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.政治  投稿日:2024/8/29

予測不能な自民党総裁選、「逆転」や「再逆転」も


安積明子(政治ジャーナリスト)

「安積明子の永田町通信

【まとめ】

・自民党総裁選に史上最多の12名が手を挙げている。

・派閥が解体され、推薦人20人を集めるのが高いハードル。

・推薦人集めの難しさや「引き剥がし」の影響が注目される。

 

 9月12日告示・27日投開票の自民党総裁選では、史上最多の12名が手を挙げている。これまでは派閥単位で候補を擁立してきたが、派閥が事実上なくなりその制限が外れたためだ。

 だが総裁選に出馬するには、国会議員20人の推薦人が必要で、これが結構高いハードルになる。たとえば上川陽子外務大臣は8月25日、推薦人集めについて「20人をはるかに超える支持をいただいている」と自信を示したが、執筆現在(8月29日)ではまだ会見日程が公表されていない。また青山繁晴参院議員は8月24日に会見し、「強烈な引き剥がしを受けている」と訴えた。

 確かに派閥が中心だったこれまでの総裁選では、激しい「引き剥がし」が行われていた。野田聖子元少子化担当大臣が何度も出馬しようとしたが、それが阻まれたのは、推薦人を集める以上の引き剥がしが行われていたためだ。

 ところが「本命」の岸田文雄首相と「対抗馬」の河野太郎デジタル大臣に加え、「ダークホース」の高市早苗経済安全保障担当大臣が出馬した2021年の総裁選では、「引き剥がし」の力が緩んでいる。おそらくは「男性2名、女性2名の出馬の方が、総裁選は盛り上がる」という“上からの判断”があったのだろう。野田氏は元夫の鶴保庸介元クールジャパン戦略担当大臣の助力もあって、二階派(当時)から8人の推薦人を「借り」て出馬した。

 派閥が事実上解体した今回の総裁選では、“上からの引き剥がし”はほとんどない。唯一残った派閥である麻生派は、領袖の麻生太郎副総裁が河野氏を推すが、他の候補への応援を禁じることはなく、事実上の「自主判断」になっている。推薦人になるには国会議員本人の判断になるが、それゆえに推薦人を集めるハードルは高くなる。

 というのも自分が推薦した候補が勝てば、新内閣でのポストや党人事での優遇など、それなりのメリットが期待できる。しかし負けてしまってはそれも叶わない。それどころか、推薦人の名前は公表されるため、敢えて外される危険もある。派閥というベールが剥がされた今では、それは個人にさらにダイレクトに影響してくるだろう。

 その中で小林鷹之前経済安全保障担当大臣はいち早く、8月19日に出馬会見を行った。会場には24名の国会議員が同席したが、小林氏の将来性への期待が窺えた。たとえ今回の総裁選で勝てなくても、49歳の小林氏には次への足掛かりとなるはずだ。実際に「次の総裁候補」として、各世論調査で小林氏の名前は急上昇している。

 それに対抗心を燃やしたのか、小泉進次郎元環境大臣が出馬する。当初は15年前に初当選した記念日である8月30日に会見を行う予定だったが、台風の影響で9月6日に変更。「さしたる主張も政策もない」と批判の声も上がるが、最有力候補であることは確実だ。

 世論調査で上位を占める石破茂元幹事長は8月24日に、前回の総裁選で次点となった河野太郎氏も26日に出馬会見をすませている。林芳正官房長官と高市早苗氏は台風のために日程を変更したが、出馬することは確実となった。茂木敏充幹事長は28日、国会内で地元議員らから出馬要請を受けている。

 このように今回の総裁選では「見どころ」がいくつもある。まずは手を挙げている12人の中から、どのくらいが20人の推薦人を集めて出馬できるのかという点だ。

 また多数の候補が乱立するため、おそらくは1回目の投票では結果が決まらず、1位と2位で2回目の投票が行われるに違いない。ここで逆転が起こる可能性も否定できない。1956年の総裁選では「2・3位連合」が行われ、1回目の投票で2位だった石橋湛山首相が当選した。

 だが今回は3位以下が多くなるため、この時ほど単純にはいかないだろう。しかも今回の総裁選は、キングメーカーの戦いでもある。彼らは自分が推す候補を当選させるというよりも、当選しそうな候補を狙っている。岸田文雄首相も二階俊博元幹事長も、今のところは推す候補を明確にしていない。麻生氏は河野氏を推してはいるが、河野氏が1回目の投票で2位以内に入るとは限らない。麻生氏が派閥に縛りをかけていないのはそのためではないか。

 このように「圧倒的に強い候補」がいない今回の総裁選では、「逆転」や「再逆転」を含めて何が起こるかわからない状態だ。実際に5人が出馬した2012年の総裁選では、1回目の投票で安倍晋三首相は地方票で石破氏に及ばず、議員票で石原伸晃元幹事長に及ばなかった。自民党にとって「最も暑い秋」が間もなく始まる。

トップ写真:G20気候・エネルギー合同大臣会合に出席する小泉進次郎環境相(当時)2021年7月22日、イタリア ナポリ

出典:Ivan Romano/Getty Images

 




この記事を書いた人
安積明子政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使

安積明子

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