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.国際  投稿日:2025/1/7

フランスRSA改革で社会復帰を促進 就職活動義務と支援強化


Ulala(著述家)

フランスUlalaの視点」

【まとめ】

・フランスでは1月1日より、積極的連帯所得手当RSA)の改革が開始された。

・RSA受給者は週15時間の活動を義務付けられ、その後の再就職および安定率は約40%程度。

・RSA改革をはじめ社会的弱者の支援を増やすことで、社会復帰できる国づくりを目指す。

 

フランスでは、2025年1月1日から、積極的連帯所得手当(RSA、日本でいう生活保護)の改革が始まった。これは、2022年の大統領選でエマニュエル・マクロン氏が公約に掲げた項目であり、改革はRSA受給者への就職支援を目的としている。

2023年の12月15日に発表された社会省研究統計局(Dreesの調査によれば、一度RSAの受給を受け始めると5人に1人がその後10年にわたって受給し続けるという問題がある。また、長期就職しないということは、社会活動への復帰をさらに困難にさせるという悪循環に陥っていた。

そこで、2025年からは、RSAを受給する場合は強制かつ自動的にフランス・トラヴァイユ(日本でいう職業安定所)に登録され、週15時間の就職活動を義務付けるとした。

■ それまでのRSAの問題点

現在、フランスではRSA受給者は約180万人いる。以前からRSAを受けるにはフランス・トラヴァイユへの登録が条件になっていたものの、実際に登録しているのは全体の40%のみであった。しかも、一度RSAを受給し始めると、長期にわたって受給し続ける問題があった。Dressの調査結果によれば、2010年末時点で16歳から49歳だった人のうち、5人に1人(21.1%)が2011年から2020年までRSAを受けていた。また5人に2人(40.7%)が少なくとも1回はRSAを受けなくてもよい状態になったものの、その後再びRSA受有者に戻ることを経験している。要するに、RSAを受けたあとに問題なく就職して継続できるのは、5人に2人程度と言えるのだ。

そこで、2025年から実施されるRSA改革では、これらの問題を改善するために就職支援を強化していく方針だ。

■ RSA改革の具体的内容

RSA受給者はフランス・トラヴァイユに自動的に登録され、仕事を見つけるために週15時間の活動が義務付けられる。しかし、その活動内容は、単に会社でのインターシップや労働だけではない。履歴書の作成、積極的な求職活動、就職面接、就職に必要な研修、など、就職に必要となるさまざまなことが含まれている。あくまでも目的は就職支援であり、給付金に対する対価を求めるものではないのだ。しかし、就職活動をしなかった場合には、個人の状況を考慮した上で制裁措置が講じられる予定だ。働く意思がなければ、必要に応じて支払いを一時停止または取り消される可能性もある。ただし、例外もあり、「障害、障害、または健康上の問題を抱えている人」や「シングル家庭で、12歳未満の子供を持つ人で保育の手段がない人」などはこの義務の対象ではない。RSA受益者が「個人生活や家庭生活で困難に直面している」場合にも調整が可能だ。

この週15時間の就職活動義務は、2024年にはすでに7万人以上が試験的に体験しているが、結果はおおむね良好であった。

「(過去12カ月間に実験の恩恵を受けた)RSA受給者の54%は、ある時点で職を見つけ、90%が支援に満足しており、50%が非常に満足しており、支援は受給者に全体的にプラスの効果をもたらしていることがわかっている。支援を受けた受給者は『自信と行動力の向上』が見られ、同様に『権利を求めることや健康に取り組むことへの壁が取り除かれる』ことが確認された。」

一方で、週に15〜20時間の活動という目標には検討の余地があることもわかっている。なぜなら、就職することが比較的たやすい受給者はこの目標時間を達成するのは簡単だが、より困難な立場の受給者には難しい場合もあり不平等ともいえるからだ。このことは受給者との信頼関係に影響を与えたり、場合によっては受給者がRSAを断念することにもつながっていく。また、分野によってはこの方法が不適切な場合もある。例えば自営業を目指す場合、どこまでを就職活動ととらえるかは判断が難しい場合もあるという。

こういった問題点は、今後、この改革が運用されながら必要に応じて改善されていく予定だ。

なお、この強化された支援にかかる平均費用は提供される支援の種類によって、受給者一人当たり600ユーロから1200ユーロであり、「特定の問題」を抱える人の場合は4000ユーロにまで上昇する可能性があり、受給者の状況により支援の負担は大きく変わることは言うまでもない。

■ 社会復帰できるフランスに

フランスにおいても、日本でいう生活保護であるRSA受給についての意見は二分化している。「必要なシステム」と考える人もいれば、「受給者は怠けもの」と批判する人もいる。しかしながら、フランスは、日本に比べると圧倒的に社会的弱者に対する支援が不足しているという問題があるのは事実だ。それは、RSAだけに限らず、義務教育機関でも同様でフランスのシステム全体がそうであったと言える。

例えば、中学校では学校の規則や勉強についていけなければ退学させられ、いろんな学校をたらいまわしにされる。その結果、子供たちが自主的に退学していくという問題もあった。卒業資格もなく職業技能も身に着けていなければ就職もできない。就職もできなければ貧困に陥る。これがフランスの失業率が高い原因にもなっていたのだ。

それでももちろん何も支援してこなかったわけではない。RSAのような金銭的な援助があったことは間違いない。しかし、ただ生きるのに必要な最低限のお金が渡されたからといって、仕事を探す方法がわからない場合は状況を変えることもできないのだ。なにをすればいいのかがわからないからこそ、社会から排除された存在として生きることになっていたともいえる。

そのため、マクロン政権では18歳まではなんらかの教育を受けることを義務づけたり、18歳以上に対しても研修機関や支援機関を増やすなどの積極的な就職支援を実施してきた。今回のRSA改革もその政策の一つだ。支援が増え社会に参加できる機会が増えれば、疎外感を感じていたRSA受給者の尊厳の回復も見込めるだろう。また一方で、補助金目当てで故意に働かない受給者にもこの政策は効果がある。

RSA改革は決して手当を受けるための条件ではない。支援が増えるという点で、今まで支援がないために受給者という立場を強いられてきた人々に対して大きな価値をもたらす改革となるだろう。

参考リンク-

2024年にRSAを受けるための条件は?

2025年1月1日から全面的に適用されるRSAの改革について知っておくべきこと

「RSA受給者の5人に1人が受給から10年後も受給中 By Marianne with AFP

2025年1月1日のRSA配分:資格を得るには本当に週15時間働く必要があるのか?

RSA:2024年3月から新たに29のデパートメントで15時間の活動を実験的に実施

失業:求職者にはどのようなカテゴリーがあるか?

トップ写真:ローマ法王フランシスコとエマニュエル・マクロン仏大統領(2024年12月15日、フランスのアジャクシオにて)出典:Photo by Vatican Media via Vatican Pool/Getty Images




この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー

日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。

Ulala

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