「日中友好」の光と影 国交50周年を機に 最終回 7団体の真の顔とは
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・アメリカのジェームスタウン財団は日本への中国統一戦線工作について報告している。
・報告書では、7つの日中友好団体の組織的な背景はどこかで中国共産党の統一戦線工作部につながっている、と指摘されている。
・報告書には、日中友好議員連盟は「統一戦線工作にかかわることもある」とのアメリカ側からの警告が記されている。
アメリカの「ジェームスタウン財団」の報告内容をそのまま紹介しよう。組織やその会長などの固有名詞は英語の原文のなかでもとくに中国語でも表記されていた。その表記をそのまま使うこととする。
【中国和平統一促進会】
「この組織は中国共産党中枢の統一戦線工作部の直轄の下部機関であり、対外工作では国際的な組織網と知名度で枢要の役割を果たす。その日本支部は日本中国和平統一促進会という名称で2000年に東京に開設された。会長は陳福坡である。
この日本の同促進会と行事や活動を共同して進める関連組織としては2005年創設の全日本華僑華人中国平和統一促進会(会長・凌星光)や2018年創設の全日本華人促進中国平和統一協議会(会長・鄭正権)が存在する」
【中国人民対外友好協会】
「この組織は元中国国家主席の李先念の娘の李小林を会長とし、その名称どおりに対外友好全般を活動目的とするが、とくに日本との関係を重視しての特別の部門を有している。
同組織は日本に対しては『民間外交』などの標語の下に活発な交流を展開し、とくに日本側の政治や経済での高いレベルのエリート層との友好を優先して促進に努めている。
エリート層を通じての中国共産党の対日影響力の行使だといえる」
【中国国際友好連絡会】
「同連絡会は中国政府の元外相の李肇星が会長を務めたこともあったが、本来は中国人民解放軍の対外組織である。人民解放軍総参謀部政治部に所属し、共産党中央軍事委員会の指揮下にもある。
1984年に創設された同連絡会は軍諜報機関とも緊密に連携し、統一戦線、外交部、国家安全部、政治宣伝部門など党や政府の他の関連機関と協力しながら外国での影響力行使工作を進める。
この組織は日本をも重視して、日本の幅広い各界との交流活動を展開してきた。その相手には宗教団体の阿含宗、各地の書道連盟、囲碁団体、グローバル印刷企業の凸版印刷社などが含まれる」
ジェームスタウン財団の日本への中国統一戦線工作についての報告書は、中国側の公的組織について以上のように述べていた。統一戦線の日本向けの枠組みとなるメカニズムの報告だといえよう。その枠組みのなかでどのような工作が具体的に実行されてきたのかまでは詳述していない。だからこそこの報告のタイトルにはあえて「予備」という条件が記されていたのだろう。
この報告書はこれら上記の3団体については、とくにその日本での活動が違法だとも、合法だとも書いてはいない。ただそれら団体の組織的な背景はどこかで中国共産党の統一戦線工作部につながっている、と指摘しているのだ。
これら3団体は日本での一般の認識としては、どうということもない、という受け止め方だろう。なにやら長たらしい名称で存在し、それほど論議を呼ぶ言動もとらない。というよりはそもそもなんのための、なにをする組織なのかもわからない。だが実際には中国共産党の中枢とつながる団体なのだと、このアメリカの調査報告書は指摘しているのである。
日本華僑華人中国平和統一促進会の会長をされる凌星光氏は日本のテレビなどにも登場する中国政府の「解説者」である。公式の肩書は福井県立大学の名誉教授とされる。日本在住の長い中国人学者である。
だがこの凌星光氏が中国共産党の統一戦線工作部とつながる有力団体の会長なのだという。そういえば、凌氏は公開の場での発言は常に中国共産党の路線に沿っている。中国当局の言動を擁護している。ごく最近ではウイグル人への中国政府の弾圧について日本側の国会議員が「洗脳だからよくない」と批判すると、「洗脳でよいではないか」と反論して話題となった。
日本側はこうした人物でも日本国民一般向けのテレビ番組に堂々と登場させて、中国共産党の政策を前向きに説明させることを恒常的に実行しているのだ。日本はよい国なのである。
しかしアメリカ側ではその凌氏が会長を務める団体の背景を鋭く喚起しているのだ。実際に日本での中国統一戦線工作部関連の活動についてのここまで具体的調査の発表というのは前例がないだろう。
さてジェームスタウン財団のこの報告書で本稿の主題である日中友好議員連盟との関連として最も注目されるのは、末尾に近い以下の部分だった。
本稿でのこれまでの記述と重複する部分もあるが、原文に忠実に紹介することとする。
【友好、貿易諸団体】
前述の中国共産党の対日統一戦線工作部に直結する組織や、それら組織に協力や関連する団体のほかに、日本にはその種の工作に意識しないまま、あるいは意識して、かかわることになる各種の合法的な団体が存在する。それら団体の活動はときには中国共産党の対日政治闘争の一貫となってしまうこともあるわけだ。
日本には少なくとも7つのその種の日中友好団体が存在する。これら友好団体は積極的に日中両国間の『文化交流』などを推進している。経済や貿易の促進を主目的に掲げる友好団体もある。
それらは日中友好協会、日本国際貿易促進協会、日中文化交流会、日中経済協会、日中友好議員連盟、日中協会、日中友好会館である」
繰り返しとなるが、林芳正外相がつい最近の外相就任時まで会長を務めてきた日中友好議員連盟は「統一戦線工作にかかわることもある」とのアメリカ側からの警告が記されているのである。
これから今年9月ごろまでにかけて日本の各界で語られる「日中友好」というスローガンの陰にはこうした実態がひそんでいることを十二分に知っておくべきだろう。
トップ写真)全国人民代表大会での習近平国家主席 (2022年3月5日 北京)
出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images
[/extdelivery]
あわせて読みたい
この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。