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.国際  投稿日:2022/3/30

裸の王様プーチン ロシア軍が「お粗末」なわけ


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2022#13」

2022年3月28-4月3日 

【まとめ】

・ロシア軍が「お粗末」な最大の理由は、最高司令官プーチン大統領に「悪いニュースが伝わっていない」可能性。

・バイデン大統領の不用意発言は、米露関係が険悪化するだけで、何の利益もない。

・ウクライナ戦争は、仮に「停戦」合意に至っても、真の「休戦」は当面難しいのでは。

  これまで「デジャヴュ(既視感)」、「ダブルダウン(倍返し)」「フォールスフラッグ(偽旗)」といった英語表現をご紹介してきたが、今週も英語の蘊蓄を続けよう。最近筆者が気に入ったのは「age well」なる言い回しだ。文字通り訳せば「良く老ける」だが、これが転じて、例えばワインのように「時が経つほど良くなる」という意味で使うらしい。 

似たような表現としては、尊敬するCollin Powell元国務長官の名言に”Bad news isn’t wine. It doesn’t improve with age.”がある。この場合は危機管理の格言で、「悪い情報ほど早くトップに伝えよ」という意味だろう。先週CNNで元米軍人が”Bad news does’t age well.”とコメントしていたが、これも同様の趣旨に違いない。 

要するに、プーチン大統領に「悪いニュースが伝わっていない」可能性があるということだ。やはり、彼はKGB上がりの元情報将校に過ぎず、何万もの大部隊を率いる職業軍人としての基礎的訓練は受けていないのだろう。ロシア軍のお粗末なパーフォーマンスの最大の理由は、実は最高司令官がお粗末だったから、かもしれない。 

お粗末といえば、ポーランドでのバイデン大統領”nine ad-libbed words”も負けてはいない。この9語のアドリブとは”For God’s sake, this man cannot remain in power.”で、元々演説原稿にはなかったものだ。良く言えば「大統領の怒りを示すもの」かもしれないが、悪く言えば「大失言」に近い。致命的ではないが、不用意である。 

写真)演説するバイデン米大統領。「プーチン大統領は権力の座に残れない」と発言。(2022年3月26日 ポーランド・ワルシャワ)

出典)Photo by Omar Marques/Getty Images

テレビ番組である識者が、このバイデン発言は「内政干渉であり、一国の大統領に対し失礼だ」などとコメントしていたが、問題は「失礼か否か」ではない。「プーチン失脚」は夢だが、それを言っちゃあ終わりだよ。米露関係が険悪化するだけで、何の利益もない。その意味ではバイデンはルビコンを渡り、プーチンに喧嘩を売ったのだ。 

関係者が苦労して取り纏めた格調高い「民主主義」演説も最後の「アドリブ」で大いにケチが付いてしまった。早速ホワイトハウスは「大統領の発言はロシアの政権交代を意図したものではない」などと火消しに追われたが、これも筆者が懸念する「勢いと偶然と判断ミス」の一つだろう。放言癖のジョー・バイデンはまだまだ健在である。

写真)ロシア軍の攻撃を受けたウクライナ・ハリコフの様子(2022年3月28日)

出典)Photo by Chris McGrath/Getty Images

 それにしても、ウクライナ戦争はいつまで続くのか。仮に「停戦」合意に至っても、「停戦」は破られるためにあり、真の「休戦」は当面難しいのではないか。今週の政治プレミアでは、時々の戦況に一喜一憂することなく、ウクライナ戦争後に国際情勢が如何に変化するかを論じている。ご関心がある向きはご一読願いたい。 

今週もウクライナ戦争以外の気になる各地のニュースを見ていこう。

〇アジア  

官房長官は24日の北朝鮮が発射したICBMを「新型」とする日本の分析は変わらないと述べた。理由は「飛行高度などを含め、諸情報を総合的に勘案した結果、新型」だというのだが、米韓両国は「既存の火星15型」だとしている。いずれにせよ、北朝鮮のICBM級弾道ミサイル開発は粛々と進んでいることだけは確かだ。 

 

〇欧州・ロシア 

欧州がロシア産ガス依存からの脱却を図る中、世界のエネルギー供給市場は再編されつつある、とFTが報じた。いずれは米国が大西洋経由でのガス輸出を増やし、オーストラリアとカタールがアジア向け供給を拡大するという。LNGの新規設備ができれば、それも可能になるのだろうが、中国は如何に動くのだろうか。 

 

〇中東 

先週に続き、イスラエルが外交攻勢を強めている。26-28日、同国南部でアラブ首長国連邦、バハレーン、モロッコ、エジプトと米国の6カ国の外相会合を開いた。当初アラブの対イスラエル関係改善は経済的理由だと分析する向きもあったが、最近の動きは明らかに安全保障面の協力強化だ。中東の勢力図は変わりつつある。 

 

〇南北アメリカ  

韓国の次期大統領が「韓米政策協議代表団」を4月初めに米国に派遣するという。代表団は米ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)や国務省など政府や議会関係者、シンクタンクなどに会うそうだ。米韓で建設的な議論が再開され、日米韓の連携が進むと良いのだが・・・。 

 

〇インド亜大陸  

中印外相がインドで会談した。インド側はウクライナ問題で「停戦に向け外交や対話が最優先」で一致する一方、中印国境問題については「平和と静けさが妨げられている状況で、両国の関係は正常とはいえない」と述べるなど、中国への懸念を重ねて強調したそうだ。なるほど、インドの動きは一貫している。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真)クリミア併合記念コンサートで演説するロシアのプーチン大統領(2022年3月18日 モスクワ)

出典)Photo by Getty Images




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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