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.国際  投稿日:2022/4/17

習近平政権の抱える問題点


写真)北京冬季オリンピック・パラリンピックでの貢献を讃える習近平主席と李克強首相 2022年4月8日 中国、北京

出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images

澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・習近平主席は、第20回党大会で、習政権3期目を目指すが、党内の反発が強い。

・ウクライナ危機で、貿易面やエネルギー安全保障面で大きな打撃を受ける中国経済。

・李克強首相は、習政権の「ゼロコロナ政策」に相反する立場を示している。

今年(2022年)秋、中国共産党第20回党大会を控えている。仮に、習近平主席が総書記に三選されれば、習政権3期目に突入する。だが、党内では、それへの反発が強い。

本稿では、今、習近平政権が抱えている問題点について取り上げてみよう。

まず、(1)ウクライナ危機である。ロシア・ウクライナ戦争に対し、中国がロシアへの軍事支援等を行うのか否か、世界から注視されている。

次に、(2)習近平政権の「ゼロコロナ政策」と政権内部の葛藤である。同政権は「ゼロコロナ政策」を掲げているが、それが上手く行っていない。

さらに、(3)習近平政権は、崩壊間際と言われる不動産バブルをどのように処理するかだろう。ただし、この件に関しては、別稿に譲りたい。

本稿では、(1)と(2)について詳述しよう。

まず、(1)「ウクライナ危機」である。ここでは『ヒンドスタン・タイムズ』に掲載された「終わらないウクライナ戦争は習主席にトラブルをもたらす」(2022年4月7日付)(a)というシシル・グプタの論考を紹介したい。

グプタは以下のように主張する。

ロシア軍が40日間にわたるウクライナ侵攻後、首都キーウ(キエフ)を占領できなかったことは、プーチン大統領だけでなく、習近平主席にとっても、国内に影響を及ぼすだろう。その理由は、次の通りである。

第1に、中国は世界最大の貿易国であり、ウクライナでの長期にわたる戦争は、海運、陸運、航空、港湾、保険、再保険に至るまで、広範囲に影響を及ぼし、世界貿易全体を揺るがす。

第2に、中国はエネルギー安全保障体制が脆弱であり、インドと同様、経済活動のため輸入炭化水素(石油や天然ガス等)に依存している。戦争とそれに伴う世界的な石油価格の上昇は、中国経済に大きな打撃を与えるだろう。

第3に、ウクライナはNATOから戦術的、技術的な支援を受けて戦っているが、そこで、中国は台湾侵攻を再考するだろう。ウクライナからのメッセージは明らかである。米国とその同盟国は、解放軍による台湾への侵攻を撃退するために力を尽くすだろう。

第4に、これまでのロシア・ウクライナ戦争の最大の教訓は、ロシアのハードウェアは技術的に古く、スティンガーやジャベリンのような西側の兵器、また武装ドローン、空中監視とは比較にならないという点である。

第5に、今年2月の北京冬季五輪直前、習近平主席は、ウクライナへの侵攻前のプーチン大統領と“無制限”の友好関係を約束した。しかし、もしロシアが負けた場合、共産党独裁政権にとって好ましくなく、中国自身を不安定にする可能性がある。

写真)北京冬季オリンピックの開会式に参加するプーチン大統領 2022年2月4日 中国・北京

出典)Photo by Carl Court/Getty Images

このように、グプタは鋭い分析を行っている。

次に、(2)習近平政権の「ゼロコロナ政策」と政権内部の葛藤である。

 中国語のポータルサイト『中国瞭望』は「党メディアと反対意見の国務院が突然、通知を出す」(2022年4月12日付)(b)という鍾原の論考を掲載した。興味深いので、抄訳しよう。

上海市・吉林省でコロナが蔓延し、ロックダウンが極端に厳しくなると、中国各地でも同様の措置が相次いだ。当局はトラックを強制的にストップさせ、物流システムが遮断された。

李克強首相は、「防疫検査所の設置違反」及び「運送路の無断遮断」を禁じるという国務院の通知文を送った。これは、習政権の「ゼロコロナ政策」とは、事実上、相反する。

4月8日、李首相は経済専門家や企業家との座談会を主宰し、「交通幹線、港湾などの基幹ネットワークの秩序ある運行を保障」し、「国内外の物流の円滑化を促進し、産業のサプライチェーンの安定を維持」するよう求めた。

上海市や吉林省がロックダウンされてから、生活用品や物資の不足が注目され始めた。コロナの再流行を懸念した各地の役人は、人の移動に何重もの障壁を設けている。そのため、物資を運ぶトラックが長蛇の列を作るようになった。

多くの企業は、必ずしもコロナが原因で規制を受けたわけではない。だが、原材料の搬入や製品の出荷が間に合わず、事実上、作業・生産の停止を余儀なくされた。

同11日、李首相は、江西省を視察し、同省、遼寧省、浙江省、広東省、四川省の地方政府責任者との懇談会を再び主宰した。

そこでも、李首相は「交通基幹ネットワーク、港湾などの秩序ある運行を確保し、国内外の物流を円滑に行い、産業の供給チェーンを安定的に維持する」よう求めた。また、「農業資材の供給と価格の安定、末端流通の安定に尽くし、決して農繁期を遅らせてはならない」と述べた。

この李首相の発言は、各地の極端な防疫措置を中止させたも同然だろう。ただ、役人としては、国務院通達に従えば「ゼロコロナ政策」違反となり、もしコロナの流行が拡大すれば関係者に影響が出る。また、極端な防疫措置や物流の遮断を続ければ、経済が回らず、その責任を問われる。今後、役人達はこのジレンマに悩まされるだろう。

(注)

(a)『ヒンドスタン・タイムズ』「終わらないウクライナ戦争は習主席にトラブルをもたらす」(2022年4月7日付)

(https://www.hindustantimes.com/world-news/a-never-ending-ukraine-war-spells-trouble-for-president-xi-101649305308117.html)

(b)『中国瞭望』「党メディアと反対意見の国務院が突然、通知を出す」(2022年4月12日付)

https://news.creaders.net/china/2022/04/12/2472335.html




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