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.国際  投稿日:2022/10/17

軍を掌握していない習主席に3期目あるか


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・第20回党大会で、習近平主席の3期目続投は確実だと報じられている。

・一方、人民開放軍は習主席の続投を支持していない、との報道も。

・「習派」と「反習派」間の調整が行われているとの憶測もある。

 

かつて毛沢東は「鉄砲から政権が生まれる」と喝破した。中国では、依然、その言葉が生きているのではないかと思われる。

第20回党大会で、習近平主席の3期目続投は確実だと報じられている。しかし、それは、人民解放軍の動向を軽視した議論に過ぎないのではないか。我々が入手した中国語の文献から考えると、習主席の続投は容易ではない観がある。

まず、軍は習主席の続投を支持していない、と報じられている(a)。第19期7中全会で、張又俠と許其亮2人の中央軍事委員会(以下、軍事委員会)副主席は、何も発言しなかったという。

ところが、グループ討論では、2人の副主席は、習主席再選支持には触れず、党中央の集団指導を支持すると公言した。だとすれば、軍は習主席再選不支持を打ち出したのではないか。

次に、現在、党の元老達は誰も習主席の再選を支持していないように見える。それは、9月30日の国慶節レセプションに、彼ら全員が欠席した事からも窺える。

さて、次期党大会直前、江沢民が姿を現した(b)。そして、江沢民は李克強首相を支持して、習主席を見捨てたという。

江沢民は、2002年に引退したが、その後、第19回党大会に至るまで、党の最高指導権を握っていた。実際、江沢民は何十年も権力を握っており、今の党、政府、軍の高官はすべて彼の指導下にあると言っても過言ではない。

軍事委員会副主席2人らはいずれも江沢民の元部下だった。国防部長の魏鳳和、連合参謀部参謀長の李作成、軍事委員会政治工作部主任の苗華なども同様である。

第19回党大会直後の習主席の周りには、有能な人材がいたという。けれども、主席は王岐山・国家副主席を冷遇し、若くて忠実な将軍、乙暁光を追い出した。

そして、北方戦区司令官の“李橋銘事件”(9月8日、瀋陽軍区で内戦が勃発。李橋銘が更迭される)以来、軍事委員会は習主席のコントロールが効かなくなってしまったようである。

ところで、多くの人々は、江沢民が、もはや権威もなく、政治における役割はゼロに等しいと思い込んでいるかもしれない(c)。だが、本当は逆で、江沢民は健康そのものだという。

最近の軍事委員会の再編成から判断すると、政変で生じるあらゆるリスクに対処するために、江沢民を中心とした軍事配置であることがわかる。

習主席に不当な扱いを受けたのは、陸軍司令官に“昇格”した李橋銘と東部戦区司令官の林向陽だった。林は、昨年8月、中部戦区に異動となった。しかし、4ヶ月後、再び東部戦区へ戻って来たが、そこにはすでに司令官ポストがなかった。だが、先日、林が東部戦区司令官に“再任”されている。

この2人をそれぞれのポストに任命したのは軍事委員会であり、軍が江沢民指揮下に入ったことを示すと考えられよう。

各戦区は戦時中の作戦遂行に責任を負うが、平時の兵員移動の権限はない。兵員移動の権限は軍事委員会にあり、陸軍司令官が実行に移す。

したがって、陸軍司令官の李橋銘と東部戦区司令官の林向陽が組んで、合法的に軍隊を動かして、あらゆる軍事任務を達成したのではないだろうか。

まず、東部戦区は、上海を中心に防衛区域内に軍事封鎖線を構築した。おそらく軍事委員会が江沢民と元老派の命令に従って、党大会前後に軍事クーデターと暴動を防止するため健全な戦略計画を立てたのだろう。

南部戦区・西部戦区は軍事委員会の命令と陸軍司令官の署名がなければ勝手に移動することはできない。北部戦区の野戦部隊は、今も李橋銘の指揮下にあるという。

軍事委員会は、東部戦区と中部戦区の2大戦区を主戦力として、北京方向に戦略的抑止力を発揮させる構えのようだ。両戦区合計100万人近い鉄壁の軍隊が、首都を北に見て、出動の準備をしているという。

江沢民の圧倒的な軍事力を前にして、習主席は、中央警備局等を使って「反習派」を逮捕し、北京を封鎖して再選を果たすという思惑は、すでに無効化しているのではないか。

実は、国慶節期間中、習主席が上海にいる江沢民を訪問したという情報がある(d)。それによると、兪正声・元政治協商会議主席と張徳江元全人代委員長が「習派」と「反習派」間の調整に乗り出したという。

習主席は3期目再選、そして、2年半、つまり半期だけ総書記に就任するという妥協案が提示された。だが、江沢民・習近平会談は、わずか30分で物別れに終わった。習主席の妥協案は、江沢民に拒否されたと見られる、と報道されている。

 

〔注〕

(a)『中国瞭望』「7中全会での最新状況を暴露:習主席が再選に挑戦、軍は明確な態度表明」(2022年10月10日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/10/10/2534721.html)。

(b)『天下論壇』「江沢民は習近平を捨て李克強を支持、軍の手厚い保護下にある」(2022年10月4日付)

(https://bbs.creaders.net/politics/bbsviewer.php?trd_id=1618084)。

(c)『天下論壇』「江沢民がすでに軍権を掌握したようで、元老たちが主導権を握った」(2022年10月10日付)

(https://bbs.creaders.net/politics/bbsviewer.php?trd_id=1618681)。

(d)『中国瞭望』「国慶節中、習近平が上海に行って江沢民と密かに会い、2人の元老が妥協案を提示したと噂されている」(2022月10月8日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/10/08/2533880.html)

トップ写真:ガーナのナナ大統領の表敬を受ける習近平国家主席(2018年9月1日、中国・北京) 出典:Photo by Nicolas Asfouri-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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