無料会員募集中
.政治  投稿日:2022/3/22

「日中友好」の光と影 国交50周年を機に その5 アメリカが日本の対中友好団体を警戒


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・「中国統戦部が日中友好議連などを利用し、対日政治工作を働くことがある」と米報告書。

・同報告書は「中国の工作内容、手法は明確でなく、日本への効果と影響を調査する必要」と。

・米は日中友好議連に微妙な警戒感。長年会長だった林外相と議連の「特別な絆」も認識。

 

日本でもその中国共産党の統戦部(統一戦線工作部)が日中友好議員連盟などの日本側の友好団体を利用しているとの指摘がアメリカ側で表面に出たのだ。

その最も具体的な実例はワシントンの研究機関ジェームスタウン財団 が2019年6月に発表した「日本での中国共産党の影響力作戦の予備調査」と題する報告書だった。

同報告書は中国共産党の統戦部やその関連組織が日中友好議員連盟のような友好団体を利用して、日本への政治面での工作や影響力行使を働くことがあると明記していた。同議員連盟への警戒の表明だった。

同報告書の作成の中心は在日体験も豊かな同財団中国研究部のアメリカ人学者ラッセル・シャオ氏だった。

ジェームスタウン財団というのは東西冷戦時代はソ連の軍事や外交を専門に研究し、ソ連崩壊後は共産主義や専制主義の国家の対外活動を中心に調査や研究を続けるシンクタンクである。民間の組織だが、研究員の多くは中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)というアメリカ政府の情報機関にかかわってきた専門家である。

同報告書は日本での統戦部関連団体としては日本中国和平統一促進会が主体で、関係組織として全日本華僑華人中国平和統一促進会や全日本華人促進中国平和統一協議会が存在する、などと記したうえで、日本側の友好七団体も日中友好議員連盟も含めて個々の具体名を指摘していた。

この種の友好団体も統戦部とかかわりを持つことがある、というわけだ。

同報告書は友好七団体について「友好団体側は統戦部との協力や接触に気がつかない場合もあり、違法活動をしているとも断じられない」という注釈をも述べていた。

だから日中友好議員連盟はアメリカ側でも知られた親中組織として微妙な警戒の視線で注視されてきた、という総括が適切だろう。当然、新任の林芳正外相についても、林氏がこの友好議員連盟と長年、かかわり、最近はその会長を務めてきたという特別な絆はアメリカ側には知られている、ということである。

この報告書の内容をもう少し詳しく紹介しよう。報告書のタイトルに「予備調査」と記されているのは、本格的な調査の始まりという意味だろう。

報告書の主題は「影響力作戦」という表記だったが、実際の内容は統一戦線工作についてだった。その点の説明が冒頭にあった。

「中国共産党の対外的な影響力作戦の決定的に重要な方法として一般の理解をほとんど得ていない手段は『統一戦線工作』である。この工作とは相手国の社会全体に対して中国共産党の目標に沿うように非共産党の要員や組織を動員して影響力を行使し、強化することを目指す戦略である」

つまりこの工作が日本にどのように仕かけられているかを調べたのがこの調査報告だというのだ。同報告はとくに日本について調べることの意義を序文で次のように説明していた。

「2019年1月に公表されたアメリカ国防総省国防情報局の『中国軍事力報告』はアメリカ、台湾、日本などに対して中国が政治闘争を実行していることを指摘していた。この政治闘争とは中国共産党が相手国の政府や社会の認識、信念、行動に影響を及ぼすための公然あるいは秘密の一連の手段行使を指す。

中国共産党がアメリカや台湾に対して実行する政治闘争の本質は両国の政府の情報開示やメディアや学界の調査によって、かなり明らかになっている。だが中国共産党が日本に対してその種の悪影響の行使のためにどんな作戦を実施しているかはあまり明確ではない。

中国側が日本でこの種の工作を進めるための組織や手法がどのように実施され、その結果、日本側にどのような効果や影響が生まれるのか、は調査されねばならない

同報告はそして「日本での統一戦線工作の作業」と題して、統一戦線の対日工作にかかわるとする組織をまず列記していた。

これら組織は設立が古いところも多いが、長い存続のなかで習近平時代の近年になって統一戦線の新たな任務を与えられたとされている。

ただしこれら組織の活動には各組織自体の公式の説明どおりに、中華の同胞同士の連帯や日中友好、祖国統一など正当あるいは合法の動きも当然、含まれていることは明記しておくべきだろう。

(最終回につづく。その1その2その3その4 。全6回) 

トップ写真:クアッド(日米豪印)外相会合での林芳正外相とブリンケン米国務長官(2022年2月11日 豪メルボルン) 出典:Photo by Sandra Sanders – Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."