マクロン大統領、最後の切り札? バイル氏に託されたフランスの未来
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・フランスのバルニエ内閣が内閣不信任案で総辞職し、バイル氏が新首相に任命された。
・バイル氏は財政赤字縮小や不法入国者対策に取り組む必要がある。
・すでにフランス国民の61%がバイル氏を信頼しておらず、政治不信が広がっている。
フランスの議会下院にあたる国民議会において、12月4日、62年ぶりに内閣不信任案が可決された。9月に発足したバルニエ内閣はわずか2カ月半で総辞職に追い込まれたことになる。フランスでは、7月の国民議会の選挙で与党が過半数を占められず、左派や極右政党が躍進した厳しい政権運営が続いている上、首相も3回も変わる事態となっている。そしてついに、13日、エマニュエル・マクロン大統領は今年4人目の首相として中道政党「民主運動」のフランソワ・バイル氏を任命した。
バルニエ内閣が総辞職に追い込まれた原因は、財政赤字を縮小するために国の支出を減らすことをもりこんだ、社会保障に関する予算案を強行採択したためである。これに反発した野党が内閣不信任案を付けつけたのだ。この結果、2025年の予算案を今年末までに決めることも難しくなった。だが、このようなフランスの政治不安は国内の問題だけでは終わらず、国の信用にも大きくかかわってくる。現にムーディーズ・レーティングスは、「次期内閣が来年以降、財政赤字の規模を継続的に縮小できる可能性は、現在のところ非常に低い」と判断し、フランスの信用格付けを「Aa3」に引き下げたのだ。
現在、解決しなくてはいけない問題がすでに山積みであり、解決するためにかなり高度な政治手腕が求められている新首相のバイル氏。まずはいかに多くの議員から支持される予算案をまとめあげ、採択までこぎつけられるかが最優先課題となっている。
■ フランソワ・バイル氏とは、どんな人物か?
バイル氏は、シラク大統領だった時代の1993年に国民教育大臣に任命され、4年以上その職を務めたベテラン政治家であり、中道政党「民主運動」の創設者兼指導者だ。バルニエ氏が首相に就任した際、第5共和制で史上最高齢と言われたが、バイル氏もバルニエ氏と同じ73歳である。
「フランスの政治は長年にわたり、嘘と幻想、虚偽の約束、人為的な分裂によって腐敗してきた」と主張していたバイル氏。2012年には個人的にフランソワ・オランド大統領に投票すると決意し、ニコラ・サルコジ氏から遠ざかった。そして2017年の大統領選でマクロン氏への支持を表明。これがマクロン大統領誕生につながったともいえ、第一次マクロン政権では大臣にも就任した。
バイル氏は、2014年3月にほぼ63%の得票率でポー市長に初当選し、その後、2020年にポー市長に再選されている。バイル氏がポー市長時代にも、マクロン氏との交流は続いていた。例えば、ポー市で、水素エンジンを搭載した18メートル車両を導入した世界初のバス路線が開通したときには、マクロン氏がポー市に駆け付けた。水素はエネルギーとして使うとCO2を排出せず究極のクリーンエネルギーと呼ばれており、EUでも次世代エネルギーとして期待されている。その未来の燃料で動く世界初のバス路線となれば、大統領が式典に参加するのは理解できる話だ。しかし、マクロン氏がポー市が開催する式典に参加したのはそれだけではない。その後も、ポー市の小さな文化センターの開幕式にまで参加しており、住民も「なぜこのような小さな式典に大統領が?」と首を傾げたほどである。その状況を見てもマクロン氏とバイユ氏の親密さがうかがえるだろう。
バルニエ政権では、国会と大統領の不和説、決裂説、マクロン大統領の孤立説などをメディアが書き立てた。第2次マクロン政権は、まだ任期5年の約半分を残している。大統領としては、国会との連携を固める必要がある。そういう意味では、バイル氏ほど適任の人物はいない。
