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.政治  投稿日:2022/3/17

「日中友好」の光と影 国交50周年を機に その1 なぜ「正常化」なのか


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・日本は2022年、中国との国交樹立から50年目を迎える。

・林芳正外務大臣は長年、「日中友好議員連盟」という組織の会長を務めてきた。

・この組織は長年、中国側から「中日友好団体」と名づけられ、中国側の意向を忖度する動きで知られてきた。

  

わが日本は2022年、中国との国交樹立から50年目を迎える。日本側では「日中国交正常化50周年記念」として種々の行事が予定されている。中国側でも同様だろう。

いまの日中両国間では1972年に起きたことは「日中国交正常化」と呼ばれる。日本国が中華人民共和国との国交を樹立したことを「正常化」と称するわけだ。

▲写真 人民大会堂での宴会で、田中首相(当時)が中国の周恩来首相と乾杯する(1972年9月28日、中国・北京) 出典:Bettmann/GettyImages

だがこの表現にも問題がある。日本国は1972年以前までは中国を代表する相手として中華民国と国交を結んでいたのだ。中華民国とはもちろん台湾のことである。中華民国の主体だった国民党政権は共産党軍との内戦に敗れ、1949年までには台湾へと避難した。だがそれでも中華民国政府こそが中国全体の代表だと宣言していた。日本もアメリカもその宣言を認めて、中華民国との完全な国交を維持していた。

しかしいまや、その国交を断絶して中華人民共和国との国交を結んだことが中国との関係の「正常化」とされるわけだ。となると日本の独立時から1972年まで保持してきた中華民国との国交は「異常」だったという解釈になってしまう。現実には日本と中華民国との関係は円滑かつ正常だったのである。

さてそんな思いを馳せながらも、日本と中国とのいまの関係を考えると、もちろん中華人民共和国とのつながりの現在、そして未来を想うことが主体となる。そして日本側の中国に対する姿勢を考えさせられる。

日本にとっての中国とはなんなのか。日中関係とはどうあるべきなのか。国交が樹立されて半世紀の現時点での反省とか期待はなんなのか。

これから国交樹立の実際の記念月の9月まで日中両国間では「友好」をうたう各種の行事がいろいろと催されることだろう。そんな祝賀ふうの流れのなかでも、なお日本にとっての最大の課題はこの巨大で無謀で活力あふれる隣国をどう位置づけ、どう対応していくか、であろう。

日本と中国との政策や利害、思考などが大きく異なる事実は自明である。その差異のなかで、日本は中国をどう定義づけるべきか、どう接すべきか。単なる「友好」という言葉ですませられないことはあまりに明白である。

日本が自国の国益を主張し、中国側に抗議や要求をぶつけることも欠かせない。友好という言葉に圧され、日本側の正しい権利を明示し、中国側のまちがった言動を厳しく指摘しなくなるということがあってはならない。

だが現実には私自身がこれまでの半世紀近くみてきた日中関係では日本側の遠慮や忖度が過多だった。当然、主張すべきことを中国側に反発され、友好が崩れるから黙っておこうという態度が日本側の官民で顕著だった。

ごく至近の実例をあげよう。

この2月21日、北京市内で日本大使館の日本人外交官が中国当局に拘束された。外交官の身体は不可侵だとする国際条約に違反する中国側の行為だった。外交特権の侵害だった。日本側は複数のルートで抗議したという。その結果か、その日本人外交官は数時間後に解放された。本来、逮捕や拘束はされてはならなかったのだ。

だが中国外務省報道官は「その外交官が身分と合致しない行動をとったから中国の法律に基づき逮捕した」と述べ、謝罪も釈明もしなかった。

本来、逮捕はできないのである。だが中国政府は国際条約を無視しての蛮行へと走り、しかもその非を認めなかったのだ。日本側は林芳正外相が「断じて受け入れられない」と言明したが、中国側に無視された。中国当局がなぜその日本人外交官を逮捕したのかも、わからないままに終わったのだ。

以上が日本政府の中国とのやりとりでは典型的なパターンなのである。「受け入れられない」と述べて、終わり、ということなのだ。他の諸国の政府がよく実行する報復の措置や再三の抗議、情報の開示要求などという後追いの措置はないのである。これも日中友好を保つためには適切な対応とみなされるのが日中関係での日本側の実情だといえる。

さてこんな前置きを提起して、日中関係全体を眺めていこう。

まず日中友好とはなにか。

今回、林芳正という政治家が岸田文雄首相に任命されて外務大臣になったことが、改めてこの日中友好とはなにか、という命題を考えさせてくれた。林氏は長年、日中友好議員連盟という組織の会長を務めてきた。だから彼の外相就任は期せずして、この組織にスポットライトを浴びせることとなった。

この組織は長年、中国側から「中日友好団体」と名づけられ、中国側の意向を忖度する動きで知られてきた。 

中国共産党政権が日本への敵性を示し、国際的にも人権弾圧や軍事恫喝で反発を招くなかで、中国側に媚びるような動きをみせてきた団体のトップが日本国の外務大臣となる。

しかもこの友好議員連盟は中国政府が対日政治工作で利用する問題の組織としてアメリカ側からも警戒されてきたのだ。

こんな事態に対して日中関係の変遷を長年、考察してきた一員として私はまず「この時期になぜこんな人事を」との疑問を禁じえない。

日本全体が中国に対して厳しい姿勢で抗議や反対を表明しなければならない環境下なのに、こんな媚中の記録を持つ人物が日本の外務大臣となることへの懸念を感じるのである。

以上、第一回(つづく)

トップ写真:クワッド外相会議の共同記者会見に臨む林芳正外相(2022年2月11日、オーストラリア・メルボルン) 出典:Photo by Darrian Traynor/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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