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.国際  投稿日:2022/4/13

ブラジルは“迷走外交”、メキシコは“ロシア接近” ウクライナ戦争で中南米2大国の対応


 

                  山崎真二(時事通信社元外信部長)

 

【まとめ】

・ウクライナ戦争をめぐりブラジルはボルソナロ大統領が親ロシア、国連大使がウクライナ支持を表明、外交の不統一をさらけだした。

・ボルソナロ大統領のロシア支持の背景には10月の同国大統領選での再選を狙う思惑が絡んでいる

・メキシコは表向きロシアのウクライナ侵攻を非難しているものの、ロペスオブラドール政権のロシア寄り姿勢が顕著だ

 大統領と国連大使が対立-ブラジル

周知のとおり、2月末に国連安保理で行われた対ロシア非難決議案はロシアの拒否権行使で不成立となったが、ブラジルのコスタ国連大使はロシアの侵攻に重大懸念を表明し、ロシア軍の撤退を主張、採決に際し賛成票を投じた。その後3月初めの国連総会の緊急特別会合での対ロ非難決議でブラジルは賛成を表明した。いずれの場でも明白な反ロシア、ウクライナ支持の表明である。

ところが、3月25日の米州機構(OAS)理事会で行われたロシア軍の即時撤退を求める決議案採決ではブラジルは棄権に回り、反ロシアの姿勢を後退させた。続いて4月7日国連総会の緊急特別会合で、人権理事会におけるロシアの理事国資格を停止する決議案の採決が行われた際にもブラジルは棄権した。

こうしたブラジルの一貫性のない外交の背景には、親ロシアのボルソナロ大統領と、ウクライナ支持のコスタ大使ら外交当局との意見対立があるとみられ、ニューヨークの国連外交筋は「ブラジル外交が迷走している」と指摘する。

再選目指すボルソナロ大統領の思惑

 ボルソナロ大統領はロシアのウクライナ侵攻直前の2月半ば、モスクワで二国間協力拡大についてプーチン大統領と会談した。それ以後、ロシアを擁護する発言を繰り返しており、ウクライナ戦争に関しては“中立”を強調している。安保理での対ロ非難決議案採決に先立ち、同大統領がブラジルの国連代表部に反ロシアの姿勢を弱めるよう伝えたものの、コスタ大使はその意向を無視したとの情報もある。

極右ポピュリスト(大衆迎合主義者)とも評され、「ブラジルのトランプ(前米大統領)」との異名をとったボルソナロ大統領だが、元軍人であり、諜報畑出身のプーチン大統領とはウマが合い、個人的に親しいことはブラジルではよく知られている。

ボルソナロ大統領がロシア支持を強めるのは、個人的な関係だけでなく、10月のブラジル大統領選での再選を勝ち取るためとの説が有力。同大統領選に関する現地の各種世論調査では、ルラ元大統領が支持率でトップに立ち、ボルソナロ大統領を大きく離している。

サンパウロの有力政治アナリストは「ボルソナロ大統領がプーチン大統領との親密関係を強調することで強い指導者のイメージを自身の支持層にアピールしようとしている」と分析する。また、ブラジルの有力紙「フォリャ・ジ・サンパウロ」は、同国農業部門が多くの肥料をロシアからの輸入に依存していることが大統領のプーチン支持の背景にあるとの見方を示す。ボルソナロ大統領が大統領選でコンビを組む副大統領候補について、ロシアに批判的発言をしたモウラン副大統領を擁立しない意向を表明したことにも、プーチン大統領支持への強いこだわりが感じられる。

メキシコ外交の2面性

一方、ウクライナ戦争に対するメキシコの態度にもあいまいさが目立つ。在メキシコシティ外交筋は「ロペスオブラドール政権の外交には相反する2面性がある」と指摘する。

メキシコは2月の安保理と3月の国連総会の緊急特別会合での対ロシア非難決議案には賛成票を投じた。しかし、欧米各国の対ロ経済制裁には参加しないとロペスオブラドール大統領は断言。本稿執筆の現時点(4月初め)でメキシコはロシアとの経済活動に一切制限を課しておらず、アエロフロート・ロシア航空のメキシコへの乗り入れも続いている。ウクライナへの欧米の武器支援を同大統領は強く批判する。国連人権理事会のロシアの理事国資格停止の決議案の採決ではブラジル同様、メキシコは棄権した。

写真)メキシコのロペスオブラドール大統領

出典)Photo by Hector Vivas/Getty Images

メキシコの政権与党内やマスコミの間でも親ロシアの姿勢が目に付く。与党議員の中には、最近発足した「メキシコ・ロシア友好委員会」のメンバーもいるし、与党有力議員のアルマンド・コントレラス下院議員はプーチン政権との一層の関係緊密化を訴えている。

ロペスオブラドール大統領は、同友好委員会メンバーの米国訪問に関しビザ発給の停止を求める動きが米議会内で出たことを非難した。メキシコの有力紙「ラ・ホルナダ」はウクライナ首都のキーウ(キエフ)郊外で発生した大量虐殺について「ロシア、ウクライナの虐殺でっち上げ解明を国連に要求」との見出しで、ロシアの主張を全面的に伝える記事を掲載している。

ブラジルは右派政権、メキシコは左派政権という相違はあるものの、ともに民主主義国であり、かつ現在は安保理非常任理事国という重要な立場にある。中南米の2大国の対応は今後、同地域各国の動向にも影響を及ぼす可能性がありそうだ。

 

(了)

トップ写真)プーチン露大統領と握手するブラジルのボルソナロ大統領(2019年11月14日 ブラジリア)

出典)Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images

                                                                 




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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