネットワークに関する、より幅広い捜査のほんの一部だと関係者が明らかにした。

同月18日、クイーンズランド州裁判所は、中国生まれのゴールドコーストの会計士Kim Bowei Lee(キム・ボウェイ・リー=李金)(64歳)とロシア生まれのブリスベンの企業家Alexander Cher(アレクサンダー・シェール)(63歳)がオーストラリアの国防貿易管理法違反で起訴されたことを認めた。

今回、豪州検察の告発は、オーストラリアで活動する中国のスパイネットワーク疑惑に関するASIOの幅広い調査から派生したものだという。

その疑惑のネットワークメンバーは、前述の如く、2016年8月、オーストラリアのカジノが企画したゴールドコーストからニュージーランドへのプライベートジェット便に乗っていた人物達である。オーストラリア当局が彼らの会話を傍受した。その際、李金はこの便の6人の乗客の1人だった事が確認されている。

他の乗客の中には、習主席の従弟、斉明、メルボルンの組織犯罪のボスで「ミスター・チャイナタウン」こと、周九明、また、中国情報機関との関連が疑われる人物も含まれていた。

なお、李金とシェールは、「趙波事件」に関わったと見られる陳春生と提携したとして起訴されているという。陳春生は現在、海外に潜伏しており、インターポールから国際手配されている。ある消息筋は、陳春生を「スパイとして世界を旅する中国の軍事情報機関」と評した。

中国共産党は、オーストラリアを舞台にして、様々な活動を行っている。それが合法的活動なら何ら問題ない。だが一連の報道から、違法活動を行っているとの疑惑は強まっている。その中に、習主席の従弟、斉明がいるという。

 

(注)
(a)『RFA』は『ラジオ・フリー・アジア』。議会の出資によって設立された短波ラジオ放送局。民間の非営利法人が運営している。
(RFA『中共試圖安插在澳華商滲入政界計劃外洩後商人離奇死亡』)

(b)(紐約時報中文網『習近平表弟捲入澳洲犯罪調查』2019年8月5日付)なお、『ニューヨークタイムズ』(英文版)は2019年8月2日付である。

(c)(シドニー・モーニング・ヘラルド《AFP uncovers suspected Chinese spy’s alleged plot to smuggle military equipment》「AFP通信、中国スパイが軍事装備を密輸しようとしたという疑惑を暴露」2022年2月18日付)

トップ写真)中国・習近平国家主席
出典)Photo by Greg Bowker – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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