中国共産党、“異様”な中央政治局会議開催
澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)
【まとめ】
・習近平主席が中央政治局会議を『前倒し』で開催。評論家は「異常なこと」と指摘。
・異例なことに政治局委員の4割近くが欠席。そのほとんどは習主席の側近。
・習主席が突如、四川省訪問。目的は軍幹部訪問か。政治局会議“前倒し”は、自らの政治生命が絶たれるとの危機感からか。
最近の『人民日報』(a)によれば、中国共産党中央委員会政治局は、今年6月17日午前中に政治局会議を開き、午後には第40回集団学習会を開催したという。
『万維読報』(2022年6月18日付)に「習近平主席が中央政治局会議を『前倒し』で開催、再び異常なシグナルが現れる」という刮目すべき記事が掲載(b)されたので、取り上げたい。大雑把な拙訳は次の通りである。
通例では、6月末に開催される予定だった政治局会議が、突然“前倒し”された。そして、その会議に18人中7人の政治局委員が欠席している。
他方、習主席の権力闘争手段と見なされる「反腐敗」運動が、新たなシグナルを送っているようだ(ちなみに、「CCTV中文国際」が今度の政治局会議について報じている)。
海外の評論家、江森哲は、まず、政治局会議が“前倒し”されたのは異常なことだと指摘する。
次に、政治局委員の4割近くの欠席者が出ているのも異例だという。外交トップの楊潔篪、孫春蘭・副首相のほか、軍事委員会副主席の許其亮、張又侠、北京市、上海市、天津市(いずれも中央直轄市)のトップ、蔡奇、李強、李鴻忠等の重要人物が欠席した。
この重要な時期に、2人の軍事委員会副主席が会議に出席しなかったのは、何か意味があるのかもしれない。しかも、今回欠席した高官のほとんどは、習近平主席の側近である。
写真)許其亮・軍事委員会副主席(2018年3月18日 北京)。許氏も“前倒し”中央政治局会議を欠席した。
出典)Photo by Etienne Oliveau/Getty Images
他方、習主席は、集団学習会で「経済腐敗」だけを言及し、「政治腐敗」は一切言及しなかった(訳者注―「経済腐敗」は、ごく最近登場した罪名で、李克強首相の“十八番”かもしれない)。この点も注目に値しよう。
公式メディアによれば、習近平主席は腐敗に対する党内闘争の本質を強調し、「負けるわけにはいかない大政治闘争」だと述べた。また、習主席は指導的幹部、特に上級幹部に向けて「自分だけでなく、家族や親族、周囲の人たちもしっかり管理する」よう求めた。
習主席の政治局委員への呼びかけは、第20回党大会を前に、党内闘争の激化を物語っている。
一部のアナリストの分析では、「習近平派」が、今まで党内の権力闘争過程で優位に立っていたのは、主に中央紀律検査委員会と国家監察委員会の合同事務局、すなわち、現代の“超国家体制”に依存していたからだという。
また、習主席は再び“汚職撲滅”を利用して、秋の党大会前、共産党上層部に打撃を与えようとしているのではないかと指摘されている。
カナダの学者、呉国光は、近頃、海外で国内の〔活発な〕「反習」活動が噂されているが、習主席にとって良くない兆候であり、主席は黙って死を待つことはしないだろうと予測している。このままでは、主席の政治生命が危うくなる公算があるという。
以上が記事の概要である。
さて、6月8日、習近平主席が突如、四川省眉山市に現れた(c)。丁薛祥・党中央弁公庁主任、劉鶴・副首相、何立峰・国家発展改革委員会主任、王暁暉・四川省書記(同省トップ)、黄強・四川省長等が随伴している。
実は、6月1日、四川省雅安蘆山でマグニチュード6.1の地震が発生した。同地域は習主席の視察した眉山から約100キロも離れている。結局、主席は被災地を視察しなかった(d)。
一方、6月9日、習主席は成都に駐在する大佐以上の軍幹部らと接見した。この主席の軍視察は、軍権誇示のためだったのかもしれない。そこで、習主席の四川省訪問目的が、被災地の視察ではなく、西部戦区訪問だったことが明白となった。
ひょっとして、習主席は西部戦区の「旧第14集団軍」(薄一波・元副総理が創設し、約10年前、薄熙来・元重慶市トップが動かしたとされる)を自分の味方につける算段だったのではないだろうか。ただ、習主席の思惑通り、西部戦区が主席側に付いたになったかどうかは不明である。
おそらく、習主席が政治局会議を“前倒し”開催したのは、このままでは、自らの政治生命が絶たれると考えたからかもしれない。主席の焦りが垣間見られよう。
ところで、6月17日、政治局会議に7人もの政治局委員が欠席したのは、一体、なぜだろうか。目下、彼らは「反習派」に染まった中央規律検査委員会に調べられている可能性を排除できない。
(注)
(a)「中国共産党中央委員会政治局会議が開催される。
『第19期中央第8回金融機関の是正状況についての報告』を審議した。習近平総書記が会議を主宰」(2022年6月18日付第1面)
(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-06/18/nw.D110000renmrb_20220618_1-01.htm)。
「習近平主席は中国共産党中央委員会政治局第40回集団学習会で強調。
『三不腐敗主義』の能力とレベルを向上させ、腐敗との困難で持続的な戦いに総合的に勝利する」(2022年6月19日付第1面)
(http://paper.people.com.cn/rmrb/html/2022-06/19/nw.D110000renmrb_20220619_1-01.htm)
(b)『万維読報』
「習近平主席が中央政治局会議を『前倒し』で開催、再び異常なシグナルが現れる」(2022年6月18日付)
(https://video.creaders.net/2022/06/18/2495681.html)
(c)『万維読者網』
「習近平主席が視察で四川省に登場、やや意外な光景に」(2022年6月8日付)
(https://news.creaders.net/china/2022/06/08/2492161.html)
(d)『中国瞭望』
「習近平主席はどうして四川省の被災地に行かないのか、新華社は困惑」(2022年6月10日付)
(https://news.creaders.net/china/2022/06/10/2492792.html)
トップ写真)習近平国家主席(2022年4月8日)
出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長
1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。