実際、首相に任命された後のインタビューでも、大統領と国会の対立を否定していており、自分は、共和国大統領と「完全に連携し、補完性を持った首相」となると答えている。そして、「マクロン氏は、大胆さと勇気をもった人物」と評価した
■ フランスの大きな課題
政治経験も豊富であり、大統領と十分連携をはかれる人物が首相になったとはいえ、フランスが抱える大きな課題を解決していくことは並大抵のことではない。バイル氏もそのことは認識しており、インタビューでも、フランスが「ヒマラヤのようにそびえ立つ課題に直面していることを十分に認識している」と述べ、その上で、「何も隠さず、何も無視せず、何も脇に置かない」ことを誓っている。
バイル氏の目下の課題は、2025年度の予算案の成立だ。いかに、財政赤字を減らしていく予算案が建てられるかが重要点となってくる。バルニエ内閣の予算案では、財政赤字の対国内総生産(GDP)比率を今年の6.1%から5%に引き下げるために、社会保障の国の負担額を減らす案が盛り込まれていた。しかし、その案は野党からの大きな反対にあい、総辞職を余儀なくされたのだ。しかし、このままいけば、ムーディーズ・レーティングスの予想通り、今後数年にわたり財政が大幅に悪化していくだろう。それを食い止める案をだすことが求められている。
また、不法入国者に対する国民の不安に対しても、迅速な対処が求められているところだ。すでに、その件に関しては、バルニエ内閣にて内務大臣であった、ブルーノ・ルタイロー氏と話し合いが行われた。
いずれにせよ、この夏に行われた解散総選挙後に誕生したどの勢力も過半数を持たない国民議会をまとめていけるかが、今後のカギを握っている。
■ 今後の政治に不安を隠せないフランス国民
JDDのCSA研究所が発表した調査結果によれば、すでに、フランス人の61%がフランソワ・バイルを首相として信頼していない。これだけ政治不信が続けば当然のことともいえるが、今年、存在した4人の首相の中で最低の評価となる。具体的な数字としては、エリザベス・ボルヌ氏が47%、ガブリエル・アタル氏が52%、ミシェル・バルニエ氏が58%だ。首相が新たに任命されるたびに、フランス国民の不信感が募っていっていることがうかがえる。
フランスは社会保障が手厚いが、税金も高い。しかし、税金は高いが、今年は特に支出と収入のバランスがとれず、財政赤字が膨らんだ。しかし財政赤字が膨らんだとしても、物価高騰で苦しみ、南米南部共同市場(メルコスール)との協定で農家がピリピリしている中で、さらに社会保障費が減らされる話が出たとなれば、国民が生活に不安を感じることは間違いない。
前途多難となると予測される内閣運営ではあるが、それでも誰かがやり遂げていかなければいけない。これらの要求にどのような解決策を見つけられるのか?今後のバイル氏の動きが注目されるところである。
トップ写真)エリゼ宮殿で記者団に声明を発表する民主運動党首のフランソワ・バイル:フランス、パリ – 2022年6月21日
出典)Photos by Antoine Gyori/ Corbis via Getty images
参考リンク
フランソワ・バイルーは、マクロンと「補完性の首相」になると言っている
ライブ中継、フランソワ・バイルー首相:ラ・フランス・アンシュミーズは月曜日にマティニョンで行われる協議に参加を拒否
税金、年金、社会計画…:フランソワ・バイルーを待ち受けるホットな課題
調査:61%のフランス人がフランソワ・バイルーを首相として信頼していない
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この記事を書いた人
Ulalaライター・ブロガー
日本では大手メーカーでエンジニアとして勤務後、フランスに渡り、パリでWEB関係でプログラマー、システム管理者として勤務。現在は二人の子育ての傍ら、ブログの運営、著述家として活動中。ほとんど日本人がいない町で、フランス人社会にどっぷり入って生活している体験をふまえたフランスの生活、子育て、教育に関することを中心に書いてます